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元聖女な死神の古龍討伐  作者: コーン茶
古龍討伐編
1/29

元聖女な死神の古龍討伐


AIに頼りながら初めて物語を書きました。

つたない内容ですが、こういう話が読みたいと思って作ったので、誰かがこの話をリライトしてくださると嬉しいです。



魔王が倒れてから、五年が過ぎた。

世界は、束の間の平穏に身を委ねている。

大陸を覆っていた暗雲は晴れ、瘴気に蝕まれた大地も、少しずつ本来の姿を取り戻しつつある。


しかし、完全な安定にはまだ遠い。

各地に残る“残滓”――魔力に汚染された地は依然として脅威であり、モンスターの暴走が人々の暮らしを脅かしていた。


その対応に当たるのは主に冒険者たちである。

ギルドは各地から寄せられる依頼で溢れ返り、ベテランも新人も区別なく次々と任務に駆り出される日々。



夕暮れの冒険者ギルドは、酒と汗と喧騒が入り混じる活気に満ちていた。掲示板の前には人だかりができ、「緊急」と赤文字で記された依頼票に目を凝らしている。S級限定――それは数少ない頂点の冒険者のみが挑める難題のしるし。中でも一際大きく張り出されていたのは「暴走古代竜『雷牙』討伐」の報せだった。


「まったく、次から次へと厄介ごとばかり持ち込んできやがる」


肩当てに施された緻密な紋様が照明に反射する。漆黒のコートを翻し、掲示板から依頼票を引き抜いたのは――レイ=クランベルだった。周囲の視線を感じるたびに深くフードを被り直す。彼の名前と肩書はあまりに有名だった。『漆黒の死神』――現在のS級冒険者で、元魔王軍の幹部ではないかと噂されている。


しかし今宵ばかりは普段よりも鋭利な空気が漂っていた。同じ依頼票をもう一人の人物も引き抜いたからだ。


「また君とはね……相変わらずだな」


背後から声を掛けられて振り返ると、そこに立っていたのは眩しいほどの金髪を揺らす美丈夫――ユリウス。かつて魔王を打ち倒した英雄でありながら、「今は休暇中」という名目で自由気ままに各地を飛び回っているのだという。しかし目の奥にはどこか疲れを滲ませているように見えた。


「お前に構っている暇はない。これは私のものだ」


レイは冷たく言い放ち、羊皮紙を強く握りしめた。革手袋越しにも感じるインクの感触は、まるで呪いのように重かった。掲示板の片隅には小さく記されている――『推奨パーティー人数:2名以上』。


「そう言わずにさ。俺と組んだ方が早く終わると思うけどな」


ユリウスは挑発するように笑う。その青い瞳の奥には、かつて魔王を討った勇者の自信が燻っていた。だがレイには分かっていた。その輝きは本物ではない。虚勢だ。


「ふざけるな。お前のような『勇者様』と一緒に行動するなど……虫唾が走る」


吐き捨てるように言うと、踵を返して出口へ向かおうとする。しかしユリウスは素早くレイの腕を掴んだ。予想外の接触にレイの肩がわずかに跳ねた。


「離せ」


「無理だね」ユリウスは腕を放さない。「あの古代竜は並の奴じゃ太刀打ちできないぞ。君の『漆黒の死神』なんて二つ名は伊達じゃないんだろう?」


「……」レイは唇を噛んだ。


「おーっと! またやってるんですかぁ? お二人ともぉ!」


陽気な声と共に現れたのは、ギルド受付嬢のミルアだった。派手な桃色の制服に身を包み、腰には大きな鈴がぶら下がっている。


「今日のお仕事は~『推奨:2名以上』ですからぁ~♪ 仲良くやらないとダメですよ~☆」


「ミルア! 待て! 私は一人で――」


「もう手続きしちゃいまーすっ!」彼女は有無を言わせず依頼票を受理箱に投げ込んだ。「ハイ決定! これで正式にパーティー結成♪ はぁい拍手ぅ!」


呆気に取られた二人の背後で、他の冒険者たちが苦笑しながら手を叩いている。レイは深々と溜息をつき、ユリウスは肩をすくめた。


「まったく……君とは一生分かり合えない気がするよ」



*



夜営の焚き火は赤々と燃えていた。パチパチと木が爆ぜる音だけが静寂を破る。レイは岩陰に背を預け、剣を抱いて仮眠を取ろうとしていた。月明かりすら煩わしいはずなのに、なぜか今夜は目が冴えてしまう。


