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かえりみち

作者: 原田楓香

 ない。

 道が、ない。

 僕の前に道がない。


 ウソじゃない。

 冗談でもない。

 文字通り、ない。


 家に帰ろうとして、いつもの角を曲がったら、そこにあったのは、大きな壁で。

 家に向かう、道がない。

 僕の家に面している道が、ない。


 少し回り道して、反対側から、その道に出ようと試みる。

 同じだった。

 やはり道がない。


 立ちすくむ僕の横を、人がどんどん通り過ぎていく。

 だんだん、日が暮れてくる。

 僕も家に帰りたい。すごく。

 でも、道がない。


 壁のどこかに扉がついていて、そこを通れば、いつもの道に出られるかも。

 思い違いで、もう一本手前で曲がったら、いつもの道に出られるかも。

 この壁をよじ登れば、いつもの道に出られるかも。

 何か呪文を唱えれば、いつもの道に出られるかも。

 ありとあらゆる可能性を考える。

 

 帰りたい。

 日が暮れる。

 道が、ない。

 

 立ちすくむ僕の横に、誰かが立った。

 姉だった。

「何立ち止まってるの? 帰るよ」

 そう言って、すたすた壁に向かって歩いて行く。 

 (帰れる!)

 僕は、大急ぎで、姉のあとを追う。いや、追おうとした。

 でも、姉が通り過ぎた瞬間に、またそこは、壁に阻まれた場所にかわった。

 

 ――――僕の前に道はない。

 僕は、途方に暮れる。


 気づくと、僕の向かいの家の人も、隣の家の人も、壁に向かって歩いて行って、そのまま普通に帰って行く。

 誰も壁のことなんて目に入らないみたいに。

 

 僕だけ、帰れない。

 

 


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