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 ⑨③

1週間後の深夜に突然、スマホが鳴った。ディスプレイに表示された父親の文字に圭介は飛び起きた。電話に出ると急いで部屋を出た。マリヤに聞かれたくないからだ。


階下へ向かう。キッチンに入り冷蔵庫からりんごジュースを取り出しグラスに注いだ。リビングのソファに座るとようやく落ち着けた気がした。


「起こして済まなかったな」


「全然良いよ」


「なるべく早くお前に知らせたかったもんでな」


「うん。ありがとう。それで何かわかった?」


「あぁ。既に退職している昔の馴染みに片っ端から連絡をしたら、それなりにわかったぞ」


「やっぱり英永剛はラピッドの社員だった?」


「いきなりそこか。まぁいい。どの道、英永剛のバックボーンはまるっきりわからなかったからな。だからわかる部分としては殺人鬼としての英永剛の事くらいだ」


「うん。それでいいよ」


どっちみち圭介自身も英永剛がどういった人生を送って来た等のバックボーンなんてさほど興味はなかった。


「だが恐らくは父さんが聞いたのが全てじゃない筈だ」


「うん」


父親が聞いた殺人の数も気になるが、やはり圭介としては英永剛のあの殺した後の人間とは思えない地道な作業についてだった。とんでもない時間と労力をかけてまでな何故あそこまでする必要性があるのか、その精神的な部分を知りたかった。


「それでだ、結局の所、英永剛は社員ではなかった」


「と言うと?」


「簡単に言えば、ラピッドがターゲットに選んだ人物をシェフが始末に向かった先に英永剛が先に来ていて、既にターゲットを片付けていたと言う事があったらしい」


「鉢合わせたんだ?」


「そういう事になるな」


「漂白者とやり合ったのかな?」


「そうはならなかったらしい」


「へぇ。意外だな」


「誰もがそう思うだろうな」


「そうだね。漂白者としてはターゲットを殺害しに来たのだからね。そこにターゲット以外の人間がいるという事は、そいつが漂白者の目撃者になってしまうって事だし。その鉢合わせた人間がいきなり大声を出したり、逃げ出し近所に助けを求めたりされても困るし。それにあり得ないだろうけど、漂白者をはめる為に既に警察に連絡されていたりすれば、こちらとしてはたまったものじゃないからね。だから普通なら生かして置くわけにいかないよ」


「その通りだ。だが英永剛は違ったようだ」


「どう違ったの?」


「シェフに向かって英はいきなり手伝ってくれない?と聞いて来たらしい」


「手伝う?」


「あぁ。自分が殺した人間の後始末をさ。

英永剛はシェフの事をその家の人間だとも、目撃者だとも、警察だとも思わなかったようだ。

これは推測だが、英永剛はただ死体の処理が上手くいかなかった為に、現れた人間に対して純粋に手伝って貰いたかったのだろうな」


「で、シェフは手伝ったわけ?」


「あぁ。手伝ったようだ。その時の処理人は父さんと古い中でな。その事は良く覚えていたよ。死体を持って来たシェフが2人もいたから驚いたってな。そりゃそうだ。基本、シェフは1人で仕事をこなす。複数で仕事をこなす人間なんて聞いた事もなかった。それは今も同じだろうが、だからそいつは現れた2人に対して、1人は見知ったシェフだったが、もう1人はしらなかった。だからシェフが警察に捕まったのだと思い観念したと思ったって笑いながら話してくれたよ。それにシェフも処理人もだが、昔は今と違って横の繋がりが強かったから余計にそう思ってしまったのだろう」


「絆ってやつかな」


「そんな綺麗なものじゃないさ。単なる保険であって、自分1人じゃないと思いたい為の繋がりに過ぎないさ」


「保険、ねぇ」


「自分が捕まりでもしたら、お前も道連れにって理由での繋がりだ。だからお互いを強く信じるしかなかった。裏切るなよ?俺はお前の仕事は一切の証拠も残さずきっちり終わらせてやる。だから裏切るな、と言う無言の圧力をかけ合っていたのだろうな」


「なるほどね」


圭介はそこで、一旦言葉を切った。りんごジュースを口に含み飲み込んだ。


「それから?」


「手伝ってとお願いされたシェフもシェフだが、そいつは英永剛が死体に向かって何かをしているのが、気になっていたそうだ。だから凶器は掴んだまま英永剛の横へと移動した」


「うん」


「見ると英永剛は死体の顔に5キロの鉄アレイの握る部分を押し付けていた。それを力を込めて前後に転がしていたらしい」


「え?それどういう事だろ」


「何でも、上手に顔が潰せない。鉄アレイじゃ幾らやっても潰れてくれないんだよって震えた声で言い続けていたらしい。それでシェフは英永剛から鉄アレイを奪って丸い部分で死体の顔面を殴り潰した。ほら、こうすれば簡単に潰れるだろ?と言うと英永剛はそんな事はわかっている。これは綺麗じゃない。自分がやりたいのはそうじゃないと怒りシェフから鉄アレイを取り、又、握る部分を使い潰された顔を丁寧に慣らしていたそうだ」


