白い子供
人里から少し離れた川辺、木々の影が揺れる中、数人の子供たちが笑いながら遊んでいた。
銀髪の白い子供が、少し離れた木陰の奥からその光景をじっと見つめていた。
足元の草がかすかに揺れる。声をかける勇気はまだない。
すると、一人の子供が気づき、手を振った。
「お前も一緒に遊ぶか?」
「……いいの?」
「おう!今、誰が一番かっこいい剣士ポーズを作れるか競ってるんだ。お前もやってみろ!」
子供たちの笑い声が川辺に跳ね、白い子供は少し戸惑いながらも輪の中に入った。
「お前、なかなかやるな!明日も来いよ!」
「うん!」
その日から、白い子供は時折、子供たちの輪に加わるようになった。
だが、穏やかな日々は長く続かなかった。
ある日、白い子供ともう一人の子供が森の奥でかくれんぼをしていると、小さなウサギのようなモンスターが跳び現れた。
瞬間、ものすごい速さで飛びかかり、無防備な腕に噛みつく。
「うあっっ、痛い!……誰かっ!」
白い子供は咄嗟に手を伸ばす。手のひらから黒い影が溢れ出し、森の空気を裂くように広がる。
影はモンスターを巻き上げ、吹き飛ばした。
「大丈夫?」
「う……痛い……」
血がにじみ、噛み跡が生々しく残る。
(どうしよう……この子、痛そう……家まで送った方がいいかな)
白い子供はそっと子供を支え、家まで導いた。
「もうすぐだよ。家はどこ?」
「あっち」
家の前には、心配そうにうろつく親の姿があった。
「ケビン!」
「とーちゃん、痛いよ!」
「どうした、その傷は!」
親の目に映ったのは、白い子供の周囲に漂う黒い靄。
それは、まるで生き物のようにうごめき、恐怖を形にしたかのようだった。
「離せ!」
「その黒い靄……魔獣のものだ!お前、まさか!」
手にした桑を振り下ろす。白い子供の体に衝撃が走る。
胸に突き刺さる痛み、折れそうな足。
「や、やめて……」
抵抗するたびに、黒い影は膨れ上がる。悲しみと恐怖が実体化したようだった。
その瞬間、村人たちが騒めく。
「おい、あれ魔獣か?」
「子供じゃないか!止めないと!」
「いや、あの影……ケビンもやられたのか?」
その瞬間、ケビンの父親が吹き飛ばされた。
「あいつ……やっぱり魔獣だ!」
松明を手に、次々と村人が集まり、白い子供を取り囲む。
赤く揺れる炎に照らされ、彼らの顔には狂気じみた恐怖と殺意が浮かぶ。
その中には、少しの笑みすら含まれていた。
小さな体は押し潰され、息が詰まりそうになる。
痛み、恐怖……すべてが渦巻き、白い子供は声を上げることもできなかった。
(痛い……苦しい…………)
そして、闇がすべてを覆った。
*
寝台の上、白い青年はゆっくりと身を起こす。
冷たい汗が額を伝い、鼓動は早鐘のように響く。
「水……」
執事のクラウスが音もなく現れ、静かにグラスに水を注ぐ。
青年はそれを受け取り、喉を潤した。
「……悪い夢でも?」
「昔の夢を見た」
その言葉に、クラウスの手が一瞬止まる。
青年は時折こうして昔のことを思い出す。
「やはり、人間など……滅ぼしてしまえばよいのです」
青年は微かに笑った。
「でも、人間――勇者がいなければ、手応えがないでしょ」
「お戯れはほどほどに」
クラウスは淡々と告げ、扉の閉まる音が静寂を取り戻す。
青年は一人、窓から夜空を見上げる。
先日の勇者とシャドウタイガーの戦い――聖女が死んだと勘違いした勇者の、必死で不格好な顔を思い出し、微かに笑む。
「フフッ」
闇の余韻を抱え、青年は静かに眠りについた。




