分相応
真里は最近、分相応ということについてよく考えている。
真里は派遣社員だ。
派遣社員として派遣先に受け入れてもらう際、派遣先の方からは、
「なんだかウチには勿体無い感じがしちゃうなぁ」
とお言葉をいただいた。
真里が大学院を出ているからだ。
真里が受け入れてもらった派遣先は、年収でいうと200万ちょっと、フルタイムで働くことを考えると、決して高収入ではない。
大学院卒の人間が喜んで働く環境ではないと言うことだろう。
しかし、真里は学歴こそ立派だが、社会人経験は浅い。
正社員経験は、新卒で3年弱働いただけである。
そこから約15年ちょっと、専業主婦とパート主婦をしていた。
また、勉強が好きだから学歴を積めた訳だが、決して研究向きのセンスがあったり、マネジメント能力が高かったりした訳ではないのだ。むしろそのあたりは人並み以下だった。
なので、真里にとっては、自分の学歴はハリボテでしかない。
夫を見ていると特に思う。
彼は、コツコツと毎日きちんと働くことを20年続け、マネジメントも悩みながら取り組み、磨き上げたコミニュケーション能力で自分が働きやすい環境を手に入れている。
これが、社会人として必要な能力なのだろうと思う。
真里は、コミニュケーションはなるべく最小限が良い。
笑顔で少しの雑談はしたいが、定時でダッシュで帰りたいし定時後のお付き合いは遠慮したい。家でダラダラ本を読みたいのだ。
責任のある決断はしたくない。家庭内ですら、夫に甘えて円満な亭主関白をお願いしているのだ。外で戦える訳がない。
指示を受けてその通りに働き、出世や成果などを考える必要はない、派遣社員は真里にとって最高の働き方ではないだろうか。
「なんだかウチには勿体無い感じがしちゃうなぁ」
は、むしろ、
「なんだか私には勿体無い感じがしちゃいます」
なのだ。
世間知らずのおばちゃんには、とても贅沢な職場である。
休みも取りやすく、指導も丁寧、派遣社員の扱いもとても良い。
ここで働ける贅沢に日々感謝して、真里は丁寧に働くことにしている。