第14話 いよいよ訓練開始!
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(第14話の冒頭を一部追記しました。2023年1月13日)
チャロンと一緒に早速訓練を始めようと思ったものの、先程のメイドさん詰め所からチャロンとの懇談まで結構時間がかかったので、先に別館2階の食堂で昼食を頂くことにした。
チャロンには城の女性文官からもらったOD色の腕輪セットの片方を渡して着用してもらった。
僕は左手首に、チャロンは右手首に着用している。
チャロンに腕輪をどこにつけたらよいか?と質問したら、男性は左腕に、女性は右腕につけるのがこの世界の慣習です。と教えてくれたからだ。
また、「腕輪はお互いにつけてあげるものなんですよ。」と教えてくれたので、僕がチャロンに、チャロンが僕に、それぞれつけてあげた。
チャロンがうれしそうな恥ずかしそうな表情を浮かべていたが、何か理由はあるのだろうか?
機会があったら聞いてみよう。
腕輪のおかげでチャロンは召喚勇者と行動を共にしてよくなったらしく、食堂で二人で一緒に昼食を食べた。
チャロン曰く、使用人用の食堂とメニュー的には大きく変わらないが、素材や、食堂の雰囲気が格段に良いとのことで、この別館2階の食堂で一緒に食事できる事をとても喜んでいた。
もちろん僕もうれしいけどね。
チャロンのおかげでようやくソロモードから脱出できて、召喚後に初めて楽しく会話しながら食事ができたよ。
やっぱり会話しながらの食事は楽しいよね。
ちなみに、他の高校生達はまだ食堂にいなかった。
それぞれ活動しているのであろう。
まあ恐らく一緒に旅することは無いであろうから、お互いに必要以上に距離感を詰める必要もないので、気にするのはやめておこう。
食後のお茶を頂きながら雑談中にこの世界の成人年齢を聞いたら、15歳が成人年齢とのこと。
15歳になったらもう一人前の大人として扱われて基本的に家を出て独立するので、仕事も結婚も基本的には本人の自由らしい。
それゆえ、16歳のチャロンが自分の意思でお城勤めをすることは何ら問題ないらしい。
良い相手がいたら自分の意思で結婚するのも全く問題ないとのこと。
貴族とか有力商人は家の事情がからむのでその限りではないらしいけどね。
◆◇
そんなこんなで、僕たちは城内の魔法訓練場なる場所にいる。
チャロンに連れてこられた場所は、魔術士団が攻撃魔法を練習する場所だそうだ。
なんでも魔法的な障壁が周囲に張り巡らされているので、多少強い魔法を放っても外部に影響することはないらしい。
訓練場の奥の方では魔術士?達が集まってガヤガヤしている。
これから訓練でもするのだろう。
よくみれば、高校生のうちの1人の魔法使い各種(見習い)もいるね。
それはそれで気になるが、今は生活魔法の習得に専念しよう。
「ではチャロン。ご指導よろしくお願いします。」
と、チャロンに訓練開始をお願いする。
「わかりました、タクさん。
ところでですが、何故タクさんは生活魔法の習得にご興味を?」
と、そもそも論を聞かれてしまった。
そう言えばチャロンに説明してなかったね。
「うん実は、自分の服の洗濯を毎日メイドさんにお願いするのが若干申し訳ないのと、恐らく僕は1か月後に1人で旅に出ることになるので、自分の身の回りのことは自分でできるようになりたいんだよね。」
と正直に説明した。
「そうなんですね。前者はともかく後者は理解できます。
ソロだろうがパーティーだろうが、自分のことは自分でできた方がいいですからね。
実際、そういうところがパーティー解散の原因になったりすることも多いみたいですしね。
洗濯等の雑用の負担の割り振りが不公平だ、という理由でパーティーが不仲になることもしばしばあるようです。」
とチャロンが教えてくれた。
小説ではあまり出てこないが、実際は洗濯や料理などを誰がするのかでもめるんだろうね。
そりゃまあ家族や恋人同士ならともかく、メンバーのお世話まで好んでする人は少ないだろう。
自分でやるか、できないなら付き人でも雇いなさいといったところか。
「では早速やってみましょう。
習うより慣れろですから、まずは見よう見まねでやってみましょうね。
どの魔法もそうですが、基本的には自分の持ってる魔力を現象に変化させることをイメージすることで魔法が発動します。
よく見ててくださいね。」
