落ち込む
救助の手が一段落し、町にようやく静けさが戻ってきた。
崩れた建物の影で、ユリウスは一人、聖剣を握りしめて俯いていた。
(……聖剣を使いこなせない……。俺は勇者なのに……)
その肩に影が落ちる。
「……どうした? 今日は静かだな」
赤い瞳をしたレイが、腰を下ろして隣に座る。
ユリウスは唇をかんだ。
「……俺は聖剣を使いこなせてない。俺は勇者で……皇子で……守らなきゃいけないのに……」
レイは小さく息を吐き、ユリウスの頭に手を置き、優しく撫でた。
「孤児院のガキどもは、こうすると泣き止んだ。……まぁお前に効くかはわからんがな」
「……っ」
ユリウスは頬を赤くし、視線を逸らした。
抵抗しようとした言葉は喉で消え、結局そのまま撫でられていた。
(……恥ずかしいのに。嫌じゃない……)
焚き火の音だけが響く、静かな沈黙だった。
――それを破ったのは、豪快な声だった。
「おいおい! 勇者サマがなでられて喜んでるのか! まだまだガキだな!」
ディランのからかいに、ユリウスは飛び上がるように顔を上げた。
「な、何だよディラン!」
「ハハッ、顔真っ赤だぞ!」
笑いが広がる。
レイは首を傾げ、ノアは思わず口元を覆って少し笑う。
やがてノアは焚き火を見つめながら静かに告げる。
「……聖剣の記録を読んだことがあります。勇者たちが初めから完璧に扱えた例はありません。彼らは聖剣と信頼を築き、徐々に力を引き出していったのです」
「だから、あなたが未熟でも問題はない。その間は私たち全員で補えばいい。パーティとは、そういうものですから」
ディランが盾を叩く。
「まぁ安心しろ。お前が取りこぼしたら、俺の盾が受け止めてやる!」
レイも静かに言葉を重ねた。
「……一人で背負うな。お前は俺たちの仲間だろ?」
ユリウスは仲間たちを見回した。
ディランは豪快に笑い、ノアは冷静に、そしてレイは頭に手を置いたまま微笑んでいる。
胸の奥が熱くなり、ユリウスは小さな声でこぼした。
「……ありがとう。……みんながいてくれてよかった」
聖剣を強く握りしめる。
その刃が淡く光を帯び、焚き火の炎と重なって仲間たちを照らしていた。




