第144話 辺境の森 初日の成果
いつもご覧いただきありがとうございます。
「え、えーと、今日の買い取り額はこのようになります(汗)
メンバーごとに分けてお支払いしますか?」
とギルドの受付嬢のお姉さんが顔を引きつらせながらメモに書かれた金額を提示してくる。
うん、今日もたくさん狩ったからね。
受付嬢がドン引きになる気持ちもわかるぞ(汗)
「はい、キリのいい数字で等分にしてください。
端数はパーティーの雑経費として管理するので私にいただければ大丈夫です。」
「わ、わかりました(汗)」
と答える受付嬢からお金の入った小袋を人数分受け取り、目立たないようにカウンターを離れてギルドを後にする。
絡まれるのも面倒だしね。
ただでさえ可愛い女の子達を連れているし、さっきの支払いの状況を見られていたら声をかけてくるややこしい奴らがいるかもしれないしね。
さあ、先ほど解体を頼んだ鹿肉と猪肉を受け取ってギルドをお暇しよう。
帰りに野菜や調味料も仕入れていくかな?
そういえばお米の在庫も少なくなってきてたから探して買っていこう。
今日もしっかり働いたから皆にタップリと夕食を準備しないとね!
◆◇
(ギルドの受付嬢の目線です。)
私はさっきまで対応していた若い冒険者の集団がそそくさとギルドを出て行くのを驚きながら見ていた。
初めて見る人達だけど最近この街に来た人達なのかしら?
見慣れないお揃いの緑色の服を着ているし、貴族っぽい見た目の女性も混じっているし、よくわからない組み合わせだわ。
それに何よりも買取額が半端じゃないのよ!
いくらあの人数とはいえ、軽く100万エソを超えてるっておかしくない?
腕利きの冒険者が集まるこのイビルズゲートの街でも、1パーティーの1日あたりの収入は平均したら10万エソくらいなんだけど。
などと考えていたら、隣のカウンターに立つ先輩受付嬢に話しかけられる。
「ちょっと、何をボーっとしているのよ?
もしかしてさっきの冒険者達が気になっているのかしら?」
「え、ええ、先輩。
あまり冒険者の個人的な事情を知ろうとするのは良くないのは分かっていますが、あまりにも買い取り額が多かったのでビックリしちゃいまして・・。
それに男性が1人であとは女性ばかりなので、そこもちょっと気になるといいますか・・。」
「あのパーティーが最近話題の『炎狼小隊』とその仲間のパーティーみたいよ。
例の商人を襲い続けていた盗賊を退治したって言われている人たちなのよ。
見かけによらずかなりできる冒険者パーティーみたいなの。」
「ええ!あの人たちが例のパーティーだったのですか?
相当やっかいな盗賊集団を壊滅させたって聞いているんですけど(汗)」
「どうもそうらしいのよ。
既に商業ギルドのVIP扱いになっていて、商業ギルドから豪邸を借りてパーティーで住んでいるらしいわよ。
それに・・。」
「それに?」
「商業ギルドに勤める友達から聞いたんだけど、あの人たちは商業ギルドにも登録していて、既に信じられないくらいのお金が口座に入っているそうよ。
いろいろと商売でも儲けているみたいね。」
「ええ〜! そんなすごい人たちなんですか?
見た目はまだ若い駆け出しの若い冒険者みたいねんですが(汗)」
「人は見かけによらないって言うじゃない?
それにさっきも結構な買取額だったみたいじゃないの?」
「そ、そうなんですよ(汗)
ちょっとびっくりしちゃいました。
平均の10倍くらいありましたから(汗)」
「冒険者の個人情報は聞けないけど、相当できる冒険者みたいね。
それにあんなハーレムパーティーを率いているくらいだから、あのリーダーの男の人は相当魅力的なのかもしれないわよ(笑)」
「そ、そうなんですよ(汗)
実はそこもすごく気になっちゃって(汗)」
「まあ、仕事もプライベートもできる男って感じなのかしら(笑)。
私もあの人達の対応をしてみたいわ。
そしたら私もあの男の人と仲良くなれちゃうかも!」
「もう、先輩ったら、この前ちょっといい人がいるとか言ってたじゃないですか!?
なんとかっていうC級冒険者パーティーのリーダーじゃなかったでしたっけ?
