怪しい新メンバー
薄暗い広間に、教会の上層部の声が低く響く。
「――セフィリアの替えは、もう用意できそうですね」
「ええ。ミリアは魔力量こそ控えめですが、制御力に優れています。聖女らしい立ち居振る舞いも申し分ない。務めは果たせるでしょう」
「回復と結界さえ扱えれば十分だ。あとは……我らがどうとでも取り繕える」
燭台の炎が揺れる中、年老いた司教が口を開く。
「……あの男から連絡があった。やはり“聖剣”が邪魔らしい」
「聖剣など、本当に壊せるのですか?」
「知る必要はない。我らの役目は渡すことだけだ。後の処理は――向こうがやる」
しばしの沈黙。やがて、司教の目がひとりの青年へと向けられる。
「ノア」
「……はい」
「お前には勇者の仲間となり、聖剣を奪ってきてほしい。成功すれば、お前の“杖”も戻るだろう」
「……承知しました」
ノアは感情を殺した声で答え、静かに頭を垂れた。
*
教会の訓練場。
光魔法の光輪が弾け、セフィリアとミリアが額に汗を浮かべていた。
「セフィリア様、ご紹介したい方がいます」
神官が声をかけてくる。
「はい、どなたでしょう?」
訓練を止めて振り返ったセフィリアの視線の先に、見覚えのある男が立っていた。
藍色の髪、整った顔立ち、感情を削いだ眼差し――王宮魔術師ノア。
(……あの時の魔術師だ)
「こちらが王宮魔術師のノア様。技術は国一番と評判でございます」
「王宮と教会、双方から勇者パーティへの加入を推薦しております。ぜひ、ご一考いただければと」
(……実質、断れないんじゃないか?)
「承知しました。皆様に相談いたします」
ノアは何も言わず、ただ冷たい瞳でそのやり取りを見つめていた。
*
夜。宿の一室にて。
「ノアって魔術師を紹介された。王宮と教会の推薦だそうだ」
レイが仮面を外し、椅子に腰を下ろしながら告げる。
「ノア……聞いたことがある。国の大会で優勝した魔術師だろう?」
ディランが腕を組む。
「彼の噂は俺も耳にしたよ。優秀で、頭の回転も速いらしい」
ユリウスは微笑を浮かべる。
「実際に魔術について指摘されたが……的確だった。あいつの言う通り訓練すれば、持続力も上がったしな」
レイは苦々しくも認める。
「なら決まりだな! 試しに一度、依頼を一緒に受けてみようぜ!」
ディランが勢いよく笑った。
*
後日、ギルドにて。
「この方がノア様です」
セフィリアの仮面をつけたレイが紹介する。
「ノアです。……よろしくお願いします」
「よろしく!」ユリウスが人懐っこく手を差し出す。
「おう、期待してるぜ!」ディランも笑う。
「せっかくだ、国一番の魔術師を試させてもらおう。――Aランクの『ライトイーター』討伐に挑むか!」
こうして、新たな四人の討伐任務が決まった。
一部誤字修正しました。




