#05.5 幕間・ベルクト公爵
駄文・長文になります。
お時間に余裕の無い方はご注意下さい。本日で連続更新は一旦終わります。
書き溜めがある程度出来たらまた連続更新しますので、今暫くお待ち下さい。
私は、イーグル王国にあるベルクト公爵領領主、アレク・ベルクト。このベルクト公爵領の領主だ。私には、妻であるレイシアと可愛い一人娘のクレアが居る。
クレアは私達夫婦と使用人達に可愛がられている珠玉の姫だ。だが、クレアは幼い頃より体が弱く、病弱であった。
私達や公爵家専属の医師の努力により、最近では徐々に体調が良くなり、健康な状態になりつつあった。勿論、私達夫婦や使用人達は喜んだ。その数日後、更に喜びが増える事が起きた。妻の妊娠が分かったのだ! 邸内で皆が喜び、私も娘たちの為にもっと領地を発展させていかなければと意気込んでいた。
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その後、無事に2人目の子供が生まれた。
2人目も女の子で、「ミネア」と名付けた。元気に育ってくれると嬉しい。乳母を雇わず、クレアと同じように妻が自分でお乳を与えていた。
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妻がお乳を与える様になって、そろそろ1年が経つ。
ミネアのご飯を離乳食に切り替える為、授乳を終了した。
その頃、クレアの体調が再び悪くなってきて、『妻と使用人達』はクレアに掛かりきりになる。結果、ミネア専属侍女であるアイナが専属護衛のエリスと共に離乳食を作り、『2人だけ』でミネアの世話をする様になっていたのだろう。今思い返すと、あの時にアイナ達は『我々』の事を完全に見限ったのだ。
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侍女のアイナは、『ヴォルフ辺境伯家』の次女だ。何故、辺境伯令嬢であるアイナが侍女を務めているのか疑問に思うだろう。彼女は、「跡継ぎや長女でも無く自由なので、色々な経験を積むため」と採用面接の時に言っていた。
「ある程度侍女と言うものを学んだら、次は冒険者に本腰を入れていく」と。採用後、暫くしてミネアが生まれた時に、’’ミネア専属’’を希望したので許可を出した。
現時点で彼女は’’Aランク相当’’のBランク冒険者らしい。彼女の情報を教えに来た冒険者ギルドのギルド長が言っていた。 なぜ、Aランク’’相当’’なのか?と問うと、昇格を断っているからだそうだ。ギルド長は帰り際に「彼女を敵に回してはいけない」と言って帰って行った。
そのアイナが、ミネアの’’専属護衛’’として連れて来たエルフ種族のエリスは、Aランク冒険者だそうだ。 以前、ミネアの護衛をスカウトしてくる許可を出したが、まさか高ランク冒険者とは…… 高ランク冒険者であれば、生まれたばかりのミネアより、クレアに付けてあげたい。
そう思い、クレアに付くように命じたら、蔑む様な目で断られた。
「私は、アイナに’’ミネア様の護衛’’を頼まれて了承した。護衛対象が変わるならこの話は断る」と言われ、諦めた。 生粋の侍女ではなく、’’高ランク冒険者’’相手だと他の使用人の様にはいかない。’’権力など何とも思わない’’人種だ。これは’’辺境伯家’’のアイナにも当て嵌まる事だが。そのアイナは、こちらに冷たい目を向けていた。
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公爵としての仕事が忙しく、またクレアの体調も気になっていて、ミネアの様子は1歳の終わり頃から見に行かなくなっていた。ミネアも娘として愛しているが、私達夫婦は気づけばクレア中心の生活になってしまう。まさか私達の行動を見て、使用人達までミネアの世話を放棄しているとは思っていなかった……
それから3年後、体調も回復し1年後のデビュタントを控えたクレアが夕食の席で口を開いた。
「お父様、お母様。なぜ、私に妹が居る事を黙っていたのですか?」
クレアが冷ややかな目線をこちらに向けた。使用人達の会話から情報を得て、直接会いに行ったと言う。 ミネアはクレアに対し、一切の感情を見せず『私に両親や姉など居ない』と言い切ったそうだ。クレアの事は決して『姉』とは呼ばず、『クレア公爵令嬢』と呼んでいた事も聞いた。
その瞬間、私と妻は顔から血の気が引いた。控えていた使用人達は、青ざめた顔を下に向けている。
私は、公爵としての仕事と病弱だったクレア事で手一杯となり、すっかりミネアの事を忘れていたのだ。妻も、貴族夫人のお茶会や、デビュタントを1年後に控えたクレアのあれこれで忘れていたのだろう。 心のどこかで、’’使用人達がミネアの世話をしてくれている’’と思い込んでいたのもあった。
そもそも、5歳になるであろうミネアが夕食の場に居ない事が異常なのだ。
夕食を中断し、私は慌てて妻と執事を伴ってミネアの部屋へ行く。『ミネアの部屋』に来て、改めて己のミスに気付く。この部屋は’’乳母が授乳する為’’の部屋であって、『ミネアの部屋』では無いのだ。
そう、この家に正式な『ミネアの部屋』は存在しない…… 何と言う事だ……
私は冷静を装い、部屋の扉を何回かノックする。暫くすると、アイナの声で誰何された。
「アイナ、私だ」
私が声を掛けた瞬間、ドア越しなのに凄まじい殺気が感じられた。執事のドラードは顔を真っ青にして震えている。妻も顔色が悪い。 幼い次女を、2歳から3年間も放置していたと言う事実が重くのしかかる。妻と使用人に至っては1歳からだから、4年だ…… アイナとエリス以外、使用人達の誰もがミネアの世話をしていない……
ここでの問答で、アイナとエリスの給金が4年前から払われてない事が発覚し、何も聞いていない私はドラードに振り返る。ドラードは震えながら目線を合わせない… 高ランク冒険者2名を敵に回すこの執事はバカなのか? この執事を雇ってる私もバカか……
この時、執事だけでなく’’ベルクト公爵家’’が、『ヴォルフ辺境伯家次女、アイナ・ヴォルフ』を敵に回している事を悟った。
その後、何とかドアを開けて貰い、部屋に一歩踏み入る。……ホントに簡素で、殆ど物が無い部屋だ…。 改めて自分達が行った仕打ちを思い知らされる…。
目の前には、赤子の頃から成長した娘が居た。銀色の髪に青い瞳をした娘が居る。私達の事を『地面の石ころ』を見るような、冷たく、感情が一切無い目で見ていた。
「こんばんは、公爵閣下。失礼ですが、そちらは公爵夫人ですか? 不勉強で申し訳ございません。何分部屋から殆ど出た事も無く、お顔を拝見するのは初めてなもので。それで、何の御用でしょうか?」
私と妻は絶句した。自らの行いの結果とは言え、実の娘にここまで赤の他人の様に振舞われるとは思っていなかった。いや、とっくに赤の他人なのだろう。私達はまだまだ甘く考えていたのかも知れない。
そして、とても5歳とは思えない喋り方にも驚いた。
「あ、ああ。ミネア、久しぶりだね。夕食を家族みんなでどうかと思ってね…」
「お断りいたします。ご家族3人でおとり下さい。私の家族は、育ててくれたアイナとエリスだけですので」
「そ、そんな事言わないで…ね?…お姉ちゃんのクレアも待っているのよ?」
「…公爵夫人、何度も言わせないでいただけますか?私の家族はアイナとエリスだけです。私に父や母、姉と呼べる存在は居ません」
頭では理解していたが、娘の反応はとても冷淡だった。尚も食い下がろうとしたら、今度は娘から殺気が放たれた。何処で鍛えたかわからないが、アイナとエリスに鍛えられたのだろう。しかし、5歳の娘が放つ殺気ではない。アイナとエリスの殺気と同等だ。
私達夫婦を見る目が先程よりも冷たくなっている気がする。アイナとエリスの殺気も膨れ上がり、流石にこれ以上はまずいと思い、引き下がる事にした。
私達が退出した瞬間、すぐに鍵が掛けられ、こちらに『拒絶』の意思を伝えて来る。私達は無言で食堂に戻る。警備に命じて執事のドラードを拘束し、取り調べの為、騎士団に連行させた。
食堂には既にクレアの姿は無かった。
翌朝、ちゃんと話会う為にミネアの部屋に向かった。ノックをしても応答無く、鍵が掛かっていたがマスターキーで鍵を開け、中に入った。
「誰も居ない………」
侍女待機室の方を覗いてみるが、誰もいない。辺りを見渡すと、簡素なテーブルの上には手紙が1通置いてあった。
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公爵閣下、こんにちは。
あなたが、この手紙を読んでいると言う事は、私は既にこの家に居ないでしょう。閣下は、私の2歳の誕生日前日あたりからこの部屋に来なくなりましたね。まぁ、来た所で何をする訳でも無く、’’私の顔を見てすぐに去る’’だけと聞いてますが。夫人と使用人達は見た記憶が無いので知りません。
因みに、私は2歳になる直前からの記憶があります。
あれから3年、どうやって生きて来たと思いますか?
あなた方が1歳の私を『育児放棄』して以降、 使用人達がご飯を持って来る事も無くなったそうです。 食事と服や下着は、’’個人資産’’を使ってアイナとエリスが用意してくれていたのですよ? 『育児放棄』された子供を守ったせいで、給金も打ち切られたのに。 ’’ベルクト公爵家’’って器が小さく、使用人達の質も低い’’どうしようもない家’’ですね。 こんな家が’’高位貴族’’である事が信じられません。
……あぁ、きっと’’外面’’は良いのですね。理解しました。
アイナとエリスから聞きましたが、このイーグル王国には『国是』があるそうですね。 この国の『国是』とは、一体何ですか?あなた方は’’高位貴族’’の『公爵家』ですよね? ……爵位の返却をおすすめします。
私はこの先、自由に面白おかしく生きていきますので、邪魔しないで下さいね?