と言うと、チャロンはポケットから小さな杖をとりだし、その先を人のいない方向に向けると、
「種火よ起これ、「点火」」
と呟いた。
すると、杖の先に小さな火が点る。
うん、これはまさにライターですな・・。
でもキャンプではとても役に立ちそうな感じだ。
「おお!」
と僕は思わず感動の声をあげる。
なんと言っても人生で初めて魔法を見たからね。
「そんな大した魔法ではないですよ。
まずは体の中の魔力を杖の先に流す事をイメージしてください。
そして、その魔力が種火に変化する状況を強くイメージして「点火」とコマンドワードを発すれば発動します。
とりあえずやってみましょう。
「点火」ぐらいなら杖はあってもなくてもあまり関係ありませんので、そのままどうぞ。」
と、チャロは謙遜しつつも容赦なくやってみろと勧めてくる。
ふむ、魔法はイメージだというのはある意味テンプレ展開だね。
それではやってみようではないか。
ジャパニーズアニメや異世界転生ものの小説で鍛えた想像力?妄想力?を今こそ発揮してみよう。
僕は、人指し指を前に向けると、体の中の気というかエネルギーを人指し指に流すことをイメージする。
すると何となく暖かいものがおへその下から指先に向かって流れるのを感じる。
元の世界ではなかったが、この世界では起こる現象なのであろう。
エネルギーが指先に到達するのを感じた時点で、指先に種火が点るのをイメージしながら
「点火」(イグニッション)
と呟く。
すると、本当にライターのような種火が点った。
おお!人生初の魔法の成功だ!
「魔力の流れの遮断をイメージすると種火は消えますよ。」
とチャロンが教えてくれたので、今度は魔力の流れを止めるイメージをする。
すると種火は本当に消えた。
「無事に魔法の発動成功ですね。おめでとうございます。
発動前の現象のイメージも、魔力の制御も問題ないようですね。
さすが召喚勇者様ですね。
こちらの世界の住人だと初めはなかなか上手く発動できないのですよ。」
「思ったよりあっさりと発動できてビックリしたよ。
発動のポイントはやはり現象のイメージなのかい?」
「そうなんですよ。
「点火」くらいなら何度か練習すればイメージできるようになるのですが、攻撃魔法等の上級の魔法になると、そもそもそれを見たことがない場合が大半なので習得には大変苦労するそうです。
どうしても発動をイメージできない人は詠唱を覚える事で習得するらしいですが、上級魔法ほど詠唱が長くなり実用性が低下するので実戦では使いづらいのです。
なので、現象のイメージが重要なのです。
その点については、召喚勇者様方は何故か皆さん得意らしいんですよね。」
「ふむふむ。僕たちの世界には剣士や魔法使い等の物語や、絵本なんかがたくさんあるので、現象のイメージがこちらの人たちより得意なのかもしれないね。」
「なるほど、それは良いですね。
それでは、現象のイメージは大丈夫そうですから、次々とやってみましょうね。」
チャロンはそう言うと、生活魔法を次々と実演してくれた。
・「点灯」(ライト):杖の先に60wの電球くらいの灯りを灯す。
・「洗浄」(ウォッシュ):タライの中に水をはり、水流で洗い物をする。
・「放水」(ウォーター):棒状や霧状の水流を発生させて、料理、散水、消火に使用する。
・「乾燥」(ドライ):洗い物の水分を切って乾燥させる。
・「汚れ除去」(クリーン):衣服や体の汚れの除去と滅菌。ドリクリーニング的な感じ
・「吹き付け」(ブロー):空気の流れを起こして部屋の換気や落ち葉を飛ばしたりできる。
害虫を飛ばしたりもできる。
・「吸引」(サクション):「吹き付け」の逆。空気の流れで落ち葉やホコリを集めることができる。
・「氷結」(フリーズ):食品などを氷結させる。生物の冷凍保存に便利。
・「氷粒」(アイスショット):小さな氷を発生させる。料理や飲み物の準備に便利
・「土いじり」(ソイルディグ):地面に土の台を発生させる。または逆に凹みを発生させる。
いくつか組み合わせれば竈、踏み台、地下収納スペースなどを形成できる。
・「石粒」(ストーンショット):小さな石粒を発生させて飛ばすことができる。
台所や食料庫にやってくる鳥や小動物の追い払いに便利
おお!これはすごい!どれもなかなか便利そうだ。
これは最早生きる生活家電と言ったほうがいいね。
生活魔法恐るべし。
「チャロンすごいね!どれもこれもすごい便利そうだよ!
