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第136話 悪党の末路・・

いつもご覧いただきありがとうございます。

 胡散臭い男に先導させて辿りついた隠れ家は、街道から森の中に入って獣道を10分ほど歩いたところにある山の斜面に掘られた横穴の中にあった。


 魔物の巣の跡を拡張してアリの巣のように奥へ奥へと拡張していったらしい。


 そんな労力をかけるくらいなら、ちゃんと働けばいいのにと思うのだが、盗賊達には理解できないんだろうね。


「こ、ここが隠れ家だ(汗)

 どうだ、ちゃんと案内したぞ。」


 と胡散臭い男が、「俺ちゃんとやりましたよ。」的な感じを必死にアピールしてくる。


 うん、うざいな。

 そしてイラッとする。


「いいからさっさと閉じ込められている女の人の居場所を教えろ。

 もし怪我をしていたり、栄養不足で倒れていたりしたら、その責任はお前の命で支払ってもらうからな。」


 と怒り混じりに催促する。


「ひいい、勘弁してくれ(汗)

 こ、こっちだ。隠れ家の一番奥の目立たない場所にいるんだ(汗)」


 と言うと、男は先頭に立って暗い横穴を進んで行く。


 僕達は照明の魔道具で足元を照らしながら男の後ろを追いかけていく。



 横穴を5分ほど進むと行き止まりになり、その左右が小部屋になっていた。


「こ、この左側の小部屋に女がいるんだ!」


 と言う胡散臭い男の視線の先にはご丁寧にも金属の棒で作られた檻があり、その中に線の細い少女が両手を壁に吊るされた状態でうなだれている。

 

 どうやら吊るされたまま気を失っているようだ。


 それにしても、か弱い女の子になんて酷い仕打ちをするんだ!

 許せない奴らだな(怒)


 僕は胡散臭い男を蹴飛ばして地面に転がして道を開けさせると、檻の扉部分の閂を外して中に入り、女の子に駆け寄る。

 

 両手と両足を壁に固定している鎖を「物体作成」スキルで断ち切ると、女の子をそっと地面に寝かせてバイタルを確認する。

 

 若干弱々しいが、脈拍も呼吸もあるようだ。

 ふう、救出が間に合ってよかったね!


 僕は急いで女の子に治癒魔法3点セットと回復魔法をかける。


 呼吸と脈拍が少し強くなってきたぞ。

 どうやら大丈夫そうだ。


「楓ちゃんとクク・ルルはこの女の子のフォローをお願いしていいかな?

 残りのメンバーで他に囚われている人がいないかどうかを確認しよう。」


「「「はい、わかりました!」」」

「「「「お任せください」」」」

「「私達もお手伝いします!」」


 と皆から了解の返事が返ってくる。


 盗賊が貯め込んだ盗品も気になるけど、まずは人命救助が最優先だからね!


◆◇

 

 皆で盗賊の隠れ家を隅々まで捜索したが、さっきの女の子以外に閉じ込められている人達はいなかった。


 僕達だけではなく、従魔とバイパー分隊も参加して捜索した結果だから間違いはないだろう。


 ついでに盗賊が蓄えた盗品も捜索したが、かなりの金額の金貨や、結構な量の素材、衣料食料などの商品、盗賊が仕事に使うために取っておいたと思われる武器や拘束道具の類を発見した。


 胡散臭い男に問いただしたところ、素材や衣料は商人や冒険者の振りをして少しづつ遠くの街で販売して現金化しているとのことであった。


 盗賊を討伐した者がその持ち物を全て受け取る権利があるとはいえ、流石にこの量を全て頂戴するわけにもいかないので、それぞれ1割程度を報酬として受け取ることにして、後はイビルズゲートの警備隊に捜査を含めて託すことにした。