金髪青眼のイケメンさんでしょ?」
「まあ、そうなんだけど。
普通の冒険者に比べたら実力もあって、稼ぎも少しいいけど、さっきの男の人に比べたら全然だしね。
どうせなら稼ぎが多い男のほうがいいわよ。」
「ええ〜!そんなこと言ったら金髪さんが可愛そうじゃないですか!?」
「結局、稼ぎが多い男がいい男なのよ。
お金がなければ愛は続かないのよ。」
「そ、そんな身も蓋もないことを言う(汗)」
「だって・・。」
「でも、それじゃ・・。」
とギルドの受付嬢のリアリティー溢れる話はとどまるところを知らない・・。
タクとその仲間たちはタクの願いも虚しく既にイビルズゲートの冒険者ギルドの中で注目を集め始めているようであった・・。
◆◇
買い物を終えて拠点に着いた僕達は、いつも通りに手分けして夕食の準備に取りかかる。
メニューは言うまでもなく肉料理が中心である。
今日狩ってきた鹿肉や猪肉を使ってトンカツや串焼きをたくさん作ったぞ。
また市場で新鮮なキャベツを購入できたので、おかずにロールキャベツを追加してみた。
少し味見をしてみてみたが、優しいスープの味わいが食欲をそそる感じだね!
今夜の夕食も賑やかになりそうだ!
「みんな〜、夕食ができたよ〜!
たくさん作ったから早く食べよう!」
とリビングで待っている女子チームに声をかける。
皆それぞれの家事の分担を終えて、夕食ができるのを今か今かと待っていたようだ。
『は〜い!』
と元気よく返事をしながら集まってきたメンバー達と一緒に配膳を終えると楽しい夕食の開始である。
『いただきまーす!』
と挨拶をすると同時に女子達の爆食タイムの始まりだ!
「うーん、串焼きが美味しいです!」
「トンカツ?イノシシカツ?がサクッとジューシーで美味しいですね!」
「ロールキャベツも優しい味でいくつでも食べれそうです!」
と女子高生チームも大喜びだ。
クク・ルルの2人とミリアさん達も無言でバクバク食べている。
「ははは、今日も狩りでたくさんエネルギーを消費したと思うから、たくさん食べてスタミナを回復するといいよ。
それに食材も大量にゲットできたから食料の心配もないしね。」
「はい、タク先輩。それに今日も獲物をかなりいい値段で買い取ってもらえましたしね。
たくさん狩った甲斐がありましたよ。」
と亜希ちゃんが返事をする。
「そうなんだよ。しかもあのオオミツバチが結構いい値段で売れたのはびっくりだったね。
まさか、オオミツバチの毒針と毒袋に需要があるなんて思わなかったよ。」
「実はそうなのです、タクさん。
オオミツバチの毒から毒消しのポーションが作れるのですよ。
今日助けた冒険者達のように蜂蜜を採取しようとする者たちには必須のアイテムですね。」
とそれまで黙々と食事をしていたクラリスさんが横から教えてくれる。
「え?そうなんですか?
もしかして僕達も持っておいたほうがいいですか?」
「そうですね〜。
まあ、オオミツバチの毒はそんなに強くないので、刺された箇所がしばらく腫れるくらいですから、1回刺されるだけなら大丈夫ですよ。
蜂蜜を採取する冒険者のように巣を取ろうとして何回も刺される恐れがある場合はポーションがあったほうがいいですね。
短時間で毒が体に大量に入ってくるとショック死してしまう場合があるんですよ。」
ふむ、もしかすると元の世界のアナフィラキシーショックみたいな状況になるのかな。
「それは怖いですね(汗)
もしかしてクラリスさんは毒消しポーションも作れるのですか?」
「はい、できますよ。
ポーション類は大体作れるのですが、オオミツバチのような虫系の素材は取り扱うのが苦手でして・・。
私はどちらかと言うと植物由来の素材でポーションを作るほうが好きなんです。」
「なるほど。まあ気持ちは分かります。
あんな大きなハチは触りたくないですもんね(汗)。
ところで今日は薬草類をたくさん採取されていましたが、ポーションを作られるのですか?」
「はい、薬草をポーションに加工して販売したほうが利益が多くなりますので。
それに皆様にはお世話になっていますから、いざと言うときのために私が作るポーションんを持っておいていただければと思いまして。」
「なるほど。
ところでポーションを入れる空き瓶とかはお持ちですか?
