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 ⑦②

二学期も半月が過ぎた頃、赤津が親の仕事の関係で四国へと引っ越しする事になった。


恐らくそれは嘘で赤津悠太の死が引き起こした近所からの嫌がらせのせいだった。


イタズラ電話や変な手紙が送られて来ていたのは赤津から相談を受け僕も知っていた。赤津は気にしていないと言っていたが、両親はそうではなかったらしい。


つまり赤津悠太という男は元々、評判が悪かったのだろう。でなければ、引越しを迫られる程、嫌がらせを受ける筈がないからだ。言ってみれば赤津悠太は単なる被害者に過ぎない。なのに引越しせざるを得ない現実があるという事は、つまりは常日頃から近所からは疎まれ嫌われていた。そういう事なのだろう。


引っ越し前夜、僕は丸一日、赤津を抱いた。

赤津がそれを望んだからだ。


「妊娠してたら私1人でも育てるから」


「そんな事はさせないから、妊娠してたらちゃんと話してね」


赤津は頷き嬉しそうに笑った。


「毎日連絡するから」


「私も」


それが引っ越し前の別れの言葉となった。


僕は再び、学校に通い、赤津とLINEでやりとりした。


飛田は茂木に代わる新たな友達が別なクラスに出来たようで毎日、そいつと一緒に帰るようになった。

それはそれで僕は良かったと思った。


が、斉藤こだまや小野夢子はそんな飛田の悪口を言いまくっていた。


「仲野部の事はどうでもいいわけ?」


斉藤こだまが言った。


「僕と一緒にいると嫌でも茂木を思い出すからさ。飛田は飛田で辛いのだと思うよ」


「そんなだから、ダメなんじゃん!ね?夢子?」


小野夢子は頷き


「そうよ。大体、仲野部君は優し過ぎるのよ」


と言った。


10月が訪れて夏の思い出が嘘のように姿を消した頃、僕は改めて赤津とのLINEのやりとりを読み返してみた。


僕は赤津が好きだと告げているが、赤津は「私も」としか返してくれなかった。


「私も仲野部が好き」とは絶対に言わなかった。どういう理由からなのか僕にはわからないから、敢えてツッコむような事はしなかった。


そんなある日のLINEには赤津が藤城たつきのお墓参りに行った事、未だにたつきと悠太が殺された事で出来た傷は癒せない事。そして僕に会いたいと告げている返信文を読んで改めて自分がしなければならない事を思い知らされた気がした。


僕は手斧を持ち、部屋を出た。


お父さんは小屋の掃除をしている頃だった。


お母さんは買い物に出かけていない。


お婆ちゃんは町内会の友達に会いに行っていた。


僕は小屋の前に来て手斧から刃カバーを外した。


愛する者が殺されたらどんな気持ちになるのだろう?


赤津の気持ちに寄り添うにはこれしかなかった。


小屋に入るとお父さんはこちらに背を向け、デッキブラシで床を掃除している所だった。


そう言えば昨日の夜中に車が出て行った気がしてたけど、久々に仕事の依頼が来たのかも知れない。


夏休みが終わったからお父さんは約束通り、僕に手伝わせるような事はしなかった。


僕は息を殺し鰐のマスクを被り静かにお父さんの背後へと近づいていった。


愛する者の死は、その死に方によって大きな隔たりがあり、真の深い闇のような喪失感を味わう為には赤津同様、愛する者が殺されなければならない。


「奈々?僕も奈々の気持ちが知りたいんだ」


僕はそう囁き、息を殺し掃除をしているお父さんの背後へと擦り寄って行った。 


自然と手斧の柄を握る手に力が入る。腋から汗が一滴、流れ落ちた。お父さんとの距離が縮まっていく。そして握りしめた手斧を大きく振り上げた。


僕は、僕という人間は、1人の高校生であり、


処理人であり、シェフであり(この呼び方は好きじゃない。漂白者の方がカッコいい)


そして正義を下すアリゲーターマンだった。



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