 1割なら元の世界の拾得物に対するお礼と考えれば、僕達の良心も傷まないしね。


 加えて、襲われた商人のものと思われる会計の台帳や商業ギルドのカードもいくつか発見したので、これも一緒に警備隊に提出することにしよう。


 残りのお金や商品を元の持ち主や亡くなった商人の家族に返却する手がかりになるだろうからね。


 隠れ家の横穴から外にでた僕達は、土魔法を使って横穴の入口をしっかりと塞ぐ。

 また、埋め戻した斜面の表面を倒木や枯れ草で偽装して埋めた直後の不自然な感じをなくす。

 うん、ぱっと見た感じではわからないぞ。


 ただ、街に到着したら警備隊に通報するので、倒木を並べて矢印を地面に描いて目印を作っておく。

 警備隊が発見できなかったら意味がないしね。

 

 また、救出した女の子は荷馬車の荷台にベッドを展開してからそっと寝かせておく。

 

 呼吸も安定してきたから問題なさそうだ。

 あとは目覚めるのを待てばいいかな。


 盗賊退治と被害者の救出、最後に隠れ家の捜索を終えたので、やるべきことは残り一つだけだ。


「みんなお疲れさま。

 おかげで被害者の救出と隠れ家の封じ込めが終わったよ。

 あとはこいつを処分すれば全ての作業は完了だ。」


 と言いながら地面に転がしておいた胡散臭い男にアサルトライフルを突きつける。


「ま、待ってくれ!

 おれはちゃんと隠れ家にも案内したし、捕まえてた女の居場所も教えたじゃないか!

 取引する代わりに命は助けると言ったじゃないか!」


 と胡散臭い男が必死にアピールする。

 

 僕はその必死のアピールの腰を折るが如く、


「何か勘違いしていないか?

 僕はお前の命を助けるなんて一言も言っていないぞ?

 ただ、生きるチャンスを与えると言っただけだ。」


「な、なんだそれは!?

 ずるいぞ!騙しやがったな?」


「騙してなんかいないさ。

 僕は嘘をつかないからな。

 今から約束どおりちゃんと生きるチャンスを与えてやろう。」


 と言うと、胡散臭い男が命を賭けたゲームに参加する準備を開始する。


 さっきの女の子を見ていて、元の世界で見た映画のワンシーンを思い出したのだ。


 この悪党に相応しい結果をもたらしてくれるに違いない。


 僕は先ほどの隠れ家の中から回収した拘束用の鎖の先端を「物体作成」スキルで輪っかにすると、胡散臭い男の右手首と両足首にはめる。


 その鎖のもう一方の端は同じように近くの幹の太い木にガッチリと固定する。


 ちなみに鎖の両端の輪っかには開閉機構はないので、破壊する以外に開ける方法はない。


「さあ、これで準備は完了だ。

 今からゲームの説明をしてやろう。」


 と言うと、僕は先ほど盗賊の隠れ家から回収した武器の一部の中から、最も粗悪そうな短剣を1本取り出し、胡散臭い男の左手の近くにそれを置く。


 そして男から手が届かない程度に少し離れたところに、僕の自作の怪我の治療用の下級ポーションが入った瓶を1本置く。


「さあ、ルールを説明するからよく聞けよ。

 僕達も時間が無いから1回しか言わないからな。

 ルールはとても簡単だ。

 今から僕の従魔が遠吠えをして、ここにエサがあることを周囲の魔物達に知らせる。

 僕達がここから立ち去ったら、その短剣を好きなように使っていいぞ。

 迫ってくる魔物と戦うもよし、魔物が来る前に逃げ出すもよしだ。

 その切れなさそうな短剣を使えば、魔物が来る前にお前の両足首と右手首を切断できるだろう。

 しかも特大サービスで怪我の治療用の下級ポーションをここに置いておくから、止血もバッチリだ。

 お前の努力次第では、この場から逃げ出して生き残ることは可能だ。

 ルールの説明は以上だ。理解できたかな?

 生きるチャンスを与えてもらってよかったな。」


「ちょ、ちょっと待ってくれ!

 こんな状態で魔物が襲ってきたら助かるわけがないじゃないか!

 お願いだから勘弁してくれ!

