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レイ㉔ 闇属性



「――セフィリア様が闇魔法を扱える可能性がある理由は単純です」


ノアの声は冷ややかに響いた。


「光の魔力量が常人より桁違いに多いからです。歴代聖女の中でも突出している」


彼は間を置かず続ける。


「通常、魔獣に襲われたり瘴気を取り込んだ者は肉体を蝕まれ、やがて死に至る。だが光属性の回復を受けた場合、あるいは強い光魔力を宿す者なら――闇は相殺され、影響を残さない」


ノアの瞳が俺を射抜いた。


「あなたは特に顕著です。少量の闇なら、体内の光がすべてを中和する。実際、魔獣に攻撃された時、本来なら瘴気に侵されていたはずですが……後遺症すら残っていない」


(……確かに。あの時、俺は死んでいてもおかしくなかった)


胸の奥がざわめく。思わず問いが漏れる。


「……中和されるのなら、どうやって闇の魔力を“扱う”んですか?」


ノアは即答した。


「――“分ける”のです」


「分ける……?」


「闇を粒に砕き、それぞれを光で包む。混ぜれば中和されて消えますが、分けて封じ込めれば“力”として保持できる」


ノアは掌に小さな氷の粒を生み、それを赤い炎で包んで見せた。


「たとえるなら、毒を安全な容器に閉じ込めて運ぶようなもの。光が容器、闇が毒。あなたの光魔力量なら十分に制御できる」


炎が揺らめき、やがて消える。


「ただし、容器が崩れれば闇は即座に溢れ、肉体を蝕む。その時に回復魔法で凌げても、寿命を削り命に関わる危険は避けられない」


冷徹な声。だがそこには突き放すだけではない、淡い肯定が混じっていた。


「リスクは大きい。ですが戦闘面で得られるものは確かにあります」


ノアは視線を落とし、淡々と語る。


「光と闇が衝突すれば、通常は魔力量の差で決まる。ですが高位の魔力同士になると、性質の違いが勝敗を左右します」


「……性質?」俺は問い返した。


「光は照らし、反射する。だが必ず影を生む。そして闇は、その“影”に干渉する性質を持つ」


ノアは指先で机をなぞり、影を示す。


「中程度の闇なら、ただ暗がりに潜むだけ。光で容易に払える。だが強大な闇は違う。影を“実体化”させ、そこから侵入経路を作る。結界の外からでも、光の届かない一点を起点に内部へ入り込めるのです」


胸の奥がひやりと冷えた。


「つまり――光だけで築いた結界はいくら強化しても完全にはならない。光がある限り影が生まれ、その影は闇にとって“扉”になる」


ノアは冷徹に言い切った。


「だからこそ闇を扱う必要がある。光が生む影を、闇で縫い止める。光と闇を併せて初めて、結界は“完全”に近づくのです」


さらに、淡々と続ける。


「攻撃においても同じです。闇を魔法に組み合わせれば、光だけでは届かない領域へ干渉できます。加えて、光は正面を照らせても、裏側までは届かない。闇を操れば死角から敵を縫い止めることも可能になる」


隣で師匠が無言のまま聞いている。


ノアは結論を下す。


「――光と闇。両方を扱えれば、救える命は確実に増える」


その言葉は心を揺らす力を持っていた。


「繰り返しますが、闇は人体に強い負荷を与えます。寿命を削り、最悪は死に至る。それでも、このままでは魔王に勝てる可能性は限りなく低い。あなたは“光だけ”ではなく、“闇”も併用することを考慮すべきです」


少しの沈黙を置いて、ノアは淡々と告げる。


「……もし決意するなら、魔力制御の訓練は私が協力します。無駄に寿命を削るのは非効率ですから」


そう言い残し、ノアは退出した。

室内に静寂が戻る。


(……結論は多分もう決まってる。けど、正直怖い)


俺は黙ってうつむいた。


(俺は……聖女なんて言われてるけど、そんな立派な人間じゃない。死にたくないし、自分だって生きたい……)


脳裏に浮かぶのは、無邪気に笑うミリアの姿。


(……あの子なら、きっと迷わず飛び込むだろうな)


思わずため息が漏れた。


その時、師匠がぽつりとつぶやいた。


「アタシは反対だよ。弟子の命が危険にさらされるなんて見てられない。闇魔法が必要な理由は分かるが、あんたがやることかい?」


(……心配してくれてるんだな)


「……師匠、ありがとう」俺は小さく答える。


「まだ決めきれないけど……たぶん、やるよ」


師匠は眉をひそめながらもため息をついた。


「……訓練のときはアタシも呼ぶんだよ」


「分かった」


不安も恐怖もまだ残っている。


(それでも……やるしかない……)


小さく息を吐き、俺は前を見据えた。




一部誤字修正しました。

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