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「まだ、凶器は見つからないのか!」
署に戻って直ぐ、警部の怒声が耳を突き刺した。
人気ラーメン屋店主を殺害した凶器は棒状の、鉄パイプや棍棒のような物という事まではわかっていたが、未だそのような物は発見出来ずにいた。
そもそも、ドラマであるような殺害後に凶器を捨てるという行為は、中々あるものでは無いと泡沢は感じていた。
突発的犯行であれば、無い事もないが、今回のように、集中的に頭部だけ狙って殴り殺したというケースでは、犯人は冷静さを保っていられたと考えられる為、凶器を捨てたと決め付けるのはとてもナンセンスな話だと考えていた。
けれど警部が言いたくなる気持ちも泡沢にはわかった。凶器がみつかれば、指紋が採取出来るかもしれない。
採取出来たら、過去に犯罪を犯した者かどうかもわかるかも知れないし、そうなれば犯人を絞る事も可能だ。
だからこその凶器発見へ血眼になるのだ。だがそんな事は警部だって重々、承知している筈だ。捜査員全体にハッパをかける為、言わなくてはならなかったのだ。
リーダーという者は、時に理不尽な言動で下の者を引っ張って行かなければならない。下の者に好かれるのは理想だが、刑事という職業柄、中々そうもいかない。
だが犯人検挙という目的が一致している為、例え嫌いな者でも、仕事に手を抜くという者は、うちの部署内ではいなかった。リーダーたる者嫌われてなんぼという時代はとっくに終わっている昨今、それでも嫌われてでも、足を動かせる為、怒声を飛ばす存在が刑事という職業のリーダーというものなのだ。
「泡沢!」
名前を呼ばれたというそれ自体で、自分が調べてきた事を報告しろという意味だった。
「手掛かりになるようものは、一つとしてありませんでした」
「て事は、やっぱりもう1人の従業員を見つけ出さなければ進まないってやつか」
「恐らくは」
泡沢はいった。
「その資料をみて、何か感じるか?」
「資料?ですか?」
「デスクに置いてあるだろう」
泡沢は急いでデスクに戻ると置かれてある、今現在行方が掴めない従業員の女性の資料を手に取った。
神草早苗 31歳 独身。この店で働いている中で一番の古株だった。泣きぼくろとエクボが印象的な女性で、中々の美人だった。
だが、見る限り幸薄い感は否めない。そんな神草を見ても、泡沢のチンポは無反応だった。
「どうだ?」
「ダメですね」
「しっかりシコったんだろうな?」
「はい」
「にも関わらず、反応なしか…チッチはどうだ?」
「私ですか?」
「女からみて、そいつはどう感じる?」
チッチは自分のデスクではなく、泡沢の資料へ手を伸ばし、それを眺めた。
「友達は少なそうなタイプに思えます。もしかしたら1人もいないかもしれません。どちらかといえば、同性から嫌われるタイプのような気がしますね」
「嫌われる理由は?」
「警部、女から嫌われる女って、さしたる理由なんてないですよ。直感的というか、本能といいますか、例え良い人間だとしても、泣きぼくろがあり、少し寂しげな表情を見せる事が出来るのは同性からは必ず嫌われますね。ですが、男性にはかなりモテてた筈です。こういったタイプは、尽くしてくれそうに思われがちですし、それを武器にしていたと思います。だから、男尊女卑というか、亭主関白な男には人気があったでしょう。ですがこのタイプは私が一番嫌いな女ですよ」
「個人の意見はどうでもいいんだよ」
警部にそう言われたチッチは軽く舌打ちをした。
「店主はどんな性格だった?」
三田が即座に応えた。
「チッチの言ったように、店が人気というのもあってかかなり横柄なタイプだったようですね。第一発見者の菅原美沙子に対しても、平気で怒鳴りつけていた事もざらにあったようですから」
「店主と神草が出来てた可能性は?」
「充分あります。ですが、確固たる証拠はありませんが」
「そうか…ガイシャは死亡、ガイシャと関係があったと思われる女は行方知れず、か」
「神草の自を張っている青柳達に連絡して、何か出たか教えろと伝えろ。店主とデキていたなら、写真くらいあるだろ。もし、あったら、泡沢を向かわせる」
警部は事務の婦人警官にそう告げると、椅子の背もたれに身体を預け目を閉じた。




