⑥⑧
夏休みも8月の半ばを過ぎると毎朝蝉の鳴き声で起こされるようになった。
どの道、早朝の釣りに出かけるからむしろ迷惑というより有り難かった。
お父さんはいつしか普段と変わらないようになり、お爺ちゃんは少し痩せた感じはするけど、元気に振る舞っていた。
お母さんはお婆ちゃんと一緒にお爺ちゃんを労わりながらTVを見ては馬鹿みたいに笑っていた。
スクラップ工場の事件は園原という人物の怨恨による体力殺人事件として決着がついたようだった。
これはあくまで警察発表に過ぎず、本当に捜査が終了したのかは僕らにはわからなかった。まぁそれでもその発表を信じていた方が気も楽だし、変に疑いを持つと行動に制限が生まれそうだった。
何にでも疑ってかかるのは悪い事ではないけど、それによって自身の首を絞めかねない現実があるのも又、真実だ。
だから僕は堂々とミニシアターまで出かけたりした。今では下り階段の前に釘で打ちつけられた板が張られていた。地下には降りれないようになっている。
スクラップ工場も同じだった。フェンスは頑丈に施錠されており、ドアも開かなかった。この先営業を開始するのかは不明だけど、まだしばらくは中に出入りする事は不可能のようだ。
赤津の彼氏がどんな奴かはようやく突き止める事が出来た。同居している義理の兄が赤津の彼氏のようだった。
何度も手を繋いだり腕を組んで歩く姿を目撃した。赤津の家の近所の噴水の出ない公園でディープなキスをしているのも、1度だけ目撃している。だから間違いないだろう。
元々、赤津は四国の山中で白骨死体として見つかった藤城たつきと双子の姉妹だった。
2人は赤ん坊の頃、離れ離れにされ、別々の家庭で拾われた。藤城たつきは家族共々殺され、一方で赤津一家は今の所、山中に埋められる事なく楽しく暮らしているようだった。
義理の両親も健在で飼い犬の散歩は赤津の日課のようだった。
義理の兄は、赤津悠太といい、都内の大学に通う1年生だった。親から譲り受けたのか、買ってもらったのかは知らないが、小型の乗用車を持っていた。
だが大学の授業がある時は電車で通っているのかも知れない。夏休みに入っている今、赤津悠太はほぼ毎晩のように車で出かけて行っては朝方に帰って来る、というのが日課になっていた。
だが土曜日だけは赤津の為に時間を割いているようで2人で出かけたりしていた。
これが約10日間で僕が調べ上げた赤津の義理の兄、つまりは彼氏の情報だった。
その期間中、全く勉強をしなかったせいで、一旦、ストーキングは中止にした。
毎日、見張っていても車で出かけられたらお手上げだったし、確実にここにだけは行くという場所も特定出来なかった為に頭の整理もかねてしばらくは自宅で勉強する事にしたのだ。
だがいつかは突き止めなければならなかった。
車で出かけている時は浮気相手と一緒か都内の同級生と会っているに違いない。
そうなると、狙い目としては都内だろうか?
