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魔法使いのくりもとちゃん  作者: おにぎり1999
メインシナリオ
3/7

北の魔法学校

北の国の片隅にある古びた魔法学校。旅の途中でガス欠になった魔女くりもとと、その同行者ドリルは、ひょんなことから“臨時講師”を引き受けることに。


けれど、学校は荒れ放題。生徒たちは魔法に興味を失い、教師たちも疲れ切っていた。持ち込んだ魔法はどこかズレていて、授業は毎回大混乱。それでも少しずつ、笑いと光が教室に戻っていく――。


放浪の魔女と高慢な相棒が紡ぐ、北の国の静かな一週間の物語。

第一章 雪の町の学校

舗装が切れた山道を、薄灰色のシトロエン2CVがのろのろと登っていた。

秋の山は赤茶けた落葉に覆われ、風が冷たく、

湿った匂いが車内に入り込む。


ハンドルを握るのは、淡い髪の魔女――くりもと。

助手席では、金のドリル髪を左右に束ねた少女――ドリルが、眉をひそめて燃料計を睨んでいる。


ドリル:「ねぇ、くりもと。針が完全に“E”に張り付いてますわ。」

くりもと:「うん。見えてる。」

ドリル:「うん。じゃない。見えててスルーする意味が分かりませんの。」

くりもと:「ここ、高いんだよぉ。ガソリン。」

ドリル:「次のスタンドがどれだけ先か分かって言ってますの?ここ山道ですのよ!」

くりもと:「看板出てたし。あと十キロもないって。」

ドリル:「あなたの“たぶん”ほど信用できないものはありませんわ。」


その直後、エンジンが「ぷすん」と鳴り、車がわずかに揺れて沈黙した。

ハンドルに伝わる震動が消え、静寂が戻る。


くりもと:「……あーあ。来ちゃったね。」

ドリル:「“来ちゃった”じゃありませんわ!燃料切れですのよ!」


くりもとは軽く息を吐き、ブレーキを強めに踏み込んだ。

いつもより重く、くりもとの足に確かな抵抗が返ってきた。


金属の軋む音とともに、車は惰性で前へ転がり、やがて静かに停止する。


くりもと:「よし、止まった。」

ドリル:「“よし”じゃありませんわ!止まるのは当然ですの!」


風が強くなり、落ち葉がフロントガラスを滑った。

山の稜線の向こうに薄曇りの空。人の気配はない。


くりもと:「……とりあえず、路肩まで押そうか。」

ドリル:「はぁ!?押すって――あなたが!?」

くりもと:「他に誰がいるの。」


くりもとはシートベルトを外し、ドアを開けて外に出た。

冷たい風が顔を撫でる。ドリルは半信半疑でハンドルに手をかける。


くりもと:「ハンドル、左に切って。路肩側に寄せる。」

ドリル:「わ、わかってますわ……っ!」


くりもとが車の後ろにまわり、両手を車両後部に当てて押す。

2CVは軽い車体ゆえ、少しの力で動き出した。


ドリルはニュートラルのまま、なれた手つきでハンドルを操る。


ドリル:「……ふぅっ、ちょっと動きましたわ!」

くりもと:「そのまま、ゆっくり左。」


車体が路肩に寄り、傾斜の少ない場所で完全に止まる。

くりもとは手のひらでバンパーを軽く叩いた。


くりもと:「はい、おつかれ。」

ドリル:「おつかれ、じゃありませんわ……腕が限界ですのに。」


くりもとは後部のトランクを開け、携行缶を取り出して振ってみた。

……音がしない。空だった。


くりもと:「……空っぽか。あれまぁ。」

ドリル:「“あれまぁ”じゃありませんわ! 補給分くらい入れときなさい!」

くりもと:「いやぁ、前に使ったとき、たしか入れたつもりだったんだけど。」

ドリル:「“つもり”でガソリンは湧きませんの!」


くりもとはだるそうに肩をすくめ、車内から三角表示板を取り出した。

膝をついて、舗装の割れたアスファルトに慎重に立てる。


くりもと:「よし。これで、まあ……“止まってますよ”アピールにはなる。」

ドリル:「まった・・・そんな呑気な言い方……」


そのときだった。

山の下の方から、低く響くエンジン音が聞こえた。


「ごろろろ……」と地を這うような重低音。

遠くのカーブの向こうに、銀灰色の車体が現れる。


角張った長いヘッドライト、鈍く光るメッキグリル――

黒に近いグレーの初代日産シーマ・タイプⅡだった。


ドリル:「……まあ、よく動いてますこと。まるで往年の大臣車ですわね。」

くりもと:「いい音だね。エンジン、古いけど生きてる。」

