レイ⑮ ギルドへ
——その日、俺は王都が黒い魔獣に襲われる夢を見た。
燃え上がる街、響き渡る悲鳴。空を覆うように複数の黒い魔獣が羽ばたいていた。
(これは……ただの夢じゃない)
胸の奥が冷たく締めつけられた。嫌な予感が全身を走る。
すぐにユリウスのもとを訪れ、王都の警備強化を訴えた。
「頼む。王都の警備を強化してくれ。いつになるかは分からないが、魔獣が現れる」
「……分かった。君がそこまで言うなら、騎士団を街に配置しよう」
ユリウスの即答に安堵はしたが、それだけでは不十分だと感じていた。
夢で見た魔獣の数、規模。そのまま現実になるなら、王国の騎士団だけでは到底対応しきれない。
(ギルドにも協力を仰ぐべきだ)
そう判断した俺は、髪を束ねてフードを深く被り、街へと足を運んだ。
目指したのは王都中央にある冒険者ギルド。
獣の皮の匂いと装備の金属音が混じり合い、活気に満ちている。
受付脇の掲示板を横目に、適任と思える冒険者を探していると——
「いやあ、やっぱ任務終わりは酒! それと美女だな!」
賑やかな笑い声と共に、一団が奥から現れた。
その中心にいたのは、長身で引き締まった体格の男。赤い長髪を後ろで結び、軽口を飛ばしながら仲間たちを引っ張っている。
(あいつだ……なぜか分からないけど、あの人が街を守ってくれる気がする)
直感だった。理屈はない。
近づくと、男がこちらに気づいて立ち止まった。
「おやおや? フードのお嬢さん、オレに何か用かな?」
軽い調子。笑みの裏にどこか計算が見える。
「あなたは、強い冒険者ですか?」
「おお、ストレートだね。俺はディラン。パーティーの盾役で、ちゃんと戦えるよ。で、依頼内容は?」
「あなたのパーティーに、ある場所の警備をお願いしたい。できるだけ早く」
「悪くない話だ。でもね……」
ディランの視線がフードに注がれる。
「顔も名前も隠して依頼ってのは、さすがに怪しすぎる。悪いけど、まず顔を見せてもらおうか」
ギルドの視線がこちらに集まる。
俺はひとつ息を整え、静かにフードを外した。
「っ……」
金髪に赤く光る瞳、現れたのは王都で『聖女セフィリア』として知られる存在だった。
一瞬、ディランの目が見開かれた。その瞬間、ギルド内が静まり返る。
そして、次に浮かんだのは――にやりとした笑みだった。
「へぇ……まさか聖女様ご本人とは。こりゃあ光栄だ。報酬はデートでもいい?」
(……この直感、間違ってたかもしれない)
そんな疑念を浮かべる俺の顔を見て、ディランは肩をすくめた。
「まあまあ、そう思うのも仕方ない。でもね、当たりかどうかはやらせてみてから決めてくれよ」
(本当に大丈夫か……?)
胸の奥の不安とは裏腹に、どこかで確信めいたものもあった。
——この男は、きっと何かを守り抜く人だ。
まさか、彼と共に旅をすることになるとは。
この時の俺は、まだ知る由もなかった。




