生い立ち
――世界が終わった、その後で
崩壊した世界の記憶は、夢のようにぼやけていた。
気がつけば、小麦畑の丘の上。
風が金色の穂を揺らし、遠くに見える一台の車が、まるで導きのようにぽつんと佇んでいた。
ハクビシン獣人の魔女・栗本は、静かにその車へと歩き出す。
あの子の声はもう聞こえない。
あの子の手も、どこか遠くへ離れてしまった。
ただ、ここにいるのは、確かに生きている“わたし”という存在。
世界が終わったあと、別の世界に一人だけ取り残されたのか、それとも導かれて逃れたのか。
それすらも、もうどうでもよかった。
車を走らせる途中、古びた屋敷を見つける。
誰もいないが、鍵は開いていた。
ベッドに横になると、ずっと押し殺していた疲れが一気に溢れ、深い眠りへと落ちていった。
翌朝、ふと思い立って隣町まで足を伸ばす。
だが、そこに広がっていたのは見知らぬ言語、見知らぬ建物、見知らぬ空――
ここは、元いた世界ではない。
いや、“あの世界”はもう、どこにもないのだろう。
帰り道、海岸沿いを走っていると、浜辺にうずくまる金髪のツインテールの少女が目に入る。
息はある。けれど、記憶も、名前も、言葉も失っていた。
少女を連れて屋敷に戻り、栗本は新しい暮らしを始めることにした。
**名前のない少女。名前を忘れた魔女。**
世界が終わった後の、静かな二人の生活。
けれど、それは長くは続かない。
かつて失ったものと、今あるものが重なり合うとき――
**二人は再び、運命の旅へと出ることになる。**