 この鎖を外してくれ〜!」


「ふん、今までそうやって命乞いをしてきた罪のない人達を何人も殺してきたんだろう?

 お前は生きるチャンスを与えられただけまだいいじゃないか。

 まあ、頑張れ。」


 と冷たく言い放つ。


「それじゃあ、みんなそろそろ撤収しようか?

 夕飯に間に合うように野営広場に到着したいしね。

 スノーとアッシュは遠吠えでお腹を空かせた狼系の魔物をたくさん呼んでくれるかな?

 彼らなら骨も残さずにきれいに食べてくれるだろうしね(笑)。」


 と、皆に出発の号令をかける。


 スノーとアッシュが「ワオーン!」「アオーン!」と何度か遠吠えをすると、既に遠巻きに魔物たちが様子を伺っていたのか、


「タク先輩、私の「気配察知」スキルで魔物の接近を感じました。」


 とアカネちゃんから報告が入る。


「じゃあ、みんな魔物がやって来る前に出発しよう!」


「「「「「「「「「了解です!」」」」」」」」」


 という女子チームの元気な返事とともに皆でその場を離れる。


 後ろから胡散臭い男が助けを呼ぶ叫び声が響いてきているが完全無視である。


 森から抜け出て街道に出る頃に、一層大きな悲鳴と魔物の吠える声が響いてきた。

 どうやら胡散臭い男は魔物に襲われてしまったらしい。


 せっかく短剣と怪我治療用の下級ポーションをくれてやったのに情けない奴だ。

 ちょっとは頑張れよ。

 悪党なら悪党らしく最後まであがけばいいのにね。

 

「タク先輩、マイティとの「感覚共有」で見ましたが、奴はバッドウルフの群れに襲われて美味しく食べられています。」


 と亜希ちゃんからも報告が入る。


「まあ、因果応報ってやつかな。

 今まで散々無実の人を殺したり、違法に売り飛ばしたりしてきた報いだね。

 悪党に相応しい最期さ。」


「そのとおりです。盗賊には情は無用です。

 それにせっかくタクさんが生き残るチャンスまであげたんですから、それを活用できなかったあの男が悪いんです。

 気にされる必要はないですよ。」


「そうだね。あんな奴らのことより、今日の夕食のことを考えよう!

 さっきの女の子の分も食事が増えちゃうから早く野営広場に着いて作り始めないとね!」


「ですね!」


「お腹が空きました!」


「今夜も肉が食べたいです!」


 と女子高生チームのいつものリアクションを聞きながら僕達は街道を進む旅を再開する。

 

 この世界で始めての盗賊の襲撃イベントも無事にクリアしたことだし、皆の労を労うために今夜の食事は豪勢なキャンプ料理にしようかな!


◇◆


 盗賊の襲撃イベントを終えた僕達は、その後はこれといったトラブルに巻き込まれることも無く順調に馬車を進めて今夜の野営地に到着することができた。


 もちろん、道中の狩りも順調である。


 ひと仕事を終えていい感じで空腹となった女子チームの食欲を満たすのに十分な量の獲物を狩ることができた。


 まあ、動物達にとっては甚だ迷惑とは思うけどね(汗)


 ちなみに救出した女の子はずっと眠っていたので、後ろの馬車の荷台に乗るクラリスさんとミリアさんに様子を見てもらっていたが、気がつけば3人そろってグーグー寝てしまっている。


 しかもご丁寧に荷台のベッドを全部展開してフルフラットにする有り様である。

 

 女の子を真ん中にして3人で川の字になって寝ていたらしい。

 もはやちょっと居眠りっていうレベルじゃないですよね?

 寝るなとは言いませんが、もう少しやってる感を出したほうがいいと思いますよ(汗)

 

 一応、貴方がたはイビルズゲートに向かう僕達の馬車に同乗する対価として護衛を実施してしているはずなのですが?


