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紫髪の娘



市場は朝靄に包まれ、石畳の通りに活気が溢れていた。

八百屋の店主が野菜籠を積み上げる傍ら、淡い紫の髪を後ろで束ねた娘が客へ笑顔を振りまいている。


「おじさん! その赤カブ安すぎじゃない? もっと高く売ったほうがいいよ〜」


淡黄色のワンピースに白いエプロンという素朴な装い。だが所作は洗練され、どこか隙がない。


「バカ言うな!」


八百屋の親父が大きな声で笑う。


「お前さんの買いっぷりを見込んで安くしてんだ。ありがたく受け取っとけ!」


「え〜、もう……しょうがないな〜!」


新鮮な野菜を抱え、娘は軽やかに通りを駆け抜ける。だが時折、鋭い視線で周囲を探る仕草が混じる。

人混みを抜け、路地裏に滑り込むと、誰もいないことを確かめて立ち止まった。


――表情が一変する。

獲物を狙う獣のような光が瞳に宿る。


「さて……」


影が彼女を覆い、その姿は霧のように掻き消えた。



辿り着いたのは、巨大な石造りの城門。

やがて華美な衣装をまとった彼女が玉座の間へ駆け込み、声を弾ませる。


「ルシエル様〜! 戻ったよ!」


玉座に腰掛ける白い青年が、薄く微笑んだ。


「楽しかった? 町娘ごっこ」


「うん! めっちゃ楽しかった! それにね……」


彼女は声を潜める。


「勇者パーティも見てきたよ。思ったよりやるじゃん! ちょっと遊んでもいい?」


「いいよ」青年は柔らかく笑った。


「今のままじゃ、まだ退屈だから……もっと強くしてあげて」


彼女は妖艶な笑みを浮かべ、再び影に溶けて消えた。




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