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季節…夏 時間…昼 天気…雨 曜日…火曜日 キーワード①…鍵 キーワード②…不幸
火曜日の昼。
本来ならアスファルトが焼けるような真夏日になるはずだったのに、
その日、空は静かに、重たく泣いていた。
傘も差さずに立ち尽くすその子の手には、
銀色の鍵がひとつ、ぎゅっと握りしめられていた。
小さくて、冷たくて、どこの鍵かももう思い出せない。
いや、本当はわかってる。
思い出したくないだけだった。
「これが開けるのは、あの日の不幸だけ」
誰に言うでもなくつぶやいた声が、雨に消されていく。
あの扉を開けなければ、知らずに済んだはずだった。
けれど、一度見たものは消せないし、開いたドアはもう閉まらない。
手のひらに残った鍵の跡が、まるで罪の証みたいに赤く腫れていた。
夏の雨は止まない。
昼なのに、街はまるで、夜みたいだった。