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レイ⑤ 修行


「よし。今日は身体強化魔法の基本から教えよう」


それは、治癒とはまるで異なる力の使い方だった。


「身体強化ってのは、生命力をどう使うかがカギだ。効率よく流せれば身体は自然と強くなる」


師匠の言葉を聞きながら、無意識に背を伸ばす。


「まずは呼吸から。いいかい? 深く吸って、力を巡らせるんだ」


息を吸い、吐く。繰り返すたびに、胸の奥で熱のようなものが脈打ちはじめる。

治療のために使っていた力が、今は自分を内側から強くしていく。


「次は、腕を強化してみな」


指先に意識を集中させる。体の中で蠢く熱が、腕へと流れ込んでいく。

試しに拳を振るうと、風を裂くような音がした。


――動きが違う。力が違う。


最初は感覚が掴めなかったが、繰り返すうちに身体が自然と応えてくれるようになった。


「では最後のステップだ。これを乗り越えれば教会の騎士にも劣らぬ身体能力が身につくはずだよ」


そこから数日かけて激しい訓練が続いた。

素早く移動したり跳躍したりといった動作は最初のうちは制御不能になりそうだったが徐々に馴染んでいった。


「今日はここまで。明日は実戦形式だ」


師匠の言葉に頷きつつも不安は消えなかった。本当に教会の騎士と互角に戦えるのか? 彼らは精鋭揃いだと聞いている。


(……やれるのか? 本当に……)


心の奥に芽生えた不安を、息とともに押し殺した。



翌日。師匠の計らいで特別に町医者組合の演習場を借りることができた。

そこで行われるのは実戦形式の模擬戦闘だ。

対戦相手として呼ばれたのは師匠の弟子の一人。青年だった。彼もまた高い身体能力を持つ熟練者だ。


「僕の名はカイン。……加減はするけど、容赦はしないよ」


「心配いらない」


どうやらなめられているらしい。


「さぁ、そろそろ始めるよ」


師匠が審判役の人に目配せする。


「始め!」


声と共に緊張が走る。全力で身体強化した。


初撃――その一振りを受け止めた瞬間、腕にズンと重い衝撃が走った。骨の芯まで響く。

一瞬たじろぐが、崩れはしない。


これまで鍛えてきた反射神経と動体視力で次々と繰り出される攻撃をかわしていく。


「やるなぁ」


カインが感心したように呟く。だがまだ余裕はあるようだ。なら、こっちも本気で行くしかない。


「……」


呼吸を深め、意識を一点に集中する――世界がゆっくりと動き始めた。

相手の動きが、線として見える。


「……そこ!」


渾身の一撃でカウンターを繰り出す。相手は咄嗟に受け止めた。だが完璧に反応できていない。そのまま押し込もうとすると相手はバランスを崩した。


(チャンスだ!)


追い打ちをかけようと踏み込んだ瞬間逆襲が来た。素早く反転したカインの一撃が降ってくる。それを最小限の動きで回避する。


「何っ!?」


驚いた表情を浮かべる相手を見ながら勝機を感じた。ここで決める!


全力で放った蹴りは正確に相手の胴体を捉えた。鈍い音とともにカインが後方に飛ばされる。


「……見事だ」


地に伏せたカインが、薄く笑いながら体を起こす。その姿を見て、ようやく息を吐いた。


「合格だよ」


演習を見守っていた師匠が歩み寄ってきた。


「これなら教会の騎士とも充分に戦えるだろう」


その言葉に胸が熱くなる。同時に新しい不安も生まれた。


(この力が教会に知られたら――終わりだ)


師匠とも会えなくなる。自由もすべて奪われてしまうかもしれない。


「レイ、安心しな。誰にも話しゃしないよ」


師匠は穏やかな声で続けた。


「ただね……もし本当に危険になったら迷わず使うんだよ」


「はい……」


いつでも教会から逃げ出せるほどの力を手に入れた……

これがバレたらさらに監視が厳しくなるだろう。

もしかすると師匠と会うことができなくなるかもしれない。


(俺はまだ……師匠に魔術を教わりたい……)


この力は、最後の切り札。

だからこそ、使いどころを見誤っちゃいけない。



(この手に、やっと掴んだ自由だ。誰にも奪わせたくない……)





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