ユリウスは少し離れた場所で見張り番をしていた。黄金の鎧は火の光を跳ね返し、時折風に揺れる金髪が炎のように煌めく。いつもなら口数の多い彼が今日は不自然に静かだった。


「……おい」


沈黙に耐えかねたのか、珍しくレイから声をかける。


「何だ?」


「寝ないのか」


「……見てるんだよ。君が妙な真似しないかどうか」


「ふん。私が裏切るとでも?」


「いや」ユリウスは一瞬口ごもった後、ポツリと言った。


「昔の仲間を思い出すだけだ」


その言葉にレイは目を開けた。聖女のことだろう。魔王との決戦で勇者を庇って命を落としたと言われている。


「私とそいつは違う」


「分かってるさ」ユリウスは自嘲気味に笑った。


「でも……どこか似てる」


「何が?」


「覚悟の決め方だよ」


レイは何も答えなかった。ただ黙って剣の柄を握り直す。遠くの森で獣の鳴き声が響いた。



翌朝、二人は谷底を歩いていた。霧が立ち込め、湿った岩肌が滑りやすい。この先に古代竜の巣があるはずだ。


「来るぞ」


ユリウスが低く警告した瞬間、大地が震えた。轟音とともに巨大な翼を持つ影が姿を現す。鱗は黒曜石のように光り、稲妻のような模様が刻まれている。まさに伝説の『雷牙』。


「下がれ!!」


叫び声に反応する間もなく、ユリウスは突撃していく。光の剣が閃き、神聖魔法の光輪が展開する。しかし雷竜はそれを嘲笑うかのように尾を振るった。衝撃波が地面を砕き、ユリウスは吹き飛ばされる。


「馬鹿が!」


レイは舌打ちしながら駆け寄った。闇の魔力を纏った刃が、音もなく雷竜の懐へと滑り込む。漆黒の刃が喉元を狙うが、硬質な鱗にはじかれた。その隙を突かれ、雷のブレスが直撃する寸前――


「危ない!」


ユリウスの光壁が間に合い、稲妻を弾いた。しかし代償は大きかった。魔法障壁は崩壊し、ユリウスは膝をつく。


「まだ立てるか?」


レイは剣を杖代わりに立ち上がりながら言った。血の滲む額を拭う。


「当たり前だ」


ユリウスはフラつきながらも剣を支えに立ち上がる。二人の視線が交差した。


「一つ提案がある」レイが低い声で切り出した。


「私たちの魔法を合わせれば……こいつを倒せるかもしれない」


「正気か? 光と闇だぞ」


「だからこそだ。相反する力がぶつかるとき――」


レイは深呼吸をすると、足元に広がる影を操り始めた。漆黒の触手が地中から這い出し、雷竜の動きを封じようとする。同時にユリウスは上空から光の雨を降らせ、注意を引く。雷竜が混乱し動きを鈍らせたその瞬間――


「今だ!」


レイとユリウスは同時に地面を蹴った。レイの体は影に溶け込み、雷竜の死角へ。一方ユリウスは全身から眩い光を放ちながら正面から突進する。


「《聖なる槍》!」

「《黒斬》!」


光と闇が交錯する。白銀の光の槍と漆黒の刃が同時に雷竜の首を貫いた。巨体がゆっくりと傾き、地響きとともに崩れ落ちる。


「……やったか」


ユリウスが荒い息で呟いた。レイは無言で剣を鞘に収める。その表情は勝利の喜びではなく、奇妙な虚無感に満ちていた。



帰りの道中、村はずれの丘に辿り着いたレイは、石段に腰かけた。夜風がマントの裾をはためかせる。空には満天の星。かつては毎晩のように見上げていたのに、今夜はなぜか違って見えた。