ドリル:「そんな感心してる場合じゃありませんわ。」


車は二人の前で停まり、窓が静かに下がる。

運転席から現れたのは、白髪混じりの紳士だった。

古びたスーツの上にロングコートを羽織り、穏やかな声で言った。


紳士:「おや、困っておるようじゃな。」

くりもと:「ええ。ガソリンが尽きてしまって。」

ドリル:「まさかこんな所で止まるとは思いませんでしたの。」

紳士:「ふむ。ちょうど上にわしの職場がある。牽いていってやろう。」


男はトランクからロープを取り出し、まるで慣れた整備士のような手つきで結び目を作った。


ドリル:「……ずいぶん慣れてますのね。」

紳士:「年を取ると、こういうことが多くてな。」

くりもと:「助かります。私たち、登り坂はちょっと無理そうで。」

紳士:「坂を登る間、どちらかがハンドルを握っておかねばならん。もう一人はうちの車に。」

くりもと:「では、そちらにお邪魔します。」

ドリル:「ちょっ……なんで当然のように助手席放棄してますの!」

くりもと:「ハンドル、あなたのほうが軽いから安定してるでしょ?」

ドリル:「ぐぬぬぬ……!」


________________________________________


ロープがピンと張り、シーマが低く唸った。

静かな力で、2CVをゆっくりと引き上げていく。

ドリルは運転席に座り、慣れない手つきでサイドブレーキを解除する。

クラッチを踏み込み、そろそろとハンドルを動かす。


ドリル:「……これでいいんですのよね……?」


ブレーキは軽すぎる。少しでも気を抜けば、シーマのリアバンパーに突っ込む。

短い脚でペダルを押さえ込み、体を前のめりにして姿勢を保った。


ドリル:「ひぃぃ……! これ、完全に筋トレですわぁぁ!」


サスペンションがぎしぎしと軋み、2CVが左右に揺れる。

クラシックな車体は悲鳴を上げるように金属音を響かせ、ドリルはそのたびにハンドルを握り直した。


________________________________________

一方そのころ、シーマの車内では。

古い革シートの匂いと、ほんのり漂う甘いタバコの香り。

オートマのシフトレバーが「カチ、カチ」と軽く動くたびに、年季の入った機械音が響いた。


くりもと:「よく整備されてますね。この車。」

紳士:「三十年ものじゃが、まだまだ走れる。新しい車にはない落ち着きがある。」

くりもと:「分かります。私の車も、遅いし気まぐれだけど、愛着があります。」

紳士:「ふふ……“気まぐれ”とは上手い言葉じゃな。」

くりもと:「ええ。走るのも止まるのも、気分次第なんです。」


マクレーと名乗るその紳士の口調は柔らかく、どこか教師にも似た余裕を感じさせた。

________________________________________

坂を登りきるころ、2CVが大きく軋んで止まった。


ドリル:「っっっ……はぁぁぁぁ……もう……腕が震えてますわ……!」


彼女は両足でブレーキを踏み抜き、シートにもたれかかるようにして呼吸を整える。

くりもとはシーマのドアを開けて外に出た。


くりもと:「止まったね。さすが、ブレーキ担当。」

ドリル:「もう二度とやりませんわこんな仕事……!」

紳士:「――見事な連携だった。」


男は軽く笑みを浮かべ、校舎の方を指さした。


紳士:「ここが、わしの勤め先じゃ。北方魔術学院。……まあ、古い学校だが。」

くりもと:「魔術学院?」

紳士:「ああ。人手が足りんのだ。ちょうどよい、話を聞いてもらえるかね。」

________________________________________

学院長室に通されたくりもとは、紅茶を受け取りながらマクレーの話を聞いていた。


マクレー:「実はな、来週からの授業を担当できる者が見つからん。県の教育委員会とギルドの魔女協会に依頼を出したところじゃ。」

くりもと:「なるほど。」

マクレー:「一週間だけ、非常勤講師をお願いできると助かる。報酬は一週間で一か月分の生活費ほど。」

くりもと:「……悪くない条件ですね。」

ドリル(ドアを開けながら):「ちょっと待ってくださいまし!? なに勝手に契約話進めてるんですの!」

くりもと:「ちょうど人手不足だそうで。条件も悪くないし。」

ドリル:「おトク感で契約を決めるなこの魔女!!!」

マクレー:「ふむ、仲がよいことはよいことじゃ。」


