第13話 訓練前の顔合わせ
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メイドさんの詰め所で微妙な空気になってしまったので、チャロンさんと一緒にイソイソと立ち去った。
そして今は中庭のテーブルに座ってチャロンさんと先程のくだりについて懇談中である。
「なんか無理にお願いしちゃった感じみたいでしたね・・。チャロンさん。
もしかしてお世話係と魔法の指導のお願いはご迷惑でしたか?」
と僕が申し訳なさそううに質問すると、チャロンさんは、
「いいえ、まさか私に勇者様からお声がかかるとは思ってもみなかったので、ビックリしたのですよ。
でも本当に私なんかでよろしいのでしょうか?」
とチャロンのほうが申し訳なさそうに答えてくる。
「もちろんですよ。チャロンさんは私の求めるお世話係のイメージそのものです。
しかしながら、チャロンさんが自分に声がかからないと思っていた理由について、差し支えなければ教えていただけませんか?
もしかしたら、今後の城内での生活の参考になるかもしれませんので。」
と質問すると、チャロンさんは「実は・・。」とポツポツ語りながら教えてくれた。
チャロンさん曰く、理由は次のとおりとのこと。
・勇者召喚に備えチャロンさんと何人かの獣人族のメイドが半年ほど前にお城に雇用された。
理由は、召喚勇者の中には獣人族の女性が好きな者が一定数いるらしく、その需要に応えるため。
・しかし、兎族や、猫族、狐族等は召喚勇者に人気があるが、チャロンさんの種族は何故か過去の召喚者から人気が無かった。
・加えて、召喚勇者は剣術や攻撃魔法等の攻撃系の強い魔法を使える者をお世話係兼指導教官に選ぶことが多かったため、生活魔法使いである自分が選ばれたのは意外であった。
僕はフムフムと聞いていたが、
「それにしては、言い方は適切ではないですが、何となくチャロンさんに僕の対応を押し付けたような気がしたのですが・・。
あれだけの数のメイドさんがいれば、生活魔法を使える方は他にもいるでしょうしね。」
と素朴な疑問をぶつけてみた。
チャロンさんは、「実は・・。」とまたまた言いにくそうに続けた。
「端的に言うと、皆さん召喚勇者様のお世話係に指名されることを狙っているのです。
過去には勇者様に気に入られたメイドがお世話係から恋人関係に発展して、勇者様がこの世界での目的を達成したあとに元の世界に戻らず、この世界に残ることを選んで恋人である元お世話係と結婚したことも多々あったのです。
勇者様方は皆さんいろんな有益なスキルをお持ちなので、この世界ではまさに引く手数多で報酬もよく、結婚すれば良い暮らしができるので、メイドにしてみれば召喚勇者様はとても魅力的な攻略相手なのですよ。」
ふむふむ、そうなんだね。
召喚勇者はいわゆる玉の輿なのか。
このあたりはテンプレのとおりだね。
「なるほど。何となくわかります。
でも、それにしてはですが・・・、召喚勇者である僕に対して心なしか皆さん全く興味がなさそうに見えたのですが・・・。
召喚勇者が魅力的な攻略相手なら、私にも少し興味を持っていただけてもよかった気がするのですが・・。」
と、さらに素朴な疑問をぶつけてみる。
自分で言うのもあれだが、黒目・黒髪の典型的な日本人である僕だが、見た目はそんなに悪くないぞ?
