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季節…梅雨 時間…午後 天気…雨 曜日…金曜日 キーワード①…鏡 キーワード②…生
金曜日の午後。
窓の外では、変わらず雨が降っている。
激しくもなく、優しくもなく、ただ静かに、
でも確実に、世界を濡らしていた。
鏡の前に座ったまま、少年は動かなかった。
湿気で前髪が張りつき、制服の袖が少し重い。
でも、気にする余裕もなかった。
「これが、生きてる顔?」
鏡の中の自分は、どこか他人のようだった。
目の奥に光があるのかすら、よくわからない。
ただ、呼吸をしている――それだけが、
自分がまだ“ここ”にいる証だった。
鏡の表面を、指先でなぞってみる。
曇ったガラスが、その指の跡を残す。
「ここに、いる。たしかに。」
その言葉は、誰かに聞かせるためでもなく、
ただ、自分自身のための宣言だった。
外の雨音が少しだけ強くなった気がした。
そして、鏡の奥の“自分”も、少しだけ――
目を覚ましたように、瞬きをした。