 まあ、盗賊の襲撃イベントもあったので疲れているだろうと思い、深く突っ込むことも、たたき起こすこともせずに、チャロンとヤトノ、女子高生チームとクク・ルル達と一緒にいつもどおりに野営準備を開始する。


 馬車の荷台で眠る3人が自然と目が覚めるように、馬車の荷台の入口の垂れ幕は開けておいた。


 僕達の会話や食事を準備する音や匂いに気づいてそのうち起きて来るだろうしね。



 すると、キジ鍋を煮込んだり、ご飯を炊いたりする美味しそうな匂いに刺激されたのか、3人がモゾモゾとし始める。

 

 なんと最初に起きたのは救出した女の子だった。


 女の子は周囲を見渡し、そして自分の手足をまじまじと見ながら、


「こ、ここは何処?

 あたいは悪い人間たちに捕まって奴隷にされて洞窟の奥に繋がれていたはず?」


 と独り言をつぶやいている。



 そして、自分の両隣に眠るクラリスさんとミリアさんを見ながら、


「この女の人達は誰なのかな?もしかしてこの人達も新しい奴隷なのかな?」


 とつぶやいている。



 その時、ちょうどクラリスさんも起き始めていたらしく、女の子の「〜奴隷なのかな?」のくだりを聞いたクラリスさんが、


「ええ、私達はタクさんの奴隷として夜のご奉仕をさせられるのを待っているのですよ・・ムニャムニャ・・。」


 などと半分寝ぼけながら答えている(汗)。


 そんな予定は全く無いので、間違った知識を女の子に吹き込むのは止めてほしいぞ(汗)



 僕は荷馬車に近寄ると、


「やあ、起きたかい?

 体に痛いところとかはないかな?」


 と女の子に優しく話しかける。


「う、うん、大丈夫みたい。

 ところでお兄さんは誰なの?」


 と、普通に答えてくる。

 どうやら治癒魔法+回復魔法の4点セットで無事に体調は回復しているようだ。


「僕は冒険者のタクだよ。あと、馬車の外にいる女の子達は僕の仲間達さ。

 ちなみに隣で寝ているのは旅の同行者のクラリスさんとミリアさんだよ。

 この2人は奴隷じゃないから気にしないでね。」


「どうしてあたいはここにいるの?」


「ああ、僕達を襲って来た盗賊を討伐した時に、奴らの隠れ家の中で君を発見したから保護したんだよ。

 保護した時には君は気を失っていたから、いま僕達と一緒にいるのが不安に感じるかもしれないけど、僕達は悪人じゃないから安心してね。」


 と女の子に簡単に状況を説明する。


「助けてくれて本当にありがとう、タク兄ちゃん。

 あたいはライムって言うんだ。

 タク兄ちゃんが助けてくれなかったら、あたいは悪い人間たちに売り飛ばされちゃうところだったんだよ。」


 と女の子がお礼とともに自分の状況を説明してくる。


 女の子は元気そうではあるが、盗賊たちに捕まって洞窟に閉じ込められていたせいか、よく見れば髪もボサボサだし、体も薄汚れているし、着せられている服というかズタ袋に首と両腕を出す穴を開けたようなものはボロボロで見ていてとても可哀想である。

 

 これは先にお風呂に入ってキレイにしてあげないといけないかもね。


「そっか、それは大変だったね・・。

 でもここはもう安全だから安心していいよ。

 お腹も空いていると思うけど、いま夕ご飯を準備しているからもうちょっと待ってね。

 でもその前にお風呂に入って服を着替えようかな?

 楓ちゃんとアカネちゃんと亜希ちゃんは悪いけどこの子を先にお風呂に入れてあげてくれるかな?」


 と女子高生チームにライムと名乗る女の子のお世話をお願いする。


「わかりました、タク先輩。私達におまかせください。

 ところでこの子の着替えはどうしますか?

 さすがにこのズタ袋のようなものをまた着せるのも可哀想ですよね?」


 と亜希ちゃんが聞いてくる。


「それもそうだね。

 ちょっと待ってくれるかい?」


 と言いながら、OD色の戦闘服と下着類を1セット取り出す。

 

「少しサイズが大きいかもしれないけど、とりあえずこれを着せておいてくれるかな?

