たぶんそれは、お前が天才だから
才能には色々とあると思う。
少なくとも、彼にはその才能があって。自分達にはないと思う。
そして、どれくらいの時間で気付けるかは分からないから、ここでは”大人になった”という感じにしたいと思う。
「仕事を辞めます」
「そうか、残念だな。でも、次の職場で頑張れよ」
「はい」
仕事をする。給与・仕事内容・勤務体制とか……。ブラック企業の定義なんざ、人それぞれだ。
ある1人は仕事を辞めた。それを店長は残念がった。
入って来た時はかなりのやる気に満ち溢れた彼。1年・2年で頭角を現して、仕事の業務においてほぼ完璧。だが、3年目くらいになると手を抜くというか、シュンって落ち込んだような姿を度々見せる。
そーいう鬱って感じの症状があるな。
自分の業務に対して、利益が少ないと言った現実的な思考。
もしかすれば、自分に見合う仕事はきっとあるのだって、飛び出す。
◇ ◇
「え~っ、28歳」
なんつー微妙な年齢であるが、
「若いのか、それ?」
仕事をしていると、30代までは若者認定扱いだが……。そんなの仕事内容にもよる。40代が中心の職場からすれば、若者なんだが。30代が中心だと同期みたいな扱いだ。
「色んな仕事を携わってるみたいだから、順応はしてくれるんじゃね?」
「28歳でそんなに仕事をコロコロ変えてたら、不審に思うんだけど」
転職活動も言い方であるな。
それを聞いて、どう受け取るかは採用者さんや一緒に働く人達の考えにもよるが。
ちなみに作者は後者の考えである。後ろ向きに考える。
理由は直球で
「指導してて辞めないよね?戦力になった途端、辞めるとか言い始めないよね?長続きすんの?」
色んな事ができるタイプとは、職場を早々に見切る。
新人に求めたい事は、良い意味で”やる気がない”人間が好ましい。”やる気がない”人間は、そもそも転職が面倒くさいタイプだし、仕事の覚えが多少遅くても、勤務年数で改善できる。ミスは結局、自分に降りかかると、避けたがる動きをするし。
「それは職場に関わる、お前等次第だろ」
「一身上の都合とかなら納得いくけど、よく分からん理由で辞めるの多すぎなんだよ……仕事キツイとか、お前等の残業不払いがあるけどさ……」
「そんなブラック企業みたいな事を言うんじゃない。表向きはホワイト企業だ」
「残業代を含めた給与を広告に載せんな」
誰でも良いから雇いたい反面。できれば、多少の将来性も求める。
28歳なら全然イケるやんって前向きに捉える人の方が多い。くたびれた50代のおっさん共の面接とか、正直やってらんねぇし。それに1年・2年じゃ、元はとれないが……。諺みたいに3年だ。3年働いてくれれば、御の字だ。ずーっと、寄生虫に働くのもいいが。そいつが無能だと困るし、風の入れ替えは大事という思考。
「じゃ、そーいうわけで来月から入ってくるから、あとなんとかしろよ。課長ちゃん」
「投げやりな仕事でいいなぁ」
「辞めるか辞めないかは、ほとんどチームの頭に掛かってんだよ」
◇ ◇
いつの頃からか、……むしろ、何回目かでそれに気付く。
「やってられません!もうこの仕事を辞めます!!」
そんな発言をした時。引き留める声を出す者もいるが、ある時期を境に
「そうか、残念だな」
”仕事は続けた方がいいよ”とか”次の仕事はあるのか?”とか、自分を心配してくれる声が無くなった。淡々と上は
「退職届を出してね」
あなたの動きも業務の一環として、粛々と動く。まるで機械みたいだ。こんな仕事馬鹿には成りたくないと一瞥する。こんな仕事を1年間もやってやったんだぞ。
あれもした、これもした。いーーっぱい仕事をしたのにっ……職場はそれを認めない!!それ相応の働きを認めてくれない!!こんな理不尽があっていいはずがない。
バタンッ
こうして辞めた。
世話をした課長は彼がいないところで
「あいつ、次の仕事あるのか……」
心配の声を出す。あと1年で30代だ。
そりゃあ、40代・50代のおっさんと違って、業務を覚える速度が違う。業務に対する考え方が違う。私達は現状維持。彼はステップアップだ。ただ、どこに行くのか、よく分からない。
きっとこんな会社よりも良い職場はあるんだろう。
「新人も20代までが華だよ」
新人としての1か月は、”仕事を覚える”ことで苦労するものだが。慣れてしまうとどうという事はない業務量。そーいう進歩を楽しく思うのが、人間。その進歩がなくなると、途端につまらなくなる。レベルカンストがしているのに、知ってる敵と戦わせる作業感。それを耐え忍んで、休日と給与を貰える。それが結局のところ労働。
挑戦は大事でも、辛抱だって大事なもんだ。
そーじゃない労働を求めるのなら、勝ち負けや上下を決めていけばいい。いつかはぶつかるよ。自分のレベルがカンストしても、他がそのレベル上限を超える絶対の負けイベント。やってきた事を崩されるようなこと。
あー、嫌になった。
そーいう辛抱はコリゴリ。
辛抱するなら、わずかでも報酬はもらいたいな。自分は大人になったよ。
「………………」
辞めた人はどうやら次の職場を見つけられたらしい。
けど、結局そこも長く続かないで、1年ぐらいでまた去ってしまった。
今頃どうしてるのやら。
トラブルメーカーが以前からいまして。
自分より年下ですが、もうすぐ30代の子。
数年前にも上司・先輩と口論になって、10日ほど出勤しなかったんですよ。
年休で消化したくらいには優しい対応をしてたんですが。
それとほとんど同じ理由で、上司と先輩と口論になって。
「もうこの仕事辞めます!」
「……もういいよ」
「今日の業務は、お前いなくても回るから。今日は帰ってもいいよ」
そんな感じの塩対応にしてて、……結局、彼は帰らなくて。何がしたいんやって感じで周囲は頭を抱え。構って欲しいって感じなんですが、声のトーンは小さくしていただきたい。
で、その世話係をもう6年以上もやってる先輩が、その口論中に本音をついつい言っちゃって。
「お前いつになったら、仕事を覚えるんだよ……。お客様の苦情はほとんどお前で、その度に俺達は謝罪したり、クソみたいな説教を聞いてるんだぞ」
たぶん、それが発端なのかもしれんけど。それでもトラブルメーカーは
「僕はこんな仕事をしてやってんだぞ!!有り難く思え!!」
「自転車漕いでる時に(業務中)、人とぶつかっておいて、その態度ねぇだろ……。つーか、それなんだよ……」
上司と先輩がクソ気の毒ですが、周囲は爆笑していた。相手に怪我はなかったそうですけど。