ふと、右手の甲が疼く。見れば指先にほんの小さな傷があった。さっきの戦いで受けたものだろう。しかし気にするのは傷の痛みではなく――


「……痛むのか?」


思考を断ち切るように、ユリウスの声が背後から届く。振り向けば、薬草の包みを手にした彼が静かに立っていた。


「つけてやろう」


有無を言わさず隣に座り込むユリウス。強引だが不思議と抵抗する気になれなかった。


「お前らしいな」


「何が?」


「そういうところだ」


淡々としたやり取りの中、薬を塗るユリウスの指先が触れ合う。瞬間、記憶の奔流が押し寄せた。



***



――「ここが気に入った?」


十年前。神殿裏手の薔薇園で。白いドレス姿の美しい少女が金髪を風に靡かせながら頷く。


「とても美しい場所です」


彼女はまだ十五歳だった。穏やかな瞳が薔薇の花弁のように柔らかく輝いている。


「君はきっと将来、有名な聖女になるよ」


冗談めかした口調で笑いながら言うと、少女は頬を染めた。


「私はまだまだ未熟者です……」


「大丈夫だ。君には特別なものがある。俺にはわかるよ」


「……ありがとうございます」


彼女の笑顔に、ユリウスの耳が赤くなる。

二人はお互いに友人以上の感情を抱き始めていることを自覚していたが、口に出すことはなかった。


「ユリウス様」


不意に真剣な声音になる。


「私は……いつまでこんな穏やかな日々を送れるのでしょうか」


「どういう意味?」


「最近、夢を見るのです。黒い翼を持った何かが……この王国を破壊する夢を」


その言葉に含まれる意味を理解できる者はいなかった。ただユリウスは、彼女の直感を信じるのみだった。


「大丈夫だよ」


根拠のない励ましだったが、彼女の表情が僅かに和らいだ。


「ユリウス様が言うなら安心です…」


夕暮れ時。二人きりの薔薇園で交わされた約束――それが後にどれほど残酷な形で破られるかも知らず。



***



「おい、聞いてるか?」


ユリウスの声で我に返った。目の前には心配そうな碧い瞳がある。


「いや……昔のことを思い出していた」


ユリウスは柔らかな笑みを浮かべる。


「奇遇だな。俺もだ」


彼の口から漏れた言葉に含まれる温もりが、レイの冷えた心に小さな波紋を呼び起こした。だがそれを認めるわけにはいかなかった。ここにいるのは、もう聖女ではない。闇の魔力を持ち多くの人に恐れられる死神だ。


「終わったよ」


ユリウスの言葉で現実に戻る。見れば、右掌の傷口はきれいに処置されていた。


「感謝する」


低く呟く声にはかつての甘さは欠片も残っていない。それでもユリウスは満足げに頷いた。


「君の手は特別だ。……大事にしろ」


「は?どういう意味だ?」


問い返すが返答はない。ただ黙って夜空を見上げているだけだった。



森は静かだった。静かな風が木々の間を抜けていく。突然、前方から小さな影が駆けてきた。


「勇者さまー!」


村の子供だろう。無邪気な笑顔で手を振っている。しかしレイの姿に気づくと、途端に表情が強張った。


「……あれ? そっちの人……なんか怖い」


怯えた眼差しを受け、レイはフードを目深に被り直す。慣れてはいるが……


「彼は私の『剣』だ」


ユリウスの声が静かに響いた。子供は驚いたように目を丸くする。


「剣? この人が?」


「ああ。誰よりも鋭くて……どんな敵も斬り裂く最高の剣だ」


レイは足を止め、背後に立つ勇者を振り返った。その言葉の意味を測りかねるように眉をひそめる。


「ふん……勘違いするな。お前のために戦ったんじゃない。あくまで――」


「分かってる。でも感謝してる」ユリウスは微笑んだ。


その笑みに、レイは思わず息を止めた。

心のどこかで――そう言われたかったのかもしれない。


レイは言葉に詰まった。風が吹き抜け、二人のマントを揺らす。



*



街道は徐々に人里へ近づいていた。村の家々が見え始めたころ、ユリウスが唐突に口を開いた。


「君は魔王軍にいたと噂されているな」


レイは目を細めた。フードの影で表情は読めないが、わずかに肩が強張る。


「だけど――」ユリウスは前を向いたまま続けた。


「俺は知ってる。君が本当はどんな人か」


「は?」レイの声が尖る。


「一緒に戦えば分かる部分もある。君は……優しいよ」


「馬鹿なことを」レイは鼻で笑った。だがその口元は少しだけ緩んでいた。


村に到着すると、歓迎ムード一色だった。雷竜討伐のニュースは既に届いており、子供たちが「勇者様万歳!」と叫びながら駆け寄ってくる。ユリウスは笑顔で手を振りながらも、ちらりと横のレイを見た。


「どうする? 君も英雄扱いされるか?」


「冗談じゃない」レイは冷たく言い放つ。


「そっか」ユリウスは肩をすくめた。「じゃあそれでいいさ」



*



村長宅での祝宴は盛大だった。テーブルには山盛りの料理が並び、老若男女が入れ替わり立ち替わり祝辞を述べに来る。しかしレイは壁際に立ったままほとんど何も食べようとしなかった。