 イビルズゲートの街に着いたらまた丁度いいサイズの服を調達しよう。」


「わかりました。では私達も一緒に先にお風呂に入ってきます。

 すみませんが、夕食の支度をお願いしますね。」


「ああ、よろしく頼むよ。

 夕食はたくさん準備しておくから楽しみにしておいてね。」


 と言いながら女子高生チームとライムと名乗る女の子がお風呂に行くのを見送る。


 さあ、皆のために頑張ってたくさん料理しよう!


◇◆


「「「「「「「「「「「いただきまーす!」」」」」」」」」」」


 と元気よく挨拶すればお楽しみの夕食タイムである。


 今日はいつものキジ鍋に加えて、道中で狩った鳥やノウサギの肉や買いだめしておいた山賊猪の肉を使った串焼き、ギョウザ、唐揚げ、ハンバーグなどをたくさん準備しておいた。

 

 主食はご飯とパンにナンと各種を準備した。

 腹ペコ女子がたくさん食べるだろうし、ライムの好みがわからなかったからね。


 女子高生チームはいつもどおり全力で食べまくっているが、その他のメンバーもパクパク・モグモグと夢中で食べている。

 

 今日は盗賊との戦闘や隠れ家の調査で疲れただろうから、たくさん食べて体力を回復して欲しいぞ。


 ライムもよほどお腹が空いていたのか、無言で食べまくっている。


「食事は口に合うかな、ライム?

 たくさんあるし、足りなかったら追加で料理するから慌てなくてもいいよ。

 ゆっくり食べてね。」


「ありがとう、タク兄ちゃん。とても美味しいよ。

 あたい、こんなに美味しいご飯を食べたのは初めてかもしんない。」


「ははは、気に入ってくれたなら良かったよ。」


 と、新たな客人?であるライムを加えた豪華な夕食タイムは楽しく過ぎていく。

 

 いつもどおり周囲の冒険者や商隊からの視線をビシビシ感じるが、そこは華麗にスルーしておく。

 

 食べたいものは自分で準備するのが僕のキャンプの流儀なのさ!


◆◇


「ふう、いっぱい食べたね。

 今日は体をたくさん動かしたから夕食が美味しかったよ。」


 と食後の紅茶を飲みながら皆に話しかける。

 

 誰とは言わないが食べすぎた女子高生メンバーが苦しそうにお腹をさすっている。

 あまり食べると横方向に成長しちゃうから気をつけないといけないよ(汗)


「ですね。それにライムちゃんも元気そうで良かったです。」


 とチャロンが横に座るライムの頭を撫でながら答える。

 

 チャロンが食事中にライムのお世話をしてあげていたので、すっかり仲良くなったようだ。


「ありがとう、タク兄ちゃんとチャロン姉ちゃん。

 お腹いっぱい食べたら元気になったよ。」


 とライムが答える。

 お風呂に入って汚れを落として、ご飯をたっぷり食べて生気を取り戻したライムはすっかり元気になったようだ。


「ところでライム・・。

 僕の見間違いでなければ君の頭には角があるように見えるんだけど・・。」


 と恐る恐る聞いてみる。


 お風呂に入って汚れを落とした彼女はライムグリーンの髪を腰まで伸ばしており、髪と同じライムグリーンの瞳を持つなかなかの美少女であった。


 しかも頭には黄色と黒のいわゆるトラ模様の短い角が生えている。

 盗賊の隠れ家から救出した際には髪がボサボサで気が付かなかったようだ。



「うん、そうだよ。この角はあたいの種族の鬼人族の特徴の1つだよ。」


「えっ、じゃあ、ライムは人族じゃ無いってこと?」


「うん、鬼人族は魔族の1種なんだよ。」


 とライムがあっけらかんと答える。

 

 なんと、たまたま救出した女の子は魔族だったとは。

 

 しかも、ライムグリーンの髪に角を生やした鬼っ娘とは、これまた日本人好みなキャラだね(汗)



