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聖剣と白い青年


警備は万全――そう、誰もが信じていた。


冒険者たちは持ち場につき、騎士団は厳戒態勢を敷く。

ユリウス自身も、市街を巡回しながら警戒を強めていた、

その矢先――


「……なんだ、あれは……ッ!」


空気が裂ける音。

空間が歪み、黒い亀裂が宙に奔る。


そこに現れたのは、禍々しい“門”――否、“ゲート”。

虚空の穴から、影が這い出すように蠢き始める。


魔獣だった。しかも、見たこともない数と密度。


「門番がやられた!? 展開が早すぎる――!」


誰かの叫びとともに、戦場が一変した。


騎士団が防衛線を張るも、次々と溢れ出る魔獣に押し返され、後退を余儀なくされる。


「怪我人を優先しろ! 安全ルートに誘導を!」


「防衛線を下げる! バリケードまで撤退だ!」


怒号、悲鳴、鉄の衝突音。

人波が押し潰され、黒い影の波が押し寄せる。


――その最前線に、塔のような盾を構えた男が飛び込んだ。


「来いよ!こっちは通さんっ!女の子には指一本触れさせねえ!!」


ディラン。獅子のごとき猛りで魔獣の突進を正面から受け止めた。


「ほらほら! ケダモノども! よく狙えよッ!」


地面が割れるほどの衝撃。

鉤爪を受け流し、返す盾の一撃が鈍い音を立てて敵を吹き飛ばす。


「これがオレの、愛ってやつよォッ!!」


笑いながら暴れるその姿は、もはや一騎当千の壁。

彼の背後に、民衆が次々と避難していく。


――そこへ、遅れてユリウスが到着する。


(……魔法が使えない)


市街地ゆえ大規模魔法は使えない。剣だけでは、限界がある。


「!」

瓦礫の下――一人の少女が動けずにいる。


「危ないッ!」

駆け寄った瞬間、魔獣の爪が肩を掠めた。鮮血が石畳に散り、赤い斑点を広げていく。


ユリウスは少女を抱え、近くの安全地帯へ運び出す。

だが胸の奥に、焦りと無力感が渦巻いた。


剣を握る手に力を込める。それすら虚しく思えるほどに魔獣の波は絶え間ない。


(くそっ……これじゃ、守れない。……もっと――力が欲しい!)


その瞬間。


夜空を裂く閃光が降りてきた。

白く脈打つ“何か”が、空中でユリウスを待っている。


純白の刃。金糸の文様が鞘から柄まで走り、淡い光を孕んだ長剣――。


吸い寄せられるように手を伸ばす。

触れた瞬間、剣は眩く輝き、足元に魔法陣が咲き広がった。


熱が全身を駆け巡る。

深く、奥底から――何かが目を覚ます。


(これは……力だ)


込み上げる確信とともに、口を突いて出た名。


「……“ルクシア”!」


刹那、剣が白光をまとい、掌にぴたりと馴染む。


振り下ろした刃先から白い閃光が迸る。

波紋のように広がった光は、迫る魔獣だけを静かに呑み込み、瓦礫も壁も傷つけずに消し去った。


誰もが立ち尽くし、目の前の光景が現実かどうかを確かめるように息を呑んでいた。


「おいおい……反則だろ」


ディランが最前線から戻ってきて、肩をすくめる。


「それに加えてイケメンとかズルくねぇか?」


残った魔獣たちは光の剣に怯え、後退を始めた。

市民たちも、徐々に顔を上げる。


「すごい……」


誰かがそう呟き、静かに空気が変わっていくのを、ユリウスは感じた。


手の中の剣を見下ろし、深く息をつく。


その背に、ぽんと軽く手が当たる。


「ま、あんたには負けるけど。俺の盾も、なかなかだろ?」


「……ああ。君がいてくれて、本当によかった」


「オレも、守りたいもんは守る主義でね」


ディランが親指を立てて笑う。

その屈託のなさに、思わずユリウスの頬が緩んだ――。



*



戦いの後も、焦げた匂いが肺にまとわりつき、吐く息までも重くする。

瓦礫の隙間からは、呻き声と石の崩れる音が途切れることなく滲み出ていた。


ユリウスたちは総出で救護活動に走り回る。


レイは瓦礫を踏みしめ、粉塵でざらつく喉を押さえながら深く息を吸った。


『いいかい?怪我人が多い時は、命が危ないやつから先に治すんだよ!』


頭の中で師匠の声が響く。


「……《ヒーラーズサイト》」


瞳の奥が熱を帯び、レイの視界が一変する。

灰色の景色の中、人々の輪郭だけが淡く光を帯びて浮かび上がる。

軽傷は青、骨折や大量出血は黄色――そして、命の炎が消えかけている者は、痛々しいほどの赤に染まっていた。


右奥、瓦礫の下で赤が瞬いた。


「そこの二人! あの柱をどかせて!」


近くにいた騎士が慌てて駆け寄りレイの指差す場所に手をかける。


次に左手の路地。青い光が数人、壁際に並んでいる。まだ動ける者たちだ。


「君たちはそっちの人を支えて避難路へ。止血は応急処置でいい」


命に直結する赤から優先する。それが冷たい判断に見えようと今は迷っている暇はない。


ふと、視界の隅で淡い光が揺れた。黄色と赤の中間――まだ持ちこたえられるか、ぎりぎりの境界だ。


「……間に合えよ」


レイは急ぎ、治療の魔法を施す。

患者の胸元で弱々しい光が瞬く。

周囲では「聖女様の奇跡だ」と囁く声が上がる。


その瞬間、背筋を氷の針でなぞられたような感覚が走った。


「――それ、楽しい?」


低く響く声に、思わず振り返る。


そこに立っていたのは、異質なほど美しい青年だった。

血と煤に覆われたこの惨状の中で、塵ひとつつかない純白の衣。

銀の髪は風に乱れず、白磁のように滑らかな肌が月明かりを反射する。

そして――底知れぬ冷たさを宿した青い瞳が、レイをまっすぐ射抜いた。


「誰だ?」


(……こいつ、嫌な気配がする)


青年は口角をゆっくりと持ち上げる。


「“今回”の聖女は力が強いみたいだね。前のはすぐ死んじゃったけど、君は丈夫そうだ」


(こいつに構っている暇はない。――なのに、視線が外せない)


「けが人が気になる?死にそうな人、まだいるもんね」


青年の視線が、ふいに近くの建物へと流れる。

そこには腕から血を流し、壁に凭れかかる騎士がいた。


パンッ。


乾いた破裂音が空気を震わせた。


――騎士の腕が、跡形もなく消えている。


血が噴き出し、熱い飛沫がレイの頬を打つ。

痛みを感じる暇もなく、騎士は呆然と肩の断面を見つめる。


「ねぇ、どうする?腕、なくなっちゃったよ?」


青年の笑みが、ゆっくりと残酷に深まった――。







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