そう言って、マクレーは受話器を取った。


マクレー:「……ああ、村役場かね? 非常勤講師の依頼はキャンセルで・・・」


その背後でドリルが慌てる。


ドリル:「ちょっと!バカね、あなた教員免許なんてもってないんでしょ!?」

くりもと:「まあまあ、ドリル。こういうのは経験だよ経験。」

ドリル:「経験って……あなた・・・」


マクレー:「ちょうど良い魔女が見つかった。掲載費用はこちらから負担させてもらう。手間をかけてすまない・・・」


電話を切り、受話器を下ろし、穏やかに微笑む。


マクレー:「改めて――ようこそ北方魔術学院へ。くりもと先生、そして同行のドリルさん。」

ドリル:「先生!?ちょっとどういうことよ!」

くりもと:「あはは。ま、野となれ山となれ作戦でゴーー。」

ドリル:「軽くまとめないでくださいましぃぃ!」


ストーブの火が静かに鳴り、窓の外では、薄曇りの空から小さな葉が舞っていた。

こうして、くりもととドリルの一週間限定の“先生生活”が始まったのだった。


第二章 くりもとクラス開講


 翌朝。

 北方魔術学院の鐘が、曇り空の下で鈍く鳴った。

 中庭には風が吹き抜け、赤い落ち葉が舗道を転がっていく。


 職員室では、紅茶の湯気と紙の擦れる音だけが響いていた。

 くりもとは机の前に立ち、昨日の学院長マクレーと、担当教員のアメリアに向かって軽く会釈をした。


マクレー:

「さて、くりもと先生。今日からよろしく頼む。」


アメリア(眼鏡を押し上げながら):

「……本当に、引き受けてしまったんですね。」


くりもと:

「頼まれたし、断る理由もなかったので。」


アメリア:

「……あなた、根っからの楽観主義ですね。」


 机の上には一枚の名簿。

 「一年C組」と書かれたその紙には、殴り書きのような出席記録が並んでいる。


アメリア:

「あなたの担当クラスです。

 出席率三割、平均点は全学年で最下位。

 教師をからかうのが日常行事です。」


くりもと:

「なるほど、元気なクラスだ。」


アメリア:

「違います。問題児の巣窟です。」


 アメリアは深いため息をつき、書類の束を押しつけるように渡した。


アメリア:

「授業計画、鍵、そして緊急退避経路。」

くりもと:

「退避?」

アメリア:

「はい。爆発物が出たときの逃げ道です。」


 沈黙。

 その言葉をどう受け止めたのか、くりもとは特に表情を変えないまま、

 紙を丁寧にたたんでポーチにしまい込んだ。


くりもと:

「……まぁ、なんとかなるでしょう。」


 アメリアは額に手を当てた。


アメリア:

「“なんとかなる”が一番不安なんですけど。」


 チャイムが鳴る。

 くりもとは軽い足取りで廊下を進み、

 その後ろをドリルが無言でついていく。


ドリル:

「……あの担任、完全にあなたに押しつけてましたわよ。」

くりもと:

「押しつけられるうちが華だよ。」

ドリル:

「言い方の問題じゃありませんわ!」


 1-Cの教室の前に立つ。

 中からは、机のぶつかる音と笑い声、

 そして、なぜか電子音が断続的に聞こえた。


くりもと:

「にぎやかだね。」

ドリル:

「にぎやかって言葉、便利すぎますわ。」


 くりもとは静かにドアを開けた。


 途端――。

 チョークの粉が舞い、

 教室の奥で「ピッ、ピピッ」という電子音が鳴る。


 マイコー(小声で):

「起動完了……っと。」


 直後、轟音。


 ドカァン!


 教室の壁が白煙を上げ、天井のチョークが雪のように降り注ぐ。

 悲鳴と笑い声が混じり、誰かが「またかよ!」と叫んだ。


 白い煙の中から、くりもとがのそのそと立ち上がる。

 髪に粉を被り、まるで雪女のような姿。


くりもと:

「……えっと、出席、取ります。」


 沈黙のあと、教室の奥から笑いが起こった。

 最初は小さく、次第に広がり、やがて教室全体が笑いに包まれた。


 廊下の隅で見ていたドリルは、額に手を当てて小さく呟いた。


ドリル:

「……この人、ほんとに何撃たれても平然としてますわ。」


こうして、北方魔術学院一年C組。

“臨時講師・くりもと”の最初の授業は、爆発音と笑い声の中で幕を開けた。


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