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神草早苗の自宅は31歳の女性に似つかわしくない風呂無し、共同トイレのおんぼろアパートだった。
4.5畳一間で、こじんまりとしたキッチンとガス台がある。
だが敷きっぱなしの布団の上以外はゴミ袋が山積されていていわゆるゴミ屋敷ってやつだった。
その部屋で、唯一足の踏み場となれる布団の上に土足のままの三田が、ヤンキーのような座り方をしていた。
外に車がなかったので他の者が帰っているのはわかってはいたが、まさか三田が最後まで残っているとは思いもしなかった。
泡沢からしたら意外であった。何故なら、三田はどんなヤマでも、仕事が早い。
つまり迷いなく自分の仕事をテキパキとこなし、直ぐに次の仕事にかかるというのが常だった。
だから三田がこうして1人残っているのは、勿論、今までは、一度も見た事がなかった。
そんな三田が残っているというのは、なんらかの理由があるに他ならないと泡沢は考えた。だが2人の姿を認めると即座に立ち上がり、帰り支度を始めた。
「遅いぞ」
「すいません、道が混んでまして…」
咄嗟に出た嘘は泡沢の気持ちをしょげさせた。
「こんな部屋だから土足でも構わないと一階の大家の許しももらっているから、遠慮するな」
「あ、はい」
「ちなみに、終わったらそこにある鍵を大家に返却してくれ。あ、3号室な」
「わかりました」
泡沢とチッチはそう言った。
「しっかり施錠も忘れずに」
2人は頷いた
「ところで三田さん?」
「何?」
「何か目ぼしいものは見つかりましたか?」
「一つ以外は何も出なかったな。でも、まぁ。お前が見たらまた違ったものが見つかるかも知れない」
「その目ぼしいものってのは何ですか?」
泡沢が尋ねると、三田は胸ポケットに手を差し込み、一枚の写真を取り出した。
泡沢はそれを受け取った。そこに店主の身体に寄り添い腕組みをしている笑顔の神草早苗の姿があった。
そしてその2人の顔と顔の間から、自分も!とアピールしようと覗き込んでいるサングラスをかけたボーイッシュな短髪ヘアの女性。それを見た瞬間、泡沢のチンポが勃起した。
「店主と神草早苗は出来てたようだな」
三田が泡沢とチッチの肩をポンっと叩く。
手を差し出した。写真を寄越せという意味だった。
「取り敢えずは神草の居場所を突き止めるのが先だな」
「このもう1人の女はどうしますか?」
「女?」
「ええ。2人の間から覗き混んでる女ですよ」
「これが女?お前にはそう見えたのか?」
「女ですよね?」
「俺には男に見えるが…チッチはどうだ?」
と三田が尋ねると、チッチも男に見えると言った。
店主と神草は互いに大柄な体躯をしているようだ。
後ろから写ろうとしている女、三田とチッチは男といったが、爪先立ちをしていた。
2人の足が邪魔をして後ろの人間の足はほぼ見えない。僅かにスニーカーを履いているというのがわかるだけだった。
それにしてもよくここまで隠れられたものだと泡沢は思った。まるで心霊写真だ。そう思うとこの背後の女は意図的に写り過ぎないようにしたのかも知れないと勘ぐってしまいたくなる。
まぁ。カップルの2人の邪魔をしないよう気遣ったと、捉える事も出来るし、狙って心霊写真風に撮ったともいえる。
そのどれかが当たっていたとしても、それを証言出来る人間は2人しかいないという現実に少しだけイラついた。
行方不明の神草と背後の女しかいないからだ。だが出来るだけ早くどちらかは見つけなければ、下手すると事件は長引く可能性もある。
今は半数近い刑事が神草の行方を追っているから自分らが2人のうち、どちら優先する必要があるかは泡沢にはわかっていた。
当然、心霊的な写り方をしている女だ。勿論、半数近い刑事が神草の行方を捜索しているからではない。
この泡沢のチンポが勃起したのだ。事件の真相を握っているかもしれないと、チンポが教えてくれたからだ。
だから見つけなければならないのは絶対的に神草よりも背後の女だった。恐らくこの女は、事件に大きく関わっている筈だ。
「おい。いくらパートナーだからといったって、チッチも女だぞ?ズボンの前を、さもあからさまに膨らましてたら、チッチだって目のやり場に困るだろ?」
「先輩?本当、三田さんの言う通りですよ。レディの前なのにデリカシーがなさ過ぎます」
チッチはいうと、三田の方に振り返った。泡沢の前に立つような格好だった。まるでさっきの写真のようだ、と泡沢は思った。まぁ、写真と違いこちらの方が背が高いから丸わかりではあるが…
チッチは後ろ手に周した手で、勃起した泡沢のチンポを掴んだ。三田に泡沢の無神経さを訴えながら、泡沢のチンポをまさぐる。どっちが無神経だよと、鼻息が荒くなるのを堪えながらそう思った。
三田が部屋を出てからしばらく経ったが、あの写真の時のような、チンポの反応はなかった。
チッチも色々と手伝ってくれた。狭いスペースだから何かを探すのは楽だろうとたかを括っていたが、やはり甘かった。山積みにされたゴミ袋はほぼ天井近くまで積み上げられていて、よくもまぁ、崩れないものだなと感心するほどだった。
「このゴミ袋の中身、全部確認するけど、良いか?」
「マジで言ってます?」
「マジだよ」
「ゴミですよ?」
「わかってるさ」
「中身を確認するにしても、この部屋の中では無理じゃないですか?」
「無理なのを承知でやるのが刑事なんだよ」
「一つの袋をあけて中身を出す場所すらないんですよ?それでどうやってこのゴミ袋の山の中身を全部、調べるんです?」
チッチの言う通りだった。第3の女の存在にばかり気が行き過ぎて焦っていたらしい。
三田が持って帰った写真以外にも、この女が写っている物がある筈だ、それがこのゴミ袋の山の中にあるはずだから、急いで探し出さなければと思い過ぎていた。
ここはチッチの意見に従って、事件性を加味して、ゴミの山を署員に引き取らせる手続きを踏んだ方が良さそうだ。
泡沢は署に連絡を取った。しかし、だがそれは既に三田が手を打っていた。電話を切ると数台の車のブレーキ音が聞こえて来た。外に出てみるまでもない。
手配された署員達が数台のハイエースでやって来たのだろう。泡沢はチッチに外へ出るよう促した。
「先に行くぞ」
泡沢はいいゴミ袋の山を踏みつけ登り越えていく。
天井に頭がつきそうなほどのゴミの山を登り、低い体勢のまま足から降りれるように体勢を変えようとしたその時、視界の隅にチッチが目に入った。袋を破り、その中に手を突っ込んでいる。引き出すと同時に掴んでいた物をポケットに入れた。
何か見つけたのか?と言おうとした瞬間、泡沢はゴミ袋の山から滑り落ち、その勢いのまま、床についた反動で玄関へと飛ばされドアに激しく頭をぶつけてしまった。その勢いでドアが開き、開くと同時に多くのゴミ袋が泡沢を下敷きにするべく外へと雪崩れ落ちていった。




