13/17
季節…夏 時間…朝 天気…台風 曜日…火曜日 キーワード①キーワード②…生
火曜日の朝。
カーテンが激しく揺れ、風が窓を叩いていた。
台風が本格的に上陸して、学校は休み。
だけどその部屋には、いつも通り、蚊取り線香の匂いが漂っていた。
くるくると渦を巻いた緑色の線香は、火をつけてから数時間。
強い風の音に逆らうように、静かに、でも確かに煙を上げている。
「なんで……まだ、生きてんの?」
少年はぼそっと呟いた。
誰かに向けて、というより、自分自身に。
机の端には、破りかけの日記帳。
その隣には、小さな箱に収まった、飲み残しの薬。
けれど今、彼はそれを見ていない。
ただ、消えかけた蚊取り線香の先端をじっと見つめていた。
「消えかけても、まだ火は残ってるんだよな……」
窓の外では、木々がなぎ倒され、世界がぐちゃぐちゃになっていた。
でも、その小さな渦巻きの中だけは、まだ静かに“生”が続いていた。
煙は、彼の鼻をつき、目をしみさせ、心の奥にまで染み込んでいく。
そして彼は、そっと日記帳のページを閉じた。
今日のページは、まだ白いままだった。