前提として、私にとってあなた方は既に『敵』です。
もし、邪魔されるようでしたら、問答無用で『処理』させていただきますね。
私には『敵』にかける慈悲などありません。
追伸
あなた方が私にした事は、『緩やかな虐待』です。楽しかったですか? 私の事は『病死』とでも発表しておいて下さい。
その方が都合がいいでしょう?
それとも、生まれた事すら公表していませんか?
まぁ、どちらでも構いませんが。
では最後になりますが、一言。
育児放棄するくらいなら、子供を作るな!避妊しろ!最低な毒親共が!!
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私は震える手で手紙を読み終わった後、あまりの事に眩暈がした。己の行いがどれほど悪辣な事なのか、手紙を読んで今更ながら理解してしまった。そして5歳の娘に拒絶と、手紙から滲み出る憎悪を向けられている現実に。
「……これは、ヴォルフ辺境伯が動くだろうな…武力衝突は無いだろうが…」
仮に武力衝突した所で、こちらが一方的に蹂躙されて終わるだろう。
この国に居る4人の辺境伯は、皆、正義感が強く仁義を重んじる人物達だ。そして、’’国王に仕える訳では無く’’、『国に仕えている』のだ。
国王でも、大きな不祥事を起こせば敵に回る者達。それが辺境伯である。
幸い、現国王は良識のある有能な王なので、大きな問題は無いのだが…… まさか自分達がこんな事になるとは… 確実に’’西の辺境伯’’は動くだろう。
この国の国是は、『子は国の未来を担う宝』。未来の国を作る子供を大事に育てる方針だ。自分達がやった事はどうだ…いくら長女が病弱で仕事が忙しいと言っても、それを理由に言い逃れは出来ない……幼い娘に食事も与えず4年間放置だ……
専属の2人が居なかったらミネアは生きていなかっただろう… 私が呆然と立ち尽くしていると、妻が慌ててこちらに来た。
「あ、あなた!王家の使いの方がいらしています!」
王家が!?私は速足で玄関に向かう。玄関に行くと、面識のある宰相直属の部下が居た。
「ベルクト公爵閣下、お久しぶりです」
「ああ。久しぶりだね。今日はどうしたんだい?」
「宰相閣下の名代で参りました」
そう言うと、彼は書状を広げ読み上げる。
「国王陛下の命により、これより数ヵ月間、ベルクト公爵家の者は本邸から出る事を禁止する。尚、買い出し等は使用人を使うべし。それと、使用人の解雇を禁止する!」
私と妻は、陛下の書状の内容を聞き、目を見開く。
「一体、これはどう言う事だ?」
「宰相閣下から’’自分達が行った事を顧みろ’’との伝言を預かってます。使用人達は’’重要参考人’’に該当するので解雇はしないで下さい」
「そうか……」
「正式な沙汰が下されるまで、こちらで大人しくされるのが賢明かと」
「大人しくしなかった場合はどうなる?」
「’’西の辺境伯’’閣下に殲滅されるかと」
「ははっ、うちの騎士団じゃどうしようもないね」
「あなた方’’公爵家’’が『国是』に反するという、最もやってはいけない事をした結果です。’’反乱の意志あり’’と捉えられても文句は言えません」
これは、もう陛下達は知っていると言う事か。
使いで来た彼も、事情を知っているのだろう。こちらを見る目が冷ややかだ。
アイナ…いや、アイナ嬢から辺境伯経由で王宮に連絡が行ったのだろう。そして、この王命が来たと言う事は、既に事実確認が済んでいるのか。となれば、かなり前から把握していたと言う事か。彼女が言っていた『それ相応の対応』がこれなのだろうな。
そして、ミネアが居なくなったこのタイミングで来たと言う事は、事前に話は通っていたのか…
「念の為お伝えしておきますが、この公爵家本邸は、既に’’王家の影’’が監視しておりますので」
「わかった。言う通りにしよう…」
「あなた……」
私達に王命を伝え終えた宰相の部下は、足早で帰って行った。
妻は呆然としている。妻もミネアを『育児放棄』しているという感覚は無かったのだろう。クレアが病弱だった事や、デビュタントを控えている事など言い訳にもならない。
私達に『そのつもり』が無くても、『やられた方』は忘れないのだ… すまないミネア…
妻にも自分達がした事を理解させる為に、今朝ミネア達がいなくなった事と、ミネアの置手紙を見せた。
「あぁ……私達は何と言う事を……ミネア…ごめんなさい…ごめんなさい……」
私は手紙を読みながら泣いている妻の肩を抱き、しばらく呆然と立ち尽くした…。
お読みいただきありがとうございます。




