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見えない変化

突風に目を閉じていた栞が、ふと目を開けるとそこは自分の部屋だった。祠の前にいたはずなのに、気がつけば布団の上で横になっている。


「あれ?」栞は身体を起こし、周囲を見回す。外からはおばあちゃんが飼っているカナリアの鳴き声が聞こえる。


自室の時計は午前8時を指していた。「夢だったのかな…?」そう呟きながら、栞は自分の手を見る。すると、掌に泥のような跡がついていることに気がついた。


「え?」


慌てて洗面所に駆け込む。手を洗おうとするが、泥はこすっても落ちない。それどころか、掌には小さな葉の模様が浮かび上がってきていた。


「これ、なに…?」




栞が居間に入ると、父親とおばあちゃんが朝食を取っていた。テレビでは朝のニュースが流れている。


「栞、おはよう。今日は学校遅刻しないようにな。」父親が新聞をめくりながら言う。


「ああ…うん。」

栞は生返事をしながら椅子に座る。妙な違和感を覚えるのは、祖母がじっと自分を見ていることだった。


「お前、夢でも見たか?」父親が目を細める。


「え?」栞が驚くと、父親はクスッと笑った。「寝言で何か言ってたみたいだぞ。『柳…柳の本』とか言ってた。」


「柳の本…?」その言葉に栞はハッとした。夢の中で見た村の名前だ。けれど、自分はそんな名前を聞いたことがないはずだ。


「まあ、気にするな。変な夢でも見たんだろう。」



朝食の後、栞が台所でお皿を片付けていると、祖母がそっと近づいてきた。


「栞ちゃん、さっきの話だけどね。」祖母は声を潜めて言った。「『柳の本』って言ったの、本当なの?」


「え?」栞は驚きつつも頷いた。「うん、でもどうして?」


祖母は少し考え込むような表情を浮かべた。「その名前はね、昔おじいちゃんが話してくれたことがあったの。もうずっと昔の地名なんだって。」


「え、おじいちゃんが…?」栞は戸惑いを隠せなかった。祖父は自分が生まれる前に亡くなっており、顔も知らない存在だ。それなのに、祖母がその地名を知っていることに奇妙なつながりを感じた。


祖母は続けて言った。「おじいちゃんが話してくれたのは、祠にまつわる不思議な話だったの。でも、それが本当かどうかは分からないわ。」


「祠…って、どんな話?」栞が尋ねると、祖母は少し困ったように笑った。「それを思い出すには、時間がかかりそうね。」



その日、学校に向かう道すがら、栞はずっと手の模様を手袋で隠していた。頭の中では、祠や石蛙、柳の本という言葉が繰り返し浮かんでいた。


「一体、何が起きてるんだろう…。」


栞は無意識に学校の方ではなく、再び祠のある場所へ足を向けていた。現代の祠がどうなっているのか、確かめずにはいられなかったのだ――。

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