「そんなところに立ってないでさ」


ユリウスが皿を両手に現れた。中央のテーブルから山盛りの肉料理やパイを取り分けてきたらしい。


「ほら、せっかくの戦勝祝いだ。少しは口にしたらどうだ?」


「必要ない」


「嘘つけ。君だって腹減ってるだろ? それにほら」ユリウスは皿の一角を指さす。「焼き葡萄だぞ。甘いものは嫌いか?」


「……」レイの瞳が微かに揺れた。その瞬間を見逃さず、ユリウスはニヤリと笑う。


渋々といった感じでレイが皿を受け取る。フォークで刺した焼き葡萄を口に運ぶ動作は驚くほど丁寧だった。指先を隠す革手袋はすでに外しており、陶磁器のように白い肌が露わになっている。


その様子を見ていたユリウスの脳裏に、かつての聖女セフィリアの面影が重なった。


まだ神殿にいた頃、彼女が蜂蜜漬けの野いちごを嬉しそうに口にしていた姿――。


ユリウスは我に返り、はっとして視線を逸らした。隣ではレイが、怪訝そうな目でこちらを見ていた。


「何をぼんやりしている」


「いや、何でもない」ユリウスは誤魔化すように自分の皿から肉を一切れ取り上げる。「君があまりにも美味しそうに食べるからさ」


レイは眉をひそめた。「適当なことを言うな」


「本当だってば。顔がほころんでるぞ」


レイの目尻が微かに赤くなる。「冗談はよせ」


宴の喧噪が再び二人を包み込む。



*



人々が三々五々散っていく頃だった。月明かりの下、ユリウスは一人グラスを傾けていた。


(似ている……)


脳裏を掠めるのは十年以上前の記憶だ。純白の法衣を纏った金髪の少女が微笑む姿。聖女セフィリア。かつて共に戦い、そして二度と帰ることはなかった。


「何を悩んでいる?」


不意に聞こえた声に振り向くと、漆黒のローブに身を包んだレイが立っていた。銀髪が月光を浴びて鈍く輝いている。


「別に。ただ考え事をな」


「戦死者のことか?」


「いや……もっと個人的なことさ」


レイは訝しげに眉をひそめた。珍しく無防備な様子が妙に気になって仕方がない。


(こんなところまで……)


そう思った瞬間、あることに気づく。レイが立つ位置はちょうどセフィリアの定位置と同じだった。戦闘中も常に背後から支援魔法をかけてくれた場所。


「レイ……」


思い切って切り出す。「聞きたいことがある」


「何だ?」


「聖女セフィリアとどんな関係だったんだ?」


レイの表情が僅かに強張る。ユリウスはさらに踏み込んだ。


「正直に答えてくれ。セフィリアが行方不明になった時のこと」


「知らん」


即答だった。しかし声の端に微かな動揺が混じっている。


「嘘だ」


ユリウスは断言した。「お前の態度を見ていれば分かる」


「勘違いだろう」


レイは短く否定するが、その視線は落ち着きを失っていた。まるで核心を突かれたかのように。


(やっぱり……)


疑念は確信に変わりつつあった。だが同時に矛盾も生じる。レイは男性だ。


(でも……)


思考が堂々巡りを始める。レイの所作には女性的な繊細さがあった。例えばさっき葡萄を食べた時の仕草。指先で実を摘み上げる動作一つとっても洗練されていて――セフィリアそのもののようだった。


「おい」


レイの声で我に返る。訝しげな目が向けられている。


「何を考えている?」


「いや」


答えに窮する。「ただの想像だよ」


「くだらん」


静けさだけが、ゆっくりと場を満たしていく。


ユリウスは外を眺めながら


「次はどこへ行くつもりなんだ?」


「知らん。依頼が来れば行く」


「俺も付いて行っていいか?」


「好きにしろ」レイはそっぽを向いたまま答える。


「ありがとう」ユリウスは嬉しそうに笑った。「やっぱり君は優しいな」


「それ以上言うな。斬るぞ」


「ははっ!」



*



背後から足音が近づいてくる。振り返るまでもなく、それが誰かは分かっていた。


「次の依頼、来てるよ」


「また厄介ごとか?」


「もちろん」


ふたりは目を合わせ、微かに笑った。

そして何も言わず、肩を並べて歩き出す。


長く伸びた影が、ゆっくりと街道の先へと溶けていった。






回想シーンで聖女の祈りについての記載を削除しました。

一部誤字修正しました。

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