「そこなのですが、実は大変申し上げにくいのですが、今回の召喚勇者様方の情報は耳の早いメイドによって既に収集され拡散しているのです。
今回の勇者様方は皆さんとても有望なスキルをお持ちです。
特に男性の方々は騎士、魔法使い、錬金術士など、この世界での需要がとても高いスキルをお持ちなので、既に多くのメイドや城内の女性スタッフが狙いをつけているのです。
もしこの世界に残れば、騎士団長や魔法士団長、宮廷専属錬金術士等になって、貴族待遇も夢ではないですからね。
冒険者になったとしてもかなり上級まで昇格できるでしょうし・・。
それに引き換え、タク様は言ってはなんですが『お手伝い』という過去に聞いたことのないよく分からないスキルなので、皆さんの攻略対象から外れているのです・・。」
と、とても申し訳なさそうに説明し、さらに、
「ということで、攻略対象外の勇者様のお世話係は同じく召喚勇者様方には不人気種族である私に押し付けてしまえ、という流れになったと思われます・・。」
と教えてくれた。
うーん、なんとも世知辛い話である。
どうやらこの世界はスキル至上主義だったようだ。
要するにタライのメイドさんにタライ回しにされてしまったという、駄洒落のような結末だったのね。
まあ、元の世界は学歴至上主義な側面もあったから、理解できる話である。
誰だって将来有望な相手を掴まえたいと思うのは当然だ。
自然界でも雌は強くて有望な雄を選ぶしね。
とはいえ、クレア王女がお世話係と交際してもよいと言っていたのはこのためだな。
こちらの世界で恋人を作れば、元の世界に戻らずにここに残ることを選択するかもしれないしね。
なかなかの腹黒策士だな。やはり良い人ではなさそうだ。
「なるほど、色々と言いにくいことまで説明していただきありがとうございます。
なんか私のせいで面倒な仕事を押し付けられてしまったようで申し訳ありません。」
と、チャロンさんにお礼と謝罪を述べる。
「いえいえ、決して面倒ではありませんよ。気にしないでください。
話の流れはともかく、勇者様のお世話係に選ばれたこと自体はとても嬉しいのですよ。
お世話係になりたくてお城のメイド募集に応募したんですから。
今日から一生懸命お世話係兼指導教官を務めさせていただきますね。」
と、チャロンさんはにっこり笑って答えてくれる。
なんて良い娘なのでしょう。
これはもう、「惚れてまうやろ~」とツッコミたくなる流れだね。
そんな思いを気取られないように、
「ところで、先程チャロンさんの種族は僕たち召喚勇者に人気がない、とのお話でしたが、差し支えなければ、種族を教えていただいても?
あ、種族を知ったからといって、お世話係の話を無かったことにしたりしないので、ご安心ください。」
と、種族名を聞いてみる。
話の流れ的にとても気になってたんだよね。
日本人は基本的にケモミミには好意的なはずだからね。
「はい、私はコヨーテ族なのです。何故か召喚勇者様方には人気がないようで・・。
皆さんは始めはこの耳の形を見て、狼族?狐族?と興味を持たれるらしいのですが、コヨーテ族だと分かると途端に興味を失くす・・、と記録に残っているそうです・・。」
なんとコヨーテ族!
少なくとも今まで読んできたラノベや無料投稿サイトの小説では確かに、コヨーテの獣人は登場したことがないな。
これはあれだな、映画とかアニメのイメージが先行して不人気なのに違いない。
「不人気の理由が何となくわかりました。僕が思うに2つあります。
1つ目ですが、僕たちの住んでた国にはコヨーテが住んでいないので、皆さん馴染みが薄いのです。
元の世界でも遠く離れた大陸に住んでいる動物なのですよ。
2つ目ですが、コヨーテは僕たちの世界の物語の中では「荒野の無法者」といった感じで描かれることが多く、皆さん良いイメージが無かったのかもしれませんね。」
と、思いつく理由を述べてみる。さらに、
「言うまでもないですが、僕の世界に住んでいるコヨーテと、こちらの世界のコヨーテ族の皆さんは全く関係がありませんからね。
ちなみに僕はコヨーテ族というか、チャロンさんはとても可愛いと思いますよ。」
と、フォローも忘れない。
チャロンさんは、顔を真っ赤にしながら、
「ありがとうございます・・。」
と答えてくれた。
うん、かわいい・・・。
「それでは改めて自己紹介しますね。
僕は七条 拓、21歳、スキルは『お手伝い』です。
僕のことは気軽にタクと呼んでくださいね。
今日からよろしくお願いします。」
と改めて自己紹介した。
異世界物の小説では人の名前を伺う際は、自ら先に名乗るのが定番だったよね。
「私はチャロン、コヨーテ族、16歳です。スキルは生活魔法各種です。
私のことはどうぞチャロンと