表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
母の想い人  作者: アンスリウム
2/2

2032年 夏

その日は特に暑い夏の日だった。


最高気温42度、最低気温36度。

京都の夏は暑すぎる。


「ねー。

 やっぱり田舎のおばあちゃん家に行こうよー」


柚月は、買い物袋を車から下ろすのを手伝いながら、

同じく額に汗をかいている父にぼやいた。


「今はなつちゃんの休みが取れないんだから無理やって。

 正月にまた行こう。な?」


「ぶー」


このくだりは、この夏五度目である。


毎年、佐久間家では、

母の実家がある福岡に一家で里帰りしている。


柚月は今年も行く気満々であったが、

母が仕事の休みを取れず、

今年の夏はどこへも行かない夏となった。


「ばあちゃん、そろそろ会いに行かんと、

ぽっくり死んじゃうんやないー?」


口を尖らせながらぼやく柚月を、

父は諌めることも咎めることもせず、肩をすくめて家に入った。


「とーはほんま、かーの言いなりやなー」


柚月は不満顔のまま、

買い物袋を少し乱暴に揺らしながらドアを閉めた。


「ポカリはー?」

父が台所から顔を出す。


「アイスー!バリバリバー!」

柚月が主張する。


「ええから、先に手洗っといでー」

父に急かされ、洗面所へ向かう柚月。


佐久間家は、家事育児の主体を父の輝秋が担っている。

母は医者としてバリバリ働き、

父は昔ながらの小さな書店を経営している。

経営、と言っても客はほぼおらず、

営業時間も父の気分で変わる。


その緩さもあり、

柚月の学校行事には必ず父が顔を出した。


友達の家は両親が揃って応援に来る運動会も、

我が家の場合は父が大きなクーラーボックスを抱えて応援に来る。

母は仕事があるようで、

毎回一瞬顔を出しては、知らぬ間に居なくなっている。


手を洗い、台所へ向かうと、

父が冷凍庫を漁りながら苦笑いをしていた。


「ゆず、ほんまごめんやけど……」


「やだ!」

「アイス、切れてた!」


柚月の拒絶と父の悲報が重なる。


「ごめんごめん。

 カード使っていいから好きなん買ってきてくれん?」


父は少し申し訳なさそうな顔をしたが、

柚月はカードを使っていいという言葉に心の中でガッツポーズをした。


「もー。しょうがないなー」

柚月はさっとカードを受け取り、

足取り軽く家を出て、外の暑さに呻いた。



---------------------


コンビニから出ると、柚月はアイスの袋を破き、

ゴリゴリバーの形が崩れないよう、慎重に中身を取り出した。


日射はだいぶ和らぎ、もうすぐ夕暮れだ。


アイスを舐めながらの道すがら、

柚月はあと10日しかない夏休み、何をしようかと考えた。


宿題はほとんど終わっている。

まだ高校1年のため、特に塾などには行っていない。

父は母がいなければ、旅行に行くことはない。


「暇だー」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