僕は一旦、シャーペンを持つ手を止めて、ノートの上に転がした。都内といっても余りに範囲が広すぎる。
奇跡的に出会わない限り見つけられそうになかった。となればおのずと地元になってしまう。
僕の住む街か赤津の暮らす街か、それとも近隣か。僕がある程度、自転車や電車で自由に行動できる範囲を赤津悠太を襲う場所にするしかない。
そのように考えてから再びストーキングを開始して3日目、僕はAmazonで購入した作業着を着た。頭にタオルを巻いて腰には手斧を携え、リュックへカミソリワイヤーと厚手の革の手袋、そして鰐の皮マスクを入れそれを背負った。
革の手袋は間違ってカミソリワイヤーの刃を握っても、直ぐには切れない程の強度がある。そらら一式を持ち自転車に乗って赤津の住む街へと向かった。
赤津の家の近くには砂場しか無い小さな公園と正反対に綺麗な公衆トイレが整備されている豊かな樹々が植えられている公園があった。そこのトイレの側にベンチがあり、そこへいつものように座った。ここに座っていれば赤津家の玄関が樹々の隙間から覗き見る事が出来るのだ。
僕はペットボトルの水をちびちび飲みながら赤津悠太が出てくるのを今か今かと待っていた。僕の願いが通じたのか夕方頃になって、赤津悠太が1人で家から出てきた。特別オシャレをしているわけでもなく、髪はボサボサだった。
車に乗る気配もなく、裸足にサンダルをつっかけて、トボトボと歩き出した。雰囲気的にはちょっとそこのコンビニまでという感じだった。
僕はベンチから立ち上がり、赤津悠太の後をつける事にした。赤津悠太は想像に違わずコンビニに入って行った。お菓子やらその他諸々の商品を買い込みコンビニを出て行った。そのまま帰宅するかと思ったが、何を思ったかさっきまで僕がいた公園の入り口で足を止め中に入って行った。
僕は後をつけた。赤津が樹木で囲われたトイレの横に設置されてあるベンチに座りコンビニの袋からお菓子とコーラを取り出した。開封し食べ始めたのをみて、僕はトイレの裏側へと回って行った。
夕陽が沈む中、公園の街灯に灯りが灯り始める。蝉は相変わらず忙しなく鳴き声を上げていた。
僕は足音を立てないよう気をつけながら赤津悠太が座るベンチの側の樹木の陰に身を潜めた。チャンスだと感じた僕はリュックの中から革手袋とカミソリワイヤーを取り出した。そしてアリゲーターマンに変身する為に鰐皮のマスクを被った。頭の中では既にイメージが出来上がっていた。
僕はそのイメージを形にする為に陽が暮れるのを待つか、その前に行動に出るか迷っていた。赤津悠太はポケットからスマホを出し何やらいじり始めた。LINEなのかゲームなのかただのネット検索なのか、ここからではわからなかった。
しばらくスマホをいじった後、コーラを一気に半分近く飲み、汚らしくゲップをした。お菓子をつまみ食いしながら頭をキョロキョロさせて周りを見ている。
その姿はまるで何かを物色しているかのようだった。僕はカミソリワイヤーで輪っかの形を作った。赤い夕陽が辺りに広がって行く。蝉の鳴き声が一段と激しくなっていった。夜が近い事に焦りを感じているのかも知れない。輪っかを作ったカミソリワイヤーを持ち、中腰のまま足音に気をつけながらベンチへと近づいて行く。
運良く蝉の鳴き声により、少しくらいの足音は気づかれる事はなさそうだった。
僕は息を殺しながら赤津悠太の動きに集中した。
まだだ。まだ動くんじゃない。僕の声は高鳴る心臓の動悸によってかき消される。
ベンチの背もたれに顔を近づけゆっくりと起き上がった。そして両手に持ったカミソリワイヤーの輪を赤津悠太の頭の上から被せた。喉付近に来た時、赤津悠太がこちらを振り返ろうとした。僕は手元で交差させてある部分を握りそれを肩にかけ、腰を落とした。素早く身体を反転させた。柔道の一本背負いの要領で赤津悠太の首を締め上げる。バタバタと暴れる足音が聞こえたが構わず引っ張った。
