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季節…秋 時間…朝 天気…晴れ 曜日…水曜日 キーワード①…網 キーワード②…刹那
水曜日の朝。
空はすっきりと晴れて、風は冷たくて、どこか懐かしい匂いがしていた。
校庭の隅、草むらにしゃがみ込んだ少年の手には、虫取り網。
すでに夏は過ぎ去っていた。
蝉の声はもうどこにもなくて、代わりに遠くから運動会の練習の声が聞こえてくる。
「もう、いないかな…」
それでも彼は、網を振った。
空へじゃなくて、草の中へ――
まるで何か“過ぎ去ったもの”を追いかけるように。
そのとき、小さな影が網の中に飛び込んだ。
小さな蝶。羽根の模様は秋の木の葉みたいな淡い色。
彼は、網を持ち上げたまま動けなくなった。
綺麗すぎて、壊してしまいそうで。
だけど蝶は、その一瞬で飛び去っていった。
彼が何かを言うよりも、名前をつけるよりも早く。
網の中には、風だけが残っていた。
「……刹那って、こういうことか」
そう呟いて、彼は網をそっと伏せた。
朝の日差しはまだ優しくて、でも確かに時間は進んでいた。