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元聖女な死神の古龍討伐  作者: コーン茶
古龍討伐編
2/20

【番外編】ミルア

冒険者ギルドの窓口に座って、もう五年になる。

魔王がいなくなってからというもの、モンスター討伐の依頼が増え、冒険者たちはせわしなく戦い続けている。

そんな忙しいギルドに、ちょっと困った“名物コンビ”がいる。


「おーっと! またやってるんですかぁ? お二人ともぉ!」


カウンター越しにふたりの姿を見つけたとき、思わず声が出た。

片や、勇者ユリウス。輝く金髪に誠実な笑顔――でも、ちょっと無神経。


もう一方は、“漆黒の死神”レイ。フードの奥から鋭く睨むような目。けれど本当は、とても繊細な人。

このふたり、顔を合わせるといつも揉めてばかり。


「もう手続きしちゃいまーすっ!」


依頼票を受理箱に放り込んだその瞬間、ギルド全体がしんと静まり返った。

そしてすぐに、にわか拍手と笑い声が沸き起こる。


……レイさんは、ムッとしていた。でも、

彼は、“拒絶”しているわけじゃない。





その夜、私は珍しくギルドの裏口から抜け出し、街の外れにある見晴らしのいい丘に立っていた。


足元にランタンを置き、そっと空を見上げる。

星が降るような夜だった。


レイさんたちが向かった古代竜の巣は……あの森の奥。

どうか、無事でありますように。


レイさんは、ギルドに来たばかりの頃、夜な夜な一人で残滓地帯の掃討に出ていた。

報酬も受け取らず、ただ黙々と――

少しでも犠牲者が出ないように、誰にも言わず戦っていた。


ユリウスさんは、人前ではよく笑っている。

けれどふと、何かを遠く見るような目をすることがある。


魔王との戦いで、聖女様はユリウスさんをかばって大怪我を負い、そのまま姿を消した。

……彼は、忘れられないんだ。彼女のことも、自分の過去も。


ふたりとも、悪い人じゃない。

なのにどうして、いつもケンカばかりなんだろう。


レイさんが周りの人――特にユリウスさんを遠ざけようとしている。


理由はわからない。けれど、ときどき怯えたような表情をすることがある。


そしてレイさんが距離を取るせいで、ユリウスさんが不器用に突っかかって……

そんなふうに、いつも揉めてしまう。


今回の依頼で、何かが変わってくれたら――





翌朝。朝焼けに染まるギルドに戻ると、机の上に一枚の報告書が置かれていた。


――雷牙、討伐成功。負傷者なし。依頼完遂。


手書きの報告には、レイさんの筆跡でひとこと。


《追記:今回の連携は必要最低限で済ませた。問題なし。》


……こんなふうに書いてはいるけれど、

きっと途中でユリウスさんをかばったりしたんでしょ?


だって、ほら。ページの端には、小さな血の跡がついている。


私はふっと笑って、その報告書をファイルに挟んだ。

そして、静かに心の中でつぶやく。


「おかえりなさい」




昼休みの頃、ふたりがギルドに戻ってきた。


「……何を見てる」


レイさんが、フードの奥からじっと私を見てくる。

その顔色は、ほんの少しだけ穏やかだった。

ユリウスさんは、いつものように片手をひらひらと振って笑っている。


「仲直りでもしました?」


「するも何も、最初から何もない」


「じゃあ、“不仲のフリ”はおしまい?」


「……面倒くさい奴だな、お前は」


私は笑って、いつも通りの調子で手続きを始める。

依頼達成の印を押し、報酬を手渡す。

ふたりのやりとりに、あえて言葉を挟むことはなかった。




古代竜討伐から、少し経った頃。

あの“困ったふたり”は、ほとんどケンカをしなくなった。


たまにユリウスさんがレイさんにちょっかいを出しすぎて、レイさんが怒るくらい。

けれどすぐに仲直りして、ふたりでどこかへ出かけていく。


ギルドの騒がしさが少し減って、ちょっと寂しい気もするけれど――


ふたりが、笑って隣を歩けるようになって。

本当に、よかった。





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