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地図の示す場所

次の日、栞は少し眠そうな顔で教室に入った。昨夜の出来事が気になりすぎて、眠りが浅かったのだ。教室では、幼馴染の田所美咲が席についてスマホをいじっている。


「栞、なんか顔色悪くない?昨日遅くまで何してたの?」

美咲が気軽に声をかけてきた。彼女のそういう何気ない気遣いが、栞にはいつもありがたい。


「いや、ちょっと考え事しててね……変な話なんだけどさ。」

「変な話?」美咲の目がキラリと光った。「ちょっと栞っぽくないじゃん、聞かせてよ。」


栞は鞄から例の地図を取り出し、美咲に見せた。


「これ、昨日神社で出会った人にもらったんだ。なんか古びた地図みたいなんだけど、どこを指してるのか全然分からなくて。」


美咲は地図を受け取ると、しばらく見つめた。


「わぁ、めっちゃ古いね。でも面白い。これ、地図ってことは分かるけど……字とか薄すぎて読みにくいね。」

「そうなんだよね。ほら、この端っこのところ、何か書いてあるみたいだけど解読できないんだ。」

栞が地図の隅を指差すと、美咲も顔を寄せて目を細めた。


「……えっと、これ、たぶん『石』って書いてるんじゃない?」

「石?」

「うん、『石』に『祠』みたいな字が隣にある……あ、これ『祠』だよね?」

「たしかに見えるね。石の祠……?」栞は首をかしげた。「でも、そんな場所心当たりないし……。」


美咲は少し考え込むような顔をした後、笑顔で栞を見た。

「栞、これさ、もしかして宝の地図なんじゃない?!」


「は?」栞は思わず吹き出した。「そんなわけないでしょ。」

「でもさ、考えてみてよ!神社で出会った謎のおばあさんがこんなの渡してくるなんて、まさに冒険の始まりって感じじゃん!」


美咲の冗談混じりの言葉に、栞もつられて笑ってしまった。


「まぁ、それは置いといて……この丸いマークって何だろう?お地蔵様みたいに見えるけど。」美咲が地図の真ん中あたりを指差した。


「お地蔵様?」

「うん、ほら、この丸い形と、その上に線みたいなのがあるじゃん。何となくお地蔵さんに似てない?」


栞は地図を再び見直した。確かに、お地蔵様を彷彿とさせるような丸い模様が描かれている。


「でも、それだけじゃ分からないよね。木之本町って、お地蔵さんが多いし。」

「だよねー。でも、栞が昨日行った神社に関係があるんじゃない?そこにお地蔵さんとかいなかった?」


「うーん、特に見覚えはなかったけど……。」


その時、後ろの席にいた山本翔太が会話に加わった。

「お地蔵さんの話?何それ、面白そうだね。」


美咲が地図を翔太に渡すと、彼は一目見て驚いた顔をした。

「これ、木之本地蔵院の境内じゃない?」

翔太が言った言葉に、栞も美咲も顔を見合わせた。


「え、本当に?」栞が驚いて聞き返す。

「いや、確証はないけど、前に親に連れられて地蔵院の縁日に行ったとき、境内の案内板にこんな地図があった気がするんだよな。」


その言葉を聞いて、栞と美咲の記憶にも、地蔵縁日の情景が蘇る。


あれはまだ3人が中学生だった頃の夏のこと。木之本町で毎年行われる「地蔵縁日」は町中が活気づき、屋台や人々の笑顔であふれる一大イベントだった。


「わー、すごい人!」

浴衣姿の美咲が楽しそうに声を上げた。

「これだから縁日は最高なんだよな。」翔太は手にした綿菓子をかじりながら、少し得意げな顔をしている。


栞は家の手伝いを終えて遅れて到着したため、制服姿だった。

「二人とも早いね。私、急いできたのに。」

「ごめんごめん、でもほら、一緒に回ろうよ!」美咲が栞の手を引き、屋台の並ぶ通りへと誘った。


3人は射的やヨーヨー釣りを楽しみ、最後に地蔵院の境内で行われる灯籠流しを見るために本堂前に並んだ。


「灯籠、きれいだね……。」栞がつぶやくと、美咲も翔太も静かに頷いた。

その時、翔太がふと境内に立つ案内板を指差した。

「これ見て。地蔵院って、こんなに広いんだな。ほら、ここの地図とか面白くない?」


「ほんとだ、ちょっとお宝探しみたい。」美咲が興味津々で近寄り、地図を覗き込む。

「でも、ここにある場所全部見たことないよね。」

「まさか隠し部屋とかあったりして。」翔太が冗談めかして言うと、3人は笑い合った。


その記憶が、今になって鮮明によみがえる。

「確かに、縁日の時に見た地図と似てる気がするな……。」栞が呟いた。

「じゃあ、行ってみる?今のところ他に手がかりもなさそうだし。」翔太が提案する。


「ちょっと待ってよ、授業終わってからじゃないと先生に怒られる!」美咲が慌てて言うと、3人は顔を見合わせて笑った。


放課後、3人は木之本地蔵院に向かった。学校から自転車で20分ほどの距離にあるその場所は、静かな木々に囲まれ、どこか神聖な雰囲気が漂っていた。


「懐かしいね。最後に来たの、たぶんあの縁日以来じゃない?」美咲が周囲を見回しながら言う。

「そうだな。でも、今回は縁日の賑やかさとは正反対で、ちょっと不気味だな。」翔太が苦笑する。


3人は地図を見ながら境内を歩き回った。そして地図に記された「石の祠」と思われる場所にたどり着く。そこには苔むした古い祠が立っていた。


「これだ……。」栞は祠の前で足を止め、思わず声を漏らした。

「間違いないね。でも、これだけで終わりってわけじゃなさそう。」翔太が祠を調べながら言う。


栞が地図を再び広げると、何か新しい手がかりが現れるかのように思えた――。

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