これは一家に1人は生活魔法使いが欲しくなるよね!」
「そうなんですよ。生活魔法使いは便利なので、使える魔法の種類が多いほどメイドとしての価値が上がって重宝されるのです。
ですが・・。」
とチャロンは少し顔を曇らせる。
「ですが?
何か問題があるの?」
「はい。実は生活魔法使いは使える種類が多いほど、「賢者のなりそこない」や「劣化版賢者」などと揶揄されるのです。
ご覧のとおりどの魔法も元は火・水・風・土・光魔法ですから。
各属性魔法を使えるのにどれも威力が小さいと言う点で、賢者になれなかった者として揶揄されるのです。
特に貴族の子女でも生活魔法しか使えないと仕官先がなく執事やメイドになる方もいらっしゃいますから、なおさら悪口を言われるのですよ。
まあ、やっかみもかなりあるみたいですが・・。」
「なるほどね~。いろいろとあるんだね。魔法が使えても大変なこともあるんだね。
でも僕はそんなこと思わないから安心してね。
これだけの魔法が使えると実際とても便利だしね。やっかむどころかむしろ尊敬の対象だよ。」
「ありがとうございます。タクさんは優しいですね。
それでは早速練習してみましょう。
ああ、でも魔力を使い過ぎると倒れてしまいますから、気分が悪くなってきたら早めに休憩しましょうね。」
再びチャロン先生の指導が始まったので、先ほどと同じように現象をイメージしながら発動していく。
現象のイメージ自体は特に問題なく、どれもスムーズに発動できた。
特に、高校や大学(通信制)で学んだ物理や科学的な視点で現象をイメージすると発動がより容易なようだ。
あとはスキル「お手伝い」の効果がうまく作用しているんだろうね。
うまくコツをつかめているに違いない。
クリーンの魔法は難しい部類らしく始めはうまくいかなかったが、日本のテレビでよく放送されていた液体洗剤や手指消毒剤のコマーシャルの映像をイメージしたらうまく発動できた。
これにはチャロンも驚いたようで、誉めてくれた。
かわいい少女に誉められるのも、なかなかうれしいものである。
もしかしてチャロンは誉めて伸ばすタイプなのかい??
「さすがですね、タクさん。もう問題ないくらいに全て発動できてますよ。
あとは実践あるのみですので、日々の生活の中でどんどん使って慣れてくださいね。
生活魔法以外にも便利な生活用のスキルがあるのですが、それはまた明日以降にしましょう。
まだ初日ですから今日の訓練はここまでにしておきましょうね。」
チャロン先生からは今日の訓練は合格がもらえたようだ。
「ありがとうチャロン。おかげで便利な魔法を覚えれたよ。
また明日もよろしくね。
夕食までちょっと時間があるから城内を軽く散歩しながら案内してくれるかい?」
「もちろんです。軽くぐるっと回りながら食堂に向かいましょう。」
そう言うチャロンは僕の手を引いて歩き出した。
城内を手繋ぎで歩いていいのだろうか?と一瞬思ったが、チャロンがそうするなら問題ないのであろう。
すれ違う他のメイドさんやスタッフが驚いたり、にやりと笑ったりしているが。
チャロンはと言うと、ほんのりと顔を赤らめながらも嬉しそうに歩いている。
嫌そうでないので問題なしとしよう。
決して嫌がることを強要してないから誤解しないでね。(汗)
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