表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/60



村人たちの呻き声と、治療の光。

オーガを倒した後も、勇者パーティは休む間もなく負傷者の手当を続けていた。


そこへ、豪奢な鎧をまとった若い男が護衛を従えて現れる。

マルコス伯爵の息子――ジャン・マルコスだった。


「いやぁ、見事な働きだったな! 実に勇ましい!」

胸を張り、まるで自分の手柄のように笑う。


ユリウスは治療に専念するレイを一瞥し、軽く会釈を返す。

だが、包帯を巻いていたヴァルクが顔を上げた。


「……ふざけんな」

低い声が場の空気を張りつめさせる。


「アンタが魔法をぶっ放したせいで避難が遅れたんだ! 子供や老人が死にかけたんだぞ!」


ジャンは肩をすくめ、悪びれもせずに笑った。

「む? 結果的に助かったのだから細かいことはいいだろう」


その足先が無造作に負傷者の体を蹴るように当たった。

呻き声が漏れるも、ジャンは気づかない。いや、気づいていても意に介さなかった。


「悪いけど、話はそれだけかな? 俺たちはまだ救助の途中なんだ」

ユリウスの声は穏やかだったが、冷たい響きを帯びていた。


「な、なんだと……無礼な! この俺が直々に話しかけているのだぞ!」


ジャンが負傷者を足で押しのけようとした瞬間、ユリウスが立ち上がった。

笑みは消え、声色も冷え切っている。


「……君こそ無礼じゃないかな」


ポケットから取り出されたのは、王家の紋章が刻まれた黄金の指輪。

ひらりと指先で掲げられた瞬間、陽光を受けて金色が煌めき、空気が凍る。


「これが何か、分かるよね?」


ジャンの顔色がみるみる蒼白になり、護衛たちすら息をのむ。

「こ、これは……王家の……」


「話は終わりだ。――帰ってくれる?」


指輪を雑にポケットへ戻すと、ユリウスは一瞥だけくれて背を向けた。

その冷ややかな声音は余韻を残し、誰も言葉を挟めなかった。


ヴァルクは心の中で毒づく。

(……皇子とは知らずに威張り散らすか。哀れなもんだ)


ジャンは顔を引きつらせ、護衛を引き連れて足早に立ち去った。



*



西の村の治療が終わり、勇者パーティは次の町へたどり着いた。

ユリウス以外の三人は夕食を共にする。


ノアはいつものように手を使わず、魔力で食事を操って口に運びながら分厚い魔術書を開いている。

ディランは横目でそれを見ていた。


食事を終えるころ、ディランはほろ酔いの顔で首を傾げた。

「……んで、ユリウスはどこ行った?」


「さあ」ノアが首をかしげ、レイも椅子から立ち上がる。

三人で探しに出ると、物陰から淡い光が漏れ、くぐもった笑い声が聞こえた。


「フフッ……もっといけるだろ……?」


恐る恐る覗き込むと――


ユリウスが満面の笑みで聖剣に酒を浴びせていた。

聖剣はふわふわと光を揺らし、まるで酔っ払いのように強まったり弱まったりしている。


「……は?」

三人同時に固まる。


「フフッ、美味しいね!」

ユリウスは剣に話しかけながら、自分も酒をぐいっとあおる。

足元には空のグラスが山のように散らばっていた。


そこへ紫髪の店員が軽やかに登場する。

「はい、ご注文のワインで~す」


「ありがとう!」


ユリウスはワインボトルを受け取ると、まず聖剣にぶっかける。

聖剣の光が一層激しく揺らめき、酔いどれのようにふらふらと明滅した。


「……もう帰るか」

ディランが肩を落とし、レイとノアも黙ってうなずく。


三人が呆れ果てて立ち去った後も、ユリウスは聖剣と楽しげに酒盛りを続けていた。

やがて彼自身も飲みすぎてふらふらと宿に戻り、そのままベッドに倒れ込む。



*



目の前に、淡い光景が広がる。


石畳の街道を、二頭の馬が並んで駆けていた。

右を走るのは金髪の少年――背に聖剣を負い、まだ小さな体に似合わぬほど堂々としている。

隣を走るのは銀髪の少年。馬を操る手は落ち着いていて、時折、楽しげに金髪の少年へ声をかけていた。


町に入ると、二人は馬を降り、出店で串焼きを買う。

噴水の前で並んで座り、言葉は聞こえないのに、笑い合う表情だけが鮮やかに焼き付く。


――その光景は、やがて淡くかすれて消えていった。


朝。ユリウスは目を覚ます。


(あの夢は……聖剣の記憶?)


問いかけても、枕元の聖剣は静かに淡く光を揺らすだけだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