無ければあ明日にでも商業ギルドでガラス細工の店でも紹介してもらいますが?」
「はい、ありがとうございます。
でも実は昨日の外出時に街の薬師の店で交渉して来まして。
ポーションを納める代わりに空き瓶を提供してもらってきました。
空き瓶にポーションを入れて納入したら、次の空き瓶を預かってくるようにしたのですよ。
今はこの街には冒険者がたくさん活動しているので、ポーションはいくらあっても直ぐに飛ぶように売れてしまうみたいで、ポーション作りと納入の話を持ちかけたら喜んで契約してくれましたよ。」
「そ、そうなんですね。
さすがは薬師さんですね(汗)」
どうやら昨日の休みを利用してちゃっかりと商売の調整もしていたようだ。
さすがは侯爵令嬢、したたかである(汗)
「では、早速今夜からポーション作りですか?」
「ええ、その予定です。
あ、でもタクさんに夜伽に呼ばれるならすぐに参りますので、いつでもお声かけください。
ご遠慮は不要ですよ。」
とぶっ込んでくる。
冗談だろうけど、若干1名亜季ちゃんが真に受けるからやめて欲しいぞ(汗)
「そんな予定はありませんからどうかポーション作りに専念されてください!(汗)
あ、でも明日からはどうされますか?
ポーション作りをされるなら無理に狩りに行かれなくても大丈夫ですよ。」
「いえ、今日採取した薬草の量であれば寝る前までには全てポーションに加工できますので、明日も狩りに同行して薬草採取をする予定ですよ。
稼げるときに稼いでおかないと勿体ないですからね。」
と侯爵令嬢らしからぬ商魂を見せる。
いや、貴族だからこそ儲け話には敏感なのだろうか(汗)
「わ、わかりました(汗)
あまり無理されないように気をつけてくださいね(汗)
魔力を使いすぎると明日の行動に影響しますから(汗)」
「はい、お任せください。」
とその後もクラリスさんのポーション作りに関する話を聞きながら夕食を終えるのであった。
話の途中で出てきた「精力増強ポーション」のくだりで女子高生達が興味深々で食い気味に効果について質問していたのは何故だろうか?
持続力は?とか硬さは?とか、若干具体的過ぎないかい?
しかも楓ちゃんが「タク先輩に是非飲んでもらいましょう!」とか言ってたのは何故だろう?
いったい何を期待しているのだろうか?
◇◆
「2人とも今日はお疲れさま。
初めての辺境の森だったけど、無事に狩りが終わってよかったね。」
とお風呂上がりに部屋のソファーでまったりとしながらチャロンとヤトノに労いの言葉をかける。
「いえ、タクさんこそお疲れさまでした。
初めての場所でパーティーの指揮を執るのは大変だと思いますよ。」
「ですよ!辺境の森は危険に満ちていますからね!
今日のオオミツバチもご主人様が作った散弾銃が無いとあの冒険者達は助かってなかったですからね!」
「まあ、確かに。
明日からも皆の安全を最優先に考えて狩りに取り組むことにするよ。
儲けやレベルアップも大事だけど、怪我をしたら元も子もないしね。」
「ですね、タクさん。
先は長いですから焦らずに行きましょう。
この街での生活を楽しむくらいでちょうどいいですよ。」
「ですね、ご主人様!
明日のことより、まずは今夜の夜の運動を楽しみましょう!」
「ですね!、タクさん!」
と言いながら、チャロンとヤトノが僕の部屋着を脱がしにかかる(汗)
「ちょ、ちょっと2人とも(汗)
そんなに焦らなくてもいいんじゃない?(汗)」
「いや、だってもうすぐ約束の時間・・、ではなくもう寝る時間ですから!」
「そうですよ!ご主人様のご主人様も運動の準備は整っているみたいですよ!
もうこんなに固くなっちゃって!」
と言いながらヤトノが僕の僕を優しくさすってその気にさせる(汗)
「そ、そんなことされたらすぐにそうなっちゃうよ(汗)」
「ふふふ、今夜もたっぷりと可愛がってくださいね!」
と妖しく微笑むチャロンにベッドに引きずり込まれると、僕達は夜のトレーニングに取り掛かる。
・・・。
今夜も激しく有酸素運動を実施したあとで、僕のプロテインをたっぷりと取り込んだチャロンとヤトノと一緒にベッドに崩れ落ちるように横たわると、そのまま深い眠りへと誘われていく・・。
今夜の運動もスノーとクロロがやたらと見つめていた気がするのは何故だろうか?
チャロンとヤトノもまるで獣魔達に見せつけているようだったしね。
もしかして獣魔達にみられると興奮しちゃうとか?
