祠に隠された秘密
栞たちは苔むした小さな祠の前に立ち、慎重にその佇まいを見つめていた。
「これ、本当に開けていいのかな?」美咲が不安げに言う。
「もしバチが当たったらどうする?」翔太も少し躊躇する様子だった。
だが、栞は黙ったまま、ポケットに入れていた鍵を取り出した。
「これ、試してみる価値はあると思う。……もし、何かあったら私のせいだから。」
祠の扉には古びた南京錠がかかっていた。栞がそっと鍵を差し込むと、カチリと音を立てて錠が外れる。
「本当に開いちゃった……。」美咲が息を呑む。
栞はゆっくりと祠の扉を開けた。中には石でできた蛙の像が祀られていた。
「蛙……?なんで蛙なんだろう?」翔太が首をかしげる。
栞はその蛙をじっと見つめた。滑らかな石の表面、細やかに彫られた姿――だが、よく見ると異変に気づく。
「片目がない……。」
栞が呟くと、美咲と翔太も蛙の片方の目がくぼんでいることに気がついた。
「これ、片目がないんだね……。どうしてだろう。」美咲が少し不思議そうな顔をした。
「なんか意味がありそうだよな。この祠に祀られてるくらいだし。」翔太が言葉を続ける。
栞は蛙に手を伸ばしかけたが、なぜか触れることをためらった。その時、不意に声が耳の奥に響いたような気がした――まるで誰かが囁いているかのように。
「……身代わり……。」
「え?」栞は驚いて周りを見たが、美咲も翔太も気づいていない様子だった。
「どうしたの?」美咲が尋ねる。
「今、誰かの声が……いや、なんでもない。」栞は首を振り、再び蛙をじっと見た。
すると、ふとした瞬間に頭の中にイメージが流れ込んできた。目の見えない町娘が、ある日この蛙を抱きしめるようにして祈っている姿――。
翔太が蛙を指差しながら話し出した。
「これ、もしかして『身代わり蛙』じゃないか?昔、この辺りでこんな話を聞いたことがある。」
美咲も興味を示した。「身代わり蛙?それってどんな話?」
翔太は地元で耳にした伝説を語り始めた。
「昔、この町に目の見えない娘さんがいたらしいんだ。家が貧しくて、治療もできなかったんだけど、ある日その娘がこの蛙の祠を見つけたんだって。彼女は毎日、ここで『せめて少しでも世界が見たい』って祈り続けたらしい。
ある夜、蛙が夢に現れて『片方の目を君にあげる』って言ったんだ。次の日、彼女は本当に片目で景色が見えるようになった。でも、蛙の像の片目が消えていたんだって。」
翔太が話を終えると、美咲が神妙な顔で言った。
「……だから身代わり蛙って呼ばれてるのね。自分の一部を捧げて、誰かを救ったから。」
「でも、それが本当なら……なんでこの蛙にそんな力があるんだろう?」栞は呟くように言った。
翔太が付け加えた。「その答えが、この地図に繋がるかもしれないな。」
その後、栞は再び蛙を見つめた。何かに引き寄せられるように、無意識に手を伸ばしてしまう。
「ちょっと待って、本当に触るの?!」美咲が止めようとするが、時すでに遅かった。
栞の指が蛙の片目がないくぼみに触れた瞬間、目の前の空気が歪み、強烈な光が彼女を包み込んだ。
「栞?!」美咲と翔太の声が遠のき、栞は気を失うように意識を手放してしまう。