「まるで蕎麦やうどんを作る過程みたいだよね」


「あぁ父さんもそう思ったよ」


「けどどうしてそんな事をやりたかったのかな」


「わからないな。だが、その行為は今、英永剛が死体をペースト状にまでするようになったきっかけではあるのは間違いないだろうな」


「でも父さん」


「何だ」


「英永剛って轢死を殺害方法にしてた筈じゃなかった?」


「そこの部分が良くわからないんだが、恐らくは死体を綺麗に潰す為には殺す時に骨まで砕いて置く方が楽だと考えたんじゃないのか?」


「それはわかるけど、なら何故、その死体を遺族の家などに捨てたりしたんだろう?英永剛は最終的には死体を綺麗に潰したいわけでしょ?ならどうしてだろう?」


「それはわからんな。ただ、死体を上手く潰せなかったせいで、失敗だと考え、そのような行動に出たのかも知れない」


「あんたの家族は死んでからも失敗してしまうようなつまらないものなんだと?」


「英永剛の気持ちはわからないが、想像するならそう言う事が腑に落ちる気はする」


「なるほどね。で、父さん、その後はどうなったの?」


「その後?あ、あぁ。シェフは英永剛に謝り、事の次第を話して聞かせた。直ぐに逃げなければならない事、処理人と言う者が死体を片付けてくれる事を話した。最初、英永剛は頭を振り、この死体は自分の物だ、勝手に処理なんてさせないとシェフの申し出を頑なに拒んだようだ。だが、このままではマズいと感じたシェフはある条件を英永剛に提示した」


「どんな?」


「英永剛に、殺害依頼をしてやると言う約束をしたんだ。だから今回だけはとりあえず譲ってくれとお願いをした。英永剛は渋々だがその条件を飲み、2人で死体を運び出し処理人の所へ向かった。勿論、圭介も分かっているだろうが、殺害した後は、ラピッドに一報入れる事になっている。それが終わると数分もしない内にラピッドの社員が現場に来て後片付けをする。その時間を作るために出来るだけ早く現場から死体を運び出さなければならない」


「そうだね」


「そのシェフは何とか英永剛を連れ処理屋の下へと向かった。そして父さんの知り合いの処理人に会ったってわけさ」


「でもさ、そんな約束をしても、その漂白者の殺害依頼が来なければ英永剛に仕事をさせられないよね?」


「その通りだ。だが今はどうか知らないが、当時はシェフ自体の数が少なかった筈だから、それなりに依頼があった筈だ」


「そうなんだ」


「あぁ」


「なら、その後でその漂白者に依頼された案件をその漂白者が英永剛に回していたのかな」


「恐らくな。だからその後、依頼された約束の時間になっても死体が運ばれて来なかったと言う事も少なからずはあった。そのような話も父さんの知り合いから耳にした事もある。父さん自身が受け取りに行った時は、そのような事はなかったが、少なくとも他の処理人の時には最低でも運ばれて来なかった死体は数体はあった筈だ」


「と言う事はその運ばれて来なかった死体が、遺族の玄関などに、捨て置かれた死体って事になるのだろうね」


「多分そうだろう」


「でも、それじゃ仕事は失敗って事だよね」


「あぁ。だから問題になってな」


「うん」


「そのシェフは殺された」


「え?」


とは言ったものの有り得ない話しじゃない。だが、それならラピッドを退職するという手もあったのではないか。


「で、そのシェフの殺害を依頼されたのが英永剛って話だ」


「嘘?マジで?」


流石にこれには圭介も驚いた。一体、ラピッドはどうやって英永剛の存在を知ったのだろうか。


そこまで考えて、直ぐに理由がわかった。

ラピッドは漂白者や処理人の個人情報をデータ化しているのだ。所在地など簡単に割れてしまう。ただ、当時がどうだったかわからないが少なくとも漂白者に依頼が出来ている時点でコンタクトを取る方法はわかっていた。


となればそこで、張っていれば住居がわからなくとも調べる事は可能だ。そしてやがて英永剛の存在に気づき接触を図った。ラピッドが英永剛にどんな条件を提示したのか知らないが、とにかくラピッド側へと引き込む事が出来、その漂白者を殺害するに至ったという事だろう。


「本当だ」


「なるほど。そういう事か。何となく想像はつくよ」


「そうか」


「ちなみに他にわかった事はある?」


「英永剛については、似たり寄ったりの話が少しあった程度だが……」


「だが?何」


「いっとき、フリーの殺し屋がいる、そいつは見境なく殺人を犯すそうだという噂が流れた事があった。今思えば、その殺し屋が英永剛だったのかも知れないな」


「多分、父さんのいう通りだと思う」


圭介はそう言った。


「なぁ圭介」


「何?」


「この件にはあまり深入りはするんじゃないぞ?」


「わかってる」


「お前が死んだら母さんが悲しむからな」


「うん、わかった。気をつけるよ」


そう伝え圭介ありがとうと告げた。そして電話を切った。





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