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 ⑥③

ほんのひと月くらい会わなかったクラスメイトの姿に、妙に懐かしさを覚えた。飛田は戻って来る事自体嫌だったのか、全校集会の時間近くになっても教室に姿を現さなかった。


「あいつ、茂木と友達じゃなかったわけ?」


斉藤こだまが、顔を赤らめながらそう言った。


「葬儀には戻って来るんじゃない?」


小野夢子が飛田をフォローするかのような言い方をした。


「そうかもだけど、茂木は殺されたんだよ?

呑気に地方へ旅行に言ってる場合じゃないでしょ?ねぇ、仲野部もそう思うよね?」


「思うけど、あのような事になった事は知ってるわけだから、今更、校長なんかに言われても知ってるよって思ったのかもね。ただまぁ、帰って来ては欲しかったけど」


「仲野部は大丈夫?」


小野夢子が聞いて来た。


「めちゃくちゃショックだし、未だに信じられない。けど、昨日、事件の事聞いてから、落ち着くまでの時間があったから今は何とか、ね」


「ならいいけど」


小野夢子は心底、不安げな表情で僕を見ていた。僕はそんな小野夢子に向かって微笑んでみせた。


担任が来ると同時に、赤津奈々が教室にやって来た。腫れた目が充血しているのはショックで昨日から泣いていたのかも知れない。


茂木と赤津が仲が良かった印象はないのだけど、そこまで泣けるというのはある意味凄いと思った。赤津は思いやりのある優しい子なのだろう。


担任の話の途中で、クラスの半分近くの生徒が鼻を啜り出した。ティッシュで鼻を噛んだり、ハンカチで目頭を拭う者もいた。気丈であろうとした担任も生徒達の姿にもらい泣きし始めた。言葉にならない声はやがて嗚咽となり、教室内に響き渡った。


僕は机に突っ伏して、皆んなが泣き止むのをただ待っているしかなかった。


茂木が殺された事に対して、怒りはあった。けれど僕はこの手で、僕と茂木の2人分の復讐を果たした。僕の中での茂木の死はあの時点で完結していたのだ。だから悲しくはなかった。ただ2度とバカ話が出来ない事は、少し寂しかった。


体育館に集められた全生徒達は、延々と続く校長の話を聞かされる羽目になった。さっきまでの悲しみはその話によって枯れ果て、今では皆が苛つき始めていた。


その空気も読めず、ひたすらに話を続ける校長に僕は殺意さえ覚えたほどだった。話の終わりには夏休み中は1人では出歩かないよう注意するようにと言ったのを最後にようやく校長の話が終わった。


それから教頭が数分ばかり話をしてその場は解散となった。僕等は一旦、教室に戻り、担任から葬儀の日時の話があり、それで終わりとなった。僕は席を立ち、赤津の方へと向かった。


「赤津?」


涙はなかったが目は腫れぼったかった。


「大丈夫?」


「何とかね」


「仲野部は?」


「うん。一応は大丈夫かな」


「そっか。あいつと仲良かったもんね」


「そうだね。寂しいよな」


「私達だってこんなに悲しいから親御さんなんて、想像もつかないくらい辛くて悲しいと思うよ」


「赤津ならその悲しみは痛いほどわかると思う」


赤津の姉妹の藤城たつきは山中に埋められ白骨死体で発見されたのだ。それを思えば死体がある茂木の両親はまだマシなのかも知れない。

でもそれは絶対に口には出せない言葉だった。


「やっぱり家族の死は辛いよ。それが、若ければ若い程悲しい。人ってさ。死を考えた時ってどうしても順番で見るじゃない? お爺ちゃん、お婆ちゃん、そして両親になってやがて兄妹や自分、みたいにさ。無意識にその順番で死が来て欲しいって思ってるのよね。全部とは言わないけど、今回の茂木のような事が起きちゃったら残された肉親は生きる気力も失うし、最悪自分も生きていたくないと思っちゃうのだと思う。私もそうだった。姉妹があんな事になったから死んでしまいたいと本気で考えたもん」


赤津が藤城たつきの事件が発覚してしばらく学校に来なかったのはそういう理由でだったのか。まさか死のうと考えていたとは思わなかった。


「赤津が死ななくて良かったよ」


「そう?」


「うん」


「どうして?」


「夏休みに楽しい思い出が1つ出来たからね。

もし赤津が死んでいたら猛暑の中、チャリをこがされる羽目にもならなかったから」


僕はそういい笑ってみせた。


「遠回しにディスって来ないでよ」


腫れぼったい目が、少しばかり柔らかくなって行く。


「一緒に帰らない?」


「あら?仲野部君。たった1度のデートで私が気を許したと思ったら大間違いだからね?」


赤津はあの不死身階段まで行った事をデートだと思ってくれているのか。何だか嬉しかった。


「そうなの?」


「そうよ」


「ならまた何処かに遊びに行かない?」


「良いけど、でも出歩かないように言われたばかりじゃない?」


「1人では出歩かないようにって事だよ?僕等は2人で出かけるわけだから良いんだよ」


僕はいい肩にかけていたリュックを背負った。


「なら良いけど、でもそれは茂木君の葬儀が終わってからにしよ?」


「うん。そうだね」


僕ら2人は教室を出て下駄箱へと向かった。

他のクラスの前を通ると、茂木を知らない連中が殺されたのはどんな奴なんだ?みたいな会話をしながら廊下を歩いていた。

そんな会話を耳にした赤津があからさまに嫌な顔をみせた。


学校を出て赤津とLINEの交換をした。基本校内でスマホの使用は禁止にされているからだ。

僕等は駅に向かうバスを待ちながら、たった3か月間という短い期間の中での茂木の思い出を語った。


「じゃあ、茂木君の葬儀の時にね」


僕は動き出した電車の中の赤津に向かって手を振った。赤津は恥ずかしげに数回だけ振り返した。そう言えば、今までも何度か一緒に帰った事はあったけど、こうしてちゃんと見送りが出来たのは今日が初めてだ。


それなのに何故か僕等は既に自転車デートをしていた。何だか可笑しな関係だなと僕は考えながら自分の乗る電車が入ってくるのをホームで待つ事にした。



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