「ご主人様、鬼人族は「東の森林地帯」に住む魔族の部族の1つで間違いありません。

 ただ、森の奥の集落で暮らしているので、基本的には人族との交流はないはずなのですが。」

 

 と、同じ魔族であるヤトノが解説してくれる。


「うん、ヤトノちゃんの言う通りいつもは森の奥で過ごしているんだけれど、人族との交流というか商売を担当している村の大人のお手伝いで薬草採取をしているうちに夢中になって森の浅い部分に来ちゃったところを悪い奴らに捕まっちゃったんだよ。」


 とライムが答える。


「それは災難だったね。ライムを攫った奴らは許せないな。

 でも「東の森林地帯」は危険な魔物も多いと聞いているけど、そんなリスクを犯してまで人攫いに来るメリットはあるのかな?」


 と素朴な疑問を口にすると、横からクラリスさんが


「たいへん嘆かわしい話なのですが、一部の人族、上流の貴族などには魔族を無理やり従えることに喜びを感じる者がいるのです。

 特にライムちゃんのような器量のよい女の子を奴隷にしてあんなことやこんなことをする悪趣味な輩がいるのですよ。

 なので、魔族の女の子を奴隷にするとかなりの高額で売って大儲けすることができるのです。

 貴族の風上にも置けない恥ずべき行為なのですが・・。」


 と教えてくれる。


「それは許せない話ですね。

 でも魔族って魔法が使えて人族よりも強いという認識なんですけど。

 うちのヤトノもそうですし。」


「ええ、基本的にはそうなんです。

 なので魔族を捕まえる際は反撃されないように魔力を奪う魔道具を無理やり取り付けて魔力を封じてから、強引に奴隷契約をしてしまうのですよ。

 ライムちゃんも首輪や腕輪のようなものが取り付けられていませんでしたか?」


 とクラリスさんが追加情報を教えてくれる。


「うん、そうなんだよ。

 森で網のようなものを被せられて捕まったと思ったら、すぐにこの腕輪をはめられちゃって。

 それからあたいの魔法が使えなくなったんだよ。

 だから反撃もできなくてそのまま悪い人達に連れていかれちゃったんだ。」


 とライムが右手首にある黒い腕輪を見せてくれる。


 アクセサリーか何かと思っていたら、なんと、魔力を奪う魔道具だったとは。


 念の為に「目利き」スキルで確認すると、確かに、


・吸魔の腕輪(魔道具):

  魔力を吸収し、空気中に拡散させる魔道具。

  罪人などの魔法を封じるために使用される。

  

 と表示された。

 クラリスさんとライムが言っていることに間違いはないようだ。


「でもこんな腕輪なら壊すなり外すなりできそうだけれど。

 試してみなかったのかい?」


「うん、もちろんそうしようと思ったけれど、なぜか壊したり外したりしようとすると体に痛みが走って動けなくなっちゃうんだ。」


 とライムが答える。


「それは奴隷契約のせいですね。

 強引に奴隷契約をかける際に、主人への隷属に加えて腕輪を壊したり外したりしないような契約を書き込むのですよ。

 そのため、それに逆らおうとすると罰として体に痛みを加えられてしまうのです。」


 とクラリスさんが教えてくれる。


「なんと、それは許せない話ですね。

 僕が外すことはできないのですか?」


「できると思いますが、専用の鍵がないと外せないようになっています。

 無理に外そうとするとライムちゃんの腕が傷つくかもしれません。」


「それなら大丈夫です。僕のスキルを使えば傷をつけずに外せると思いますよ。」


 と言うと、僕は「物体作成」スキルを発動してライムの腕に取り付けられた金属製の腕輪を変形させる。


 腕に密着していた腕輪を細く引き伸ばすようなイメージで魔力をこめると、腕輪が伸びて輪の直径が広がったのでそのまま引っ張るとライムの腕からスルリと引き抜くことができた。


「取れたね!これでライムは自由になるんですか?」


 とクラリスさんに聞くと、


「すごい!さすがタクさんですね!

 腕輪が外れて魔力の拡散が止まるので、しばらくすると魔法が使えるようになると思いますが、もし奴隷契約がなされていれば自由な身になることはありません。

 ライムちゃんの体の何処かに入れ墨のような模様がありませんでしたか?」

 

 と教えてくれる。


「あ、そういえば、背中に鎖のようなもので輪っかを描いた模様がありましたよ。

 かわいい女の子に描くような趣味のいい模様ではなかったですが。」


 と、ライムをお風呂に入れた亜希ちゃんが教えてくれる。


「ああ、それは奴隷紋です。

 やはり違法に奴隷契約をされていましたか・・。

 でも、今日討伐した盗賊が主人に設定されていれば奴隷契約が変更されている可能性があります。」


 とクラリスさんが教えてくれる。

 さすがは侯爵令嬢、いろんなことを知っているね。


「なるほど、その場合は所有者死亡により奴隷から解放されたことになるのですか?」


「いいえ、その場合は特段の付帯契約が無ければ所有者の死亡後に奴隷を保護した人に所有権が移ります。

 正規の奴隷商であればそのような不測の事態に備えて高レベルの契約魔法を使えるスキル保有者が所有権の相続に関する契約を書き込みますが、盗賊と組んでいるような奴隷商はモグリの場合が多いので、そのようなことはしていないでしょう。」


「なるほど。ということは、僕達のうちの誰かがライムの主人になっている可能性があるということですかね?」


「そうですね。街に着いたら正規の奴隷商に確認してみる必要がありますね。

 誰が主人になっているにしても、本人の同意の無い奴隷契約は犯罪ですから、警備隊に訴えて法的に無効のお墨付きをもらってから解除手続きをする必要があるでしょう。」


「わかりました。

 あ、でも、もしかしたら所有者だけなら僕の「目利き」スキルでわかるかもしれません。」


 と言うと、ライムに向けて「目利き」スキルを発動する。

 すると、


・ライム:種族 鬼人族

     年齢 15歳

     性別 女

     状態 奴隷(所有者 タク)


 と表示された。

 

 え、僕がライムの所有者になっちゃってるよ(汗)



「うーん、クラリスさん、どうやらライムの所有権は既に私に移っているようです・・。

 ライムの状態が僕の奴隷になっています(汗)」


「そうでしたか・・。

 まあ、今日の出来事の流れを考えればそうなることは理解できるのですが・・。

 こんないたいけな少女を奴隷にしてしまうなんて、やはりタクさんは悪いお人なのですね・・。」


 とクラリスさんが物憂げな視線を僕にぶつけてくる。

 さらりと僕を悪者にするのはやめてください!

 僕は通りすがりにライムを助けただけなんです!

 そういう小芝居は今は必要ないですから(汗)



「ライムちゃんはご主人様の奴隷になっちゃてたんだね!

 じゃあ今夜からは私と一緒にご主人様にご奉仕しましょう!」


 とヤトノが横からぶっ込んでくる!


 そんな言い方をすると亜希ちゃんが勘違いするから止めてほしい!



「タク先輩、聞き捨てならないお話ですね。

 まさかとは思いますが、ライムちゃんに手を出そうなんて考えていませんよね?

 ライムちゃんにあんなことやこんなことをするために助けたわけじゃないですよね?」


 と亜希ちゃんが能面のような表情で冷たい冷気を発しながらにじり寄ってくる。

 

 お願いだから腰に下げた短剣の柄に手をかけるのを止めてくれませんか?

 ちょっと怖いんですけど(汗)


 その後はクラリスさんとヤトノの悪ノリを止めさせて、亜希ちゃんの機嫌を直すために一苦労するのであった。


 おかげで何故か亜希ちゃん用の新しい武器を作製することを約束させられてしまった(汗)

 解せぬ!(汗)


 僕は人助けならぬ鬼人族助けをしただけなのに、悪者扱いされるのはおかしくないですか??


最後までご覧いただきありがとうございました。

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