ドリルちゃん
第一章 掲示板の宣戦布告
宿場町の夜。
ギルドの掲示板には、真紅の大文字が躍っていた。
『盗賊団拠点の解体依頼 推奨十五名以上 危険度:特級』
小柄な影が一歩進み出る。ドリルだ。
腰まで届く金髪を揺らし、腕を組んだまま不敵に笑う。
> 「この前の薄汚い悪党……許さない。
お仕置きしてやる。」
推奨人数十五名以上。
常識的に考えれば自分たち二人(実質一人)で挑むものではない。
しかしドリルは、参加表明の紙に迷わず名前を書き込んだ。
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第二章 宿屋の夜
その夜、宿屋のレストラン。
ドリルの報告を聞いたくりもとは、湯気の立つおにぎりを口に運びながら吹き出した。
> 「できるわけないじゃん。早くキャンセルしてきなよ。
面倒事に巻き込まれるだけでしょ」
> 「あたしがやるって決めたの!」
ドリルは机を叩いて言い返す。
「あんな連中、分からせてやる!」
くりもとは肩をすくめ、
> 「もう好きにして…」
とだけ言い、客室へ引き上げた。
その横顔には、心底「見たくないものを見ない」ような淡い影があった。
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第三章 真夜中の舞台装置
深夜。
盗賊アジトの前は凍りつくような静けさ。
ドリルはそこで周到な準備を終えていた。
入口前に大きなテーブルを静かに運び、
スタジオ用の照明を角度まで計算して設置。
足元にはフォグマシンとサーキュレーター。
霧と光が一体となり、自分を包む完璧な舞台だ。
> 「これであいつらもひれ伏すわね」
時計の針が零時を回ったとき、ドリルは両手で扉を――
バァン! と開け放つ。
照明が一斉に点り、白い霧が渦を巻く。
テーブルの上に跳び乗ったドリルは、両腕を組み仁王立ちした。
> 「さあ、あの時の弱虫はどこのどいつかしら?
早く前に出てきなさい!」
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第四章 笑いと蹂躙
一瞬の沈黙。
盗賊たちは顔を見合わせ、
そして一斉に大爆笑した。
> 「ぷっ……はははは! これがかよ?」
「子どもじゃねえか!」
霧も光も、ドリルの小柄な体を際立たせるだけ。
頬がみるみる赤く染まる。
> 「笑っていられるのも今のうちよ!」
しかし笑いは止まず、やがて罵声に変わる。
椅子が倒れ、複数の男が一斉に取り囲んだ。
ドリルは必死に蹴り返すが、押し倒され、腕を縛られ、床に叩きつけられる。
> 「――っ!」
視界が揺れ、鼻に鉄の味が広がった。
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第五章 上から見下ろすくりもと
そのころ二階の監視室。
くりもとは缶ビールを片手に、ゆったりとモニターを眺めていた。
入口で銃口を向けられた時も、
冷えた缶を鼻先に押し当て
> 「まぁまぁ、そんな物騒なもの下げて」
と笑って通されたのだ。
> 「あー、やってるやってる。ほんと学ばない子ねぇ」
淡々と酒をあおりながら、
必要があれば最小限の魔法で守るつもりではいた。
しかし今はただ、下で繰り広げられる“舞台”を観客のように見守るだけだった。
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第六章 偶然の救援
その時、町外れの石畳をカランと草履の音が駆けた。
銭湯帰りの大物ギルド《白嵐隊》。
浴衣の袖を翻し、異変を感じて足を止める。
> 「今の悲鳴、聞こえたか?」
「こっちだ!」
白嵐隊は状況も理解しきれぬまま、即座に戦闘態勢に入った。
刀が閃き、魔法陣が走る。
盗賊団のボスがドリルに銃口を向けた瞬間、
白嵐隊の剣が横から叩き込み、ボスは床を転がった。
数分で盗賊たちは鎮圧された。
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第七章 縄を解かれて
縄で縛られたままのドリルは、涙と悔しさに濡れた顔で叫ぶ。
> 「なによ! あたしが倒す予定だったんだから!
運命がそう決めてたんだから!」
白嵐隊の一人が苦笑しながら縄を切る。
背後では、さっきまでガンをつけていたボスが
浴衣姿の剣士にボコボコにされていた。
> 「あたしのがだぎがぁ……
あたしのが先にやるはずだったのに!」
隊長は肩をすくめて言う。
> 「今夜は俺たちがもらった。次はお前の番だ」
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第八章 保護者への引き渡し
白嵐隊はドリルを抱え、首をかしげながら宿屋へ向かった。
> 「なんでこんなところに小娘が……」
「とりあえず泣いてる子がいたんで、保護者さんへお返しに」
客室の扉をノックし、
布団から顔を出したくりもとへ、
傷だらけでアイパッチと包帯だらけのドリルを引き渡す。
> 「お大事に」
白嵐隊は簡潔にそう告げて去っていった。
くりもとは小さく笑みを浮かべ、
> 「きーすんだ?」
とだけ声をかける。
ドリルは顔を背け、
「……うるさい」
とつぶやいた。
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第九章 翌日
昼下がり。
ギルドの前は大混雑。
昨夜の討伐報酬はすべて白嵐隊が獲得し、
歓声とともに彼らは次の街道へ消えていった。
くりもとは車のハンドルを軽く叩き、
助手席で包帯にくるまったドリルを横目に見ながら言う。
> 「次はもう少し計画的にね」
ドリルは唇を噛み、
> 「……次こそは、あたしが」
とだけつぶやいた。
エンジン音が朝靄を震わせ、
二人を次の町へと運んでいった。