まあ、機会があったら聞いてみよう・・。
ああ、明日の狩りもみんなと一緒に頑張ろう。
おやすみなさい、異世界・・・。
◇◆
(タク達がイビルズゲートの街に到着して冒険者活動を開始した頃・・。)
「ああ、やっとグランデルの街に到着したわ・・。
乗合馬車の中は地獄のようだったわ・・」
と言いながら一人の少女が乗り合い馬車から降りて来る。
乗り合い馬車は冒険者や商人でギュウギュウであり、若い少女には過酷な環境だったようだ。
マントのフードを目深に被っているがその隙間からは横に長く伸びた耳がチラリとのぞく。
久々の登場であるが、彼女はとある理由でタク達の一行を追いかけているエルフの王女のリリーである。
ただし、このグランデルの街では彼女の正体を知るものはいない。
「サゲオの街でいろいろと情報収集したら、聖獣様のお仔らしい白い狼とかを連れた冒険者の一行がグランデルの街に向かっているようだって聞いたからこの街にやって来たのはいいのだけれど・・。
また冒険者ギルドで情報収集するしかないのかしら?
ギルドってややこしい冒険者が多いから本当は行きたくないのよね・・・。」
とリリーは独りごちる。
ただ、そう言ったところで他に手段はない。
覚悟を決めたリリーは道行く行商風の年配の女性に声をかけて冒険者ギルドの場所を確認すると、他の冒険者の後に続いて目立たないようにギルドの中に入る。
リリーの中では辺境の街に向かう荒くれ者の冒険者達が怒鳴り合いながら仕事を取り合っているイメージがあったのだが、意外にもギルド内は静かであった。
どの冒険者も真剣な顔で依頼ボードを眺めながら仕事を探している。
どうやら仕事は冒険者の数以上にあるようだ。
どの冒険者も少しでも良い条件の仕事を探しているのであろう。
リリーはギルドに併設された酒場で果実水を注文すると、目立たないように柱の影の席に座りながら冒険者達の話し声に耳を傾ける。
自慢ではないが、エルフだけに耳は良いのだ。
冒険者たちの雑談に耳を傾けていると、2人の冒険者の男達が気になる会話をしていた。
「おい、聞いたか?
イビルズゲートに向かう道中を稼ぎ場にしていた盗賊団が冒険者に討伐されたらしいぞ。」
「え?、あの神出鬼没の盗賊団のことか?
襲われた商隊が神隠しにあったように消えてしまうと噂の?」
「ああ、そうだ。
その冒険者達に頼まれて盗賊の処理を手伝った奴らの話によると、50人くらいの盗賊の集団がボロボロにやられていたらしい。」
「50人の盗賊をボコれるなんてどんな屈強な冒険者なんだ?
少なくともこの街では見たことないそ?」
「それが屈強どころか、まだ少年のような男が1人と少女達のパーティーらしいぞ。
ただ、変わった点があると言えば、リーダーの男と何人かのメンバーの少女達は黒目黒髪の変わった見た目で、しかも白い狼とか鳥の獣魔を連れてらしい。」
「なんだそれは?
そんな子供みたいな冒険者が盗賊を討伐するなんておかしな話じゃないか?」
「ああ、俺もそう思うが、盗賊が討伐されたのは事実みたいで、警備隊の調査でも盗賊のアジトから行方不明の商隊のものと思われる遺留品がたくさん発見されたらしい。」
「なんと、それじゃあ盗賊が討伐されたってのはガセネタじゃないのか?」
「ああ、その証拠にイビルズゲートへの商人の往来は増えているからな。」
おお!これはまさにタクっていう冒険者と聖獣様のお仔のことじゃないのかしら?
黒目黒髪の少年少女っていうし、きっと間違いないわ!
これは早速イビルズゲートの街に向かわないと!
私は果実酒の残りをぐいっと飲み干すと、カップをカウンターに返してから依頼ボードの確認に行く。
ちょうど待ってましたと言わんばかりの高速乗合馬車の護衛依頼を見つけた私は、その依頼のメモを剥がして受付カウンターに持ち込むと、さっさと依頼受注の手続きを済ませた。
高速乗合馬車の出発は明日の夜明けと同時である。
さあ、早く宿を見つけて明日に備えて休まないとね。
待っててね、聖獣様のお仔と冒険者タク。
私の自由?を取り戻す旅はもう少しで終わりかもしれないわ!
最後までご覧いただきありがとうございました。
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