ゆうれいのうた
仕事、仕事、仕事...
今はそればかりで何も楽しくない。
それどころか死にたいまである。
そう思いながら男は帰路を辿った。
「風呂入るかぁ...」
時刻は22時を過ぎた頃、家に帰ってすぐ風呂場に向かい風呂場で聴く曲を決めながら服を脱いだ。
曲を決めると同時に風呂場に入っていく。
音楽を流しながら頭を洗い始めると
「この曲懐かしいですね〜」
知らない声が聞こえた。
男はその声で驚いた。死ぬかと思うくらいに。
泡が目に入らないよううっすら目を開けると
そこに半透明の人間がいた。
「幽霊...ですか...?」
男は恐る恐る尋ねてみた。
「...あ、私ですか?そうです!幽霊さんです!」
思ったよりも元気な幽霊に男は戸惑いつつ少し安心した。
(死ななそうでよかったぁ〜...)
安堵した途端男は疑問に思った。ここで風呂に入るのなんて初めてのことじゃないのになぜ急に現れたのか。
「あの〜...こちらにはどのようなご用件で?」
「いい曲ながしてるなと思って!笑」
幽霊が思ったらご機嫌なのと曲を褒められたことでテンションが上がった男は
「そうっ..すよね!いいっすよね!」
男がながしていた曲は昔自分で作詞作曲をし、さらに駅で弾き語りをした彼の黒歴史曲だった。駅といっても地方の小さな駅だったが客はいた。放課後の学生、帰宅途中のサラリーマン、いつも暇そうな老人。
そんな客にきかせていた曲を数年ぶりに褒められて舞い上がったのだ。
「この静かな感じ超落ち着くしね〜」
(.....)
駅で弾き語りをするくらいだから爽やかなラブソングや青春ソングだと思っただろう。この男はしっとりとした失恋ソングをボソボソ歌っていただけである。
そのことを思い出し苦虫を噛み潰す思いをしながら
同時にあまり歌詞を重視しないタイプの幽霊で良かったと思う。
「私この曲どっかで聞いたことあるんですよねー
まあどこか思い出せないんですけど」
「そりゃあそうですよ。だって自分がつくった曲ですし。」
「え?!あなたミュージシャンなの?!」
この曲を知っててなぜ自分を知らないのか疑問に思った。がそう話しているとそろそろ曲が終わりそうだ。
「今なら生歌きかせてあげますよ?笑」
軽い冗談を言ってみたが何も返事がない。
冗談がきらいなタイプの幽霊なのとかと思ったらその曲が終わると同時にいなくなっていたらしい。
本当に曲目当てすぎで男は若干ひいていたが頭を洗い流し湯船に浸かって少し考えてみた。
(あの曲をしっていたってことはあの駅使ってた人な のかな....)
(しかもそれが幽霊ってことは.....)
その先はあまり考えないようにした。
まあ頭を洗っていて姿をみてないから絶対とはいえないけど。もしかしたらしっとりとした失恋ソング好きなただの幽霊だったかもしれない。
明日の仕事は少し手を抜いてみようかな。