表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/54

レイ⑬ 割れた聖女




赤い空が広がる。


城壁が崩れ、教会が爆ぜる音が響く。

人々の悲鳴。子どもの泣き声。空を裂くような黒い翼。


(……また、この夢か)


だが今回は違う。

俺は、これは夢だと自覚していた。


夢の中で――もう一人の俺、セフィリアは礼拝堂でエリスと何かを話している。

けれど、声は聞こえない。


セフィリアがふいに顔を上げ、空を見て、叫んだ。


視線を追うと――


ステンドグラスが割れ、砕けた破片がエリスの上に降り注いだ。


(危ない……逃げろ、エリス!)


叫んでも、声は届かない。


血だまりの中、エリスが静かに倒れていた。


 



「――っ、エリス!」


飛び起きた瞬間、心臓が激しく脈を打っていた。

今日の夢は最悪だ……。


「……はあ……」


顔を手で覆い、ゆっくりと呼吸を整える。

ふと、視界の端に――左手首の青いブレスレットが映る。

ユリウスが、無理やり着けてきたあのブレスレットだ。





「いや、あのさ……今日はちょっと浮かれすぎたからさ。だから……その、お詫び?」


「……は?」


気まずそうに笑いながら、ユリウスはポケットから小箱を取り出す。


「たまたま見つけてさ。好きそうだなって思って……いや、偶然なんだけどね?」


「最初から言い訳が多いんだよ」


訝しげに箱を開けると、中には深い青の紐に、小さな銀の輪が通されたブレスレットが入っていた。


(……なんだこれ。すごく俺好みじゃねぇか)


派手じゃないけど、上質な作り。俺が好きな落ち着いた青。

――正直、ちょっと欲しいと思ったのが悔しい。


「これ……買ってきたのか?」


「うん。お詫びと、あと魔力耐性もちょっとだけ付与してある。寝るときも付けてて平気だよ」


「いや、だからって、こんなのもらう義理は――」


返そうと手を伸ばすが――


「まぁまぁまぁ!」


ユリウスは笑顔のまま俺の手首を掴んだ。


「返されると思って、対策済み。さ、装着完了っと!」


「って、おい……やめっ……!」


俺の抗議もむなしく、ひんやりとした感触が手首に巻きつく。


「ほら、似合ってるじゃん!」


「……はあ……」


「嫌なら明日外してもいいから。な? 安心して」


俺はため息をひとつ吐き、肩を落とした。


「……お前、ほんと強引だな」


「えへへ。でもさ、レイには絶対似合うって思ったから」


まるで子どもみたいに笑う顔を見ていると、もういいか……って気になってくる。


(……まあ、一晩くらいなら)





「ふっ……あの時のあいつ、めちゃくちゃ必死だったな」


(……思い出すだけで、少し落ち着く)


俺は左手首のブレスレットにそっと指を添えた。


「……でも、あの夢だけは現実にしたくない」


エリスには、しばらく礼拝堂に近づかないように言っておこう。

どんな理由をつけてでも――あんな未来だけは、絶対に避けたい。

 




翌日。


セフィリアとして礼拝堂で祈りを捧げていたそのとき――


バリィンッ――!


上から鋭い音が響き、頭上のステンドグラスが砕け散った。

鮮やかな光の破片が宙に舞い、静かに降り注ぐ。


そこに描かれていた聖女の姿は、粉々に砕けていた――。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