ライトイーター
「少し話をさせてください」
――村へ入る前、ノアが淡々と声をかけた。
彼の表情は冷えた水面のように揺れない。
「今回の対象『ライトイーター』の性質を、どこまでご存じですか?」
ユリウスとレイは顔を見合わせ、首を傾げる。
「光に群がる蛾のような魔獣、だろ?」と、ディランが答える。
「だから灯りでおびき寄せて、叩くんだろう?」
「概ね正しいです」ノアはうなずく。だがその声は氷のように冷たい。
「ただし、彼らは羽ばたきと共に“鱗粉”を散布します。それが魔力の流れを乱し、魔法攻撃を弱める。さらに光魔法は彼らにとって養分となり、逆に力を与えてしまいます」
「……なっ」
レイは目を大きく見開いた。自分の力が仲間を危険に晒すかもしれない――衝撃に言葉を失う。
「加えて、ライトイーターは群れで行動する傾向が強い。すべてを一度に仕留めなければ、犠牲が出る可能性が高い。しかも今回の現場は農村。大規模魔法で薙ぎ払うわけにもいきません」
ユリウスが口を噤む。ディランも無言で腕を組んだ。
「この状況では、魔法は阻害され、剣では一体ずつしか倒せない。つまり普通に挑めば犠牲は避けられない」
ノアは静かに言い切った。
「では、どうするか――」
その一言に、三人は息を呑む。
誰もが次の言葉を逃すまいと、食い入るようにノアを見ていた。
*
夜。農村の灯火はすべて消され、世界は墨を流したように暗かった。
(……怖がらせてしまっている。だが、ここで終わらせる)
レイは掌に小さな光を生む。
瞬間、暗闇の奥でざわめきが走った。
翅の音。無数の影が光に群がってくる。
「来たな……」ユリウスが剣を抜く。
レイは光を抑えつつ移動し、農村の狭い路地を抜け、広場へと駆ける。
そして一際強い光を放った。
闇に散っていた群れが、一斉に輝きへ突進する。
「――今だ!」
レイとノアが両手を掲げ、光と氷の二重結界を展開した。
ライトイーターの群れが全てその中に閉じ込められる。
「穴を開けます。……勇者殿」ノアの声。
「ああ!」ユリウスが大きく息を吸い込み、火炎の奔流を放つ。
結界に開けられた小さな穴から炎が流れ込み、即座に結界を閉じる。
ドゴォォン!
地響きのような轟音と閃光が夜を裂いた。
結界内部で舞っていた大量の鱗粉が火を得て爆ぜるように膨れ上がる。――粉塵爆発。
「しまっ――!」
閉じ切る前に噴き出した炎がユリウスに迫る。
しかし、その前に立ちはだかった影があった。
「俺を忘れてんじゃねぇぞォ!!」
ディランの盾が火を受け止め、炎は四散した。
ユリウスが思わず笑う。「助かったよ、ディラン!」
「無茶しやがって……俺の盾がなきゃ丸焼きだ」
やがて炎が収まり、結界の内側では燃え尽きたライトイーターの群れが崩れ落ちていた。
ノアは淡々と告げる。
「犠牲ゼロ。これが正解です」
レイは小さく息を吐き、肩の力を抜いた。
ユリウスは満足げに頷き、微笑む。
そしてディランが豪快に盾を担ぎ直す。
「……いいじゃねぇか。これからが楽しみだな」
重苦しい空気が少し和らいだところで、ユリウスがわざとらしく手を叩いた。
「俺たちよくやったよね!誰かに褒めてほしいなぁ」
チラチラとレイを見る。
(……なんか嫌だ。こいつを褒めたくない)
レイはすっとノアに視線を移した。
「ノア様、あなたのおかげで被害が出ませんでした。本当にありがとうございます」
「えーー!!俺だって頑張ったのに!」
ユリウスがガックリと肩を落とす。
夜の静寂に笑い声が弾け、わずかな温かさが広がった。
一部誤字修正しました。