赤津悠太の身体がベンチから持ち上がった感触があった。その瞬間、交差している部分から手を離し、カミソリワイヤーの分岐した片方の1つを握った。
巻きつけたワイヤーが皮膚を切り頸動脈を裂くように滑らせる為、投げた鞭を手前へと引き寄せるように力の限りカミソリワイヤーを引っ張った。
プチプチっと音が聞こえ振り返ると血飛沫が舞い、夕陽に照らされ青々と茂った樹木とのコントラストを描いていた。
僕は直ぐさまズボンのポケットに押し込んでいたタオルを取り出し赤津悠太の首に巻き付けた。身体を起こしベンチの背もたれから赤津悠太の両脇に腕を差し込み身体を引き上げた。そのままトイレの裏の草木が茂った場所へと引きずり混んで行った。
赤津悠太は口から赤い泡を吐き出しながら、何か言いたげに口をぱくぱくさせていた。焦点のズレた瞳は沈む夕陽のようにその光を失いつつあった。
僕は命の灯火が切れかけた赤津悠太を引き起こす。肩を抱き辺りに気を配りながらトイレの中へと運び込んだ。大トイレの中に入り戸を閉め鍵をかけた。
薄暗いトイレの壁にはヤリマン女の携帯番号だとマジックで書かれてある。どうせ嘘に決まっているが今度かけてみるのも面白いかと思った。
その番号の横には女性器の絵が落書きされており、中出しオッケーと付け加えられていた。
僕は赤津悠太を便器に座らせて背負ったリュックを外した。手斧を取り出し赤津悠太のシャツを顔まで捲り上げた。そして鳩尾へ向け振り上げた手斧を力の限り振り下ろした。血は思ったよりは出なかった。手斧をゆっくりと引き抜き、突き刺さった傷口へ右手を差し込んだ。内蔵を掴み引きずり出す。小腸だろうか。僕は赤津悠太の真っ赤なそれを見て、きっとこいつは赤津奈々の身体を弄んだのだと思った。それが許せなかった。
赤津悠太の命以上にその肉体の全てに腹が立った。死ぬ間際に凌辱してやりたかった。
そう思うと僕の股間が熱を帯び始め出した。ズボンを脱ぎ勃起したペニスを血まみれの革手袋をした手で握る。
小腸を手斧で切り裂きその中にペニスを押し込んだ。握った小腸は生暖かく、久家綾乃の性器よりも粘着力があった。小腸を握りしめコンドームを付けたような感覚の中、僕は激しく自分のペニスをしごいた。あっという間に果てた僕は、小腸の中で独自の存在感を示している精液を眺めながら赤津悠太の顔を覆っているTシャツを下ろした。
そして小腸を引きずり出し赤津悠太の口の中へと精液を垂らした。そのまま口に押し込むと僕は血まみれのペニスをしまい、手斧と革手袋をリュック中にしまった。
そして赤津悠太の衣服を全部剥ぎ取り、トイレの戸と床の隙間から外に血が流れて行かないよう、衣服を丸めて戸の下付近に置いた。その後で僕は鰐皮のマスクを外しトイレの戸に耳をあて外の気配を探った。
赤津悠太の首に巻きつけたタオルを外し、それもリュックに押し込んだ。静かにトイレから出て逃げようと思った矢先、カミソリワイヤーを、置き忘れた事を思い出した。戸を引き寄せ、赤津悠太の髪の毛を掴み便座から引きずり落とした。出来るだけ長い期間、このトイレの中に入れないよう赤津悠太の身体をストッパー代わりにする為だ。
戸と一緒に髪の毛を引っ張る。何とか戸が開かないよに出来た後で僕は辺りに目を配った。
入り口付近に定期清掃のスケジュール帳が貼ってあった。見るとこのトイレは今日が清掃日だったらしい。綺麗にされたトイレがクズの人間の血によって汚された事が何だか可笑しかった。
次回の定期清掃員はやり甲斐のある掃除が出来るだろう。僕はトイレから出て再び茂った草木の中へ押し入りカミソリワイヤーを拾い上げた。
草陰で身を潜めながらカミソリワイヤーをリュックにしまい、そのまま公園から出て行った。これで今後、赤津が悩み苦しむ事はなくなった。僕はそれが何より嬉しくて、心が達成感に満たされつつあった。今日は良い夢が見れるかもしれない。ほくそ笑みながら僕は自転車を置いておいた場所へと急いだ。




