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「現場についてから抜いても、全然良かったですね」
ラーメン屋から少しばかり離れた場所に車を止めるとチッチは独り言のようにそう呟いた。
「だからチッチが心配するような事じゃないって言っただろ」
泡沢は頬を赤くしながらそう言った。
「今度からはそうさせて頂きます」
車から降り施錠をする。現場には既に多くの野次馬や、鑑識、私服刑事達が集まっていた。
そちらに向かってる最中に、古玉珠世が再び口を開いた。
「ここ1か月、事件なかったからでしょうか」
「ん?事件が無いのは良い事じゃないか?」
「いえ、先輩、随分と溜まってた感じだし、出し終えたなーと思ったら、何故か追いイキみたいに出始めてたので」
「ま、しばらくやってなかったからな。って何言わせるんだ。というか追いイキって何だよ」
「イった後、ビクンビクンってするじゃないですか?その時、残った精子がちょい出たりするのだけど、先輩のはそれがやたら多くて、普通に出し続けてるのかと思いました。それくらい量が多かったですよ」
追いご飯みたいに言うんじゃないと、泡沢は返した。
「でも先輩はめっちゃ早いので楽でした」
「うるさいぞ。もう現場についたんだ。頭切り替えろ」
「わかりました!けど、先輩、イキそうになった時、軽く目を閉じたのはいじらしくてめちゃくちゃツボでした。先輩って可愛いなーて思ったなぁ」
チッチの言葉を無視し、泡沢は臨場した。
店内に入ると異様に脂っぽい香りが鼻をついてきた。
警部の姿はまだない。
渋滞にハマっているのかもなと泡沢は思った。
被害者の男性は名前は佐藤英俊といい、年齢は38歳だった。
人気ラーメン店の店主という事らしいが、店内に書かれてある、格言らしき文言の多くは泡沢を辟易させた。
所謂、ラーメン屋の哲学やら何やらをくどくどと書いてあった。こういう店に来ていつも思うのはそんな物は働いている者が理解していれば良いだけの事であって一々アピールする程のものじゃないって事だ。
正直目障りだし、人気ラーメン店であろうとも、一回来たら二度と来ないだろう。
そんな言葉達を他所に寸胴から引き摺り出された店主の身体は裸のままの状態だった。身体は真っ赤に爛れ皮膚のあちこちで水膨れが起こり、無残な状態だった。
「死因は鈍器のような物で、複数回殴られたのが直接の原因だな」
鑑識の沢さんがそう教えてくれた。
「ホシはこの仏さんの事がよっぽど憎かったのだろうな。息絶えても頭だけを殴り続けたらしい。陥没どころか、頭部がほぼ破壊され脳みそまで飛び出してるよ」
「怨恨ですかね」
既に臨場していた三田がそう尋ねた。
「まぁ。それが妥当な線だろう。だが最近の事件の傾向からして、殺し方で決めつけるのは良くないかもな。だから後は、そこの勃起くんに手掛かりを探して貰った後で、再度、検証した方が良いだろう」
「おう 来てたのか?」
三田がいう
「ついさっき着きました。遅れてすいません」
「道が混んでたからなぁ。仕方ないさ」
三田は良い、ぶくぶくに腫れた死体を運び出すようお願いした。
「警部はまだ来れてないが、すぐに出来るか?」
泡沢は、はいと返事を返した。直ぐにというのは勿論、勃起の意味を指していた。
「よしっ」
と一言発した後で、泡沢は先ず、店裏にある事務所へと向かった。
「おー!ついに勃起刑事の本領発揮する所をお目にかかる事が出来るのですね!私、わくわくしてますよ!」
「それはいいけど、痒みは治ったのか?」
「はい。治りました。私の場合、事件発生前から痒くなりますから。それで、犯行現場に近づけば近づくほど痒くなるのですが、それも現場を押さえたり犯人逮捕となれば、直ぐに痒みは治ります」
「そうなのか」
とこじんまりとした事務所の扉を開け中に入った泡沢だったが、すぐに足を止めた。
「先輩どうしたんですか?まさかもうびんびんに勃っちゃいました?」
「いや、違う。お前の痒みは事件発生前から痒くなるんだったよな?」
「ええ。そうですけど」
「ならどうしてここに来る間、あんなに痒かったんだ?」
泡沢が尋ねるとチッチはキョトンとした表情で泡沢を見返した。
「ここは既に事件が発覚し連絡が来たわけじゃないか?」
「そうですね」
「つまり事件発生後なわけだ。なのにチッチの乳首はめちゃくちゃ痒くなったわけだろ?それっておかしくないか?」
「あ、言われてみればそうですね」
「それに犯人逮捕に至ったわけでもない。なのに痒みは治った」
「です…ね」
「という事は、チッチの乳首が無茶苦茶痒かった場所で、何らかの事件が起きてたか、ここの店主を殺した犯人がその近くにいたのかもしれない」
泡沢がそういうと、チッチは今まで見せた事のない引き締まった表情に変わった。
「先輩、私、殺人事件は初めてなので、だから、あんなに痒くて堪らなかったと思ってました。けど、先輩に言われてみると、確かに痒くなる場所やタイミングで言えば、その付近でなければおかしいですね。それにあんなに痒かった事は一度だってありません。今までになかった痒みですし、殺人事件は既に起こっていた訳ですから、言われてみれば乳首が痒くなるのは不自然です。
とすれば先輩の言うように、痒くなった場所、通り過ぎて来た場所で何かが起こっていたと考える方が腑に落ちます。だから先輩の言っている事は満更間違えてないと言うか、当たっているかもしれません」
チッチがそういうといきなりチンコが勃起した。びんびんってやつだった。
つまり犯人に繋がる手掛かりはこの事務所内にあるという証だった。
「先輩、聞いてます?」
チッチはいい、泡沢の側へ来て覗き込むよう泡沢の顔を下から見上げた。神経質な眼差しを事務所内に向けている泡沢を見て、チッチは直ぐさ股間に目を移した。
「あ、これが噂の勃起刑事ですね!先輩先輩、ね!先輩のズボンがテント張ってますよ!すっごいなー。このチンポが犯人に繋がる手掛かりを発見するわけですね!発見した時って、がまん汁とか出るのですか?それとも大きくないチンコがまさかの巨大化したりするのですか?ねー先輩!先輩!教えてくださいよ〜
あ、でも触ったらさっき抜いた時との違いがわかるかも!」とチッチはいい、泡沢のチンポを触ろうとした。その瞬間、泡沢がその手を素早く叩いた。
「触って言い訳ないだろっ!」
語気を強めた泡沢がそう言った。チッチは渋々、その手を引っ込めた。




