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優秀な女上司と年上無能部下

作者: ヒロモト


容姿端麗の女。それも20代で女性向けファッション雑誌『レディア』の編集長になった私は優秀だと言えるでしょう。

就任した直後は『まだガキじゃねぇか』『女のくせに』『枕営業だ』『女に何が分かる。俺は俺のやり方でやらせてもらう!』『セクシーな足とおっぱいだねぇ。触らせてくれたら働くよ?』と反発する部下もいましたが、全員感情的に動く動物だと思い理屈と権威と法律でねじ伏せました。

無能ほどよく反発し権利を主張するものです。

頭の良いフリをするぐらいなら無能らしく努力すればよいのに。

自分の無能を認めることで無能は平凡への光明を見ることが出来るのです。


「来て頂きありがとうございます」


レディアにあっても無くても困らない『カップルのイチャイチャぶり』『赤裸々初体験』『ラブラブドッキリ』などをテーマにした『レディア!今日のおノロケ』のページを担当する山田は私にそう挨拶をしました。

今後これ以上のポストは見込めない冴えない33才。

それが第一印象でした。

彼は女の上司である私に敵対心も性的視線も向けませんでした。

私は男性の性欲を否定はしません。

英雄色を好む。優秀な人間は性欲が強いものです。

つまり彼は無能。それかゲイです。


「来てくれてありがとう」


は彼の口癖でした。

その言葉の対象は人だけではありません。

新しい椅子。新しい机。ハンカチ。ボールペン。スマートフォン。

何を買っても支給されても彼はお礼を言うのです。

私は彼に何故礼を言うのかと尋ねました。


「椅子があるから座れる。ハンカチがあるから汚れた手を拭ける。スマートフォンは知らないことを教えてくれます。きっと彼らも感謝された方が長生きしてくれると思うのです」


「感謝が無くても検索フォームは開けますよ」


私がそう言うと


「まぁ自己満足ですね」


と彼は笑いました。


それを見て私は何故か自分がとても矮小な存在だと自己嫌悪を覚えました。


「お話聞かせて頂きありがとうございました」


『『どういたきましてー』』


山田の仕事に付き合った事もありました。

イチャイチャイチャイチャ。ベタベタベタベタして『でちゅまちゅ言葉』で会話する浅黒い肌のギャルと真っ黒に日焼けした全身アクセサリーだらけのサングラスの初老男性の年の差カップル。

明らかに金目的のくせに『彼の人柄を好きなって〜』と嘘をつく女に『自分はまだ若いんだぞ。かわちい彼女の為ならセックスだって毎日出来る!彼女は私を愛している。パパ活じゃないからな?』と若者言葉を使い若者文化について語る男。

たった30分のインタビューが永遠に感じるほどの不快な時間でした。

『レディア今日のおのろけ』のコーナーのページ数は2枚。

たった2枚の為にいつも山田はこんな苦労をしているのでしょうか?


「編集長。今日は来てくれてありがとうございました」


いつも通りそう言う山田を見て私は片親で私を育ててくれた父を思い出しました。

肉体労働で筋骨隆々でガサツでとても山田には似ていないのに……。

父ももしかしたら年下の上司に下げたくない頭を下げていたのかもしれない。

私は今夜父に電話しようと決めました。


「たこ焼きを食べましょう。私のポケットマネーから出します」


言ってから顔が熱くなるのを感じました。

父が時々お土産に買ってきてくれたたこ焼きを思い出して食べたくなってしまったのです。

どうせなら山田もと思ったのですが、たかがたこ焼きで『ポケットマネー』だなんて酷く見栄っ張りな気がしました。


「えー。ありがとうございます。ご馳走になります」


それからも私の顔から熱が引く事はありませんでした。

山田は美味しそうによく噛んで食べる男でたこ焼きを食べ終わった後にお腹を押さえて「ありがとうありがとう」と言っていました。


「編集長のおかげで午後からも働けます。ありがとうございました」


「……上司ですからね」


山田さんは可愛いものが大好きでした。

薄汚れた犬のぬいぐるみを抱っこして「やぁ。僕の所に来てくれてありがとう」と言う。

抱っこするたびに彼はそう言ってきたんでしょうね。

微笑ましい限りですが、不衛生極まりない。

人にお風呂が必要なようにぬいぐるみにだって洗濯が必要なはずです。


「よかったら私のうちの洗濯機で洗ってあげましょうか?」


私の家の洗濯機は山田さんのお給料ではとても買えない最新の物です。

彼はすぐに『お願いします』と喜んでくれると思ったのですが……


「いえ。結構です」


「え?」


断られると思っていなかった私はかなりの衝撃を受け、みっともなく動揺してあれこれと聞きました。

山田さんを怒らせてしまったのでしょうか?

しつこく聞くと


「恥ずかしながら洗濯機では犬太郎は息が出来ないじゃないですか。いやいや。ぬいぐるみが息なんかするかとおっしゃりたいのは分かります。それでもね。息が出来ないのは可哀想だ。人間なら死んでしまうんですよ?」


怒った様では無かった様です。

安心したと同時に犬太郎というシンプルな名前に笑ってしまいました。


「じゃあお風呂で。ボディーソープで丁寧に洗わせていただきます。シャンプーハットも着けて。犬太郎が苦しくないように」


「来てくれてありがとうござい……ます」


「泣いてるよ。痛いならやめよう?」


「いいえ。動いて下さい。これは嬉し涙です」


ダーの平均よりも少し大きいモノを受け入れられた自分の身体を誇らしく思いました。


「……どうですか?」


「どうですかも何も。恥ずかしいかなぁ」


「ダーさん。『今日のおのろけコーナーがネタギレでどうしよう』と相談してきたのはダーさんですよ」


「いやぁ。まさか僕たちの馴れ初めとは。恥ずかしいし2ページに収まらないし」


「仲良くなるにつれて呼び名が変わっていくのもポイントです」


「初体験まで語らなくて良くないかなぁ?」


「ラブラブな二人の赤裸々な性生活もこの企画が長く続く理由だと言っていたのはダーさんです」


「あー!過去の僕のバカ!」


さて。読者皆さん。今日のおのろけコーナーはいかがでしたか?

お聞きした通り今日の記事は編集長の私が書かせてもらいました。

ここから先は原稿に書いてなかった事を書いちゃいます。

皆さんおなじみのラブラブドッキリです。

実は私。妊娠2ヶ月目なんです。

ダーさんはまだ知りません。

このレディア3月号を読んで初めて気がつくんですよ。

ワクワクしませんか?

なのでダーさんが何と言ったかは今月号では分かりません。

気になる方は来月発売のレディア4月号をお買い上げ下さい。

ここまで読んでくれたみなさんなら答えはすぐに分かるでしょうけど(笑い)。



それでは読んで頂きありがとうございました
















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