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季節…梅雨 時間…夜 天気…台風 曜日…土曜日 キーワード①…消しゴム キーワード②…敗北
土曜日の夜。
風が窓を軋ませ、雨が屋根を叩いていた。
ニュースでは「記録的な台風」とか言っていて、
外はまるで世界が終わるかのような音を立てている。
でも、その部屋の中では、
たった一つの消しゴムが、すべてを支配していた。
机に広げられたプリントの隅、
何度も何度も消そうとしても、うっすら残る赤い丸と「×」。
「やっぱダメだったか……」
濡れたような声で、少年がつぶやく。
消しゴムは小さく欠けて、手のひらに黒い粉が残った。
それは答案だけじゃなかった。
「頑張ってるって思われたくて」ついた嘘も、
「次こそは」って笑った約束も、
消しゴムみたいにこすって消せたら、どんなに楽だったか。
でも、何をどう消しても――
自分の中の“負けた”って気持ちだけは、残った。
雷が遠くで鳴る。
部屋の中の空気が、少しだけ揺れた。
少年は手を止めて、消しゴムをそっとペンケースに戻した。
その動きに、敗北を認めるような静けさがあった。