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志乃との出会い

栞は、女性に支えられながら家の中に入った。温かい室内に、木の香りが漂っている。栞はほっとした気持ちで目を閉じ、しばらくその静かな空気を味わった。


「どうぞ、座ってください。」志乃が柔らかな声で言った。栞はその言葉に従い、座布団に腰を下ろした。


「ありがとうございます……。」栞は静かにお茶を受け取り、少しずつ口に運ぶ。その温かさが心地よく、少し落ち着きを取り戻すことができた。


志乃は、その様子を静かに見守りながら、自分も席についた。そして、栞に向かってにこりと微笑みかける。


「でも、あんなところで倒れているからビックリしましたよ。」志乃は少し驚いたように言った。栞はその言葉を聞いて、あの時の自分がどんな状態だったのかを思い出し、恥ずかしさを感じた。


「すみません、変なところで倒れてしまって……。」栞は顔を少し赤らめながら謝った。


「いや、別に気にしないでください。」志乃は穏やかに言った。「でも、どうしてこんなところで倒れていたんですか?あなた、どこから来たんですか?」


栞は一瞬迷ったが、嘘をついても仕方ないと思い、素直に答えることにした。


「私は……木之本町から。」


志乃はその言葉をじっと聞き、しばらく考え込むように目を細めた。「木之本町……その名前、私は聞いたことがありませんね。ここは柳の本という地名ですし、少し離れたところに村がありますが……あなたは本当に木之本町から?」


栞はその質問に少し驚きながらも、答える。「はい、木之本町から。おそらく、こことはだいぶ違う場所だと思います。」


志乃はその答えを静かに受け入れ、何も言わずに栞を見守った。栞はその視線を感じながらも、何か不安な気持ちがぬぐえなかった。目の前の女性、志乃の目が少し気になる。それが普通の目ではないことを、栞はじっと感じ取っていた。


「私は……栞です。伊香栞。」栞は自己紹介をし、少し照れくさそうに頭をかいた。「ここでお世話になって、本当にありがとうございます。」


「栞さん、ですね。」志乃はその名前にうなずき、しばらく考えるように口を開いた。「私は志乃。柳の本で育ちました。今は、この辺りで一人暮らしをしています。」


「志乃さん……。」栞はその名を口にし、ふと思い出す。何か、どこかで聞いたことがあるような名前だが、はっきりと思い出せなかった。


「実は、あなたが倒れているのを見つけたとき、少し驚きました。」志乃は穏やかな声で続けた。「あんなところで、しかも急に現れて……本当に驚きました。」


栞はその言葉を聞いて、もう一度倒れた場所を思い出した。あの森の中、周囲はひっそりとしていて、まるで人の気配がないような場所だった。それに、自分が目を覚ましたときのあの感覚。何かおかしいと思いながら、志乃の言葉に答える。


「私は……気づいたとき、全然覚えてなくて。どうしてここにいるのか、全く分からないんです。」栞は言葉を選びながら、言った。


志乃はじっと栞を見つめ、その目の中にある不思議な輝きに気づいた。「そうですか。」志乃は穏やかに言ったが、その目には何かを見抜くような深さが感じられた。


「もしかしたら、あなたにはここに来るべき理由があるのかもしれませんね。」志乃はふと口を開き、栞を見守る。「少なくとも、私はそう感じます。」


栞はその言葉に驚いた。自分が何も知らないうちに、この場所に導かれてきたのは、何か意味があるのだろうか。しかし、それを確かめる術もなく、ただその不安と共にこの異世界のような場所で過ごすことになった自分に、ますます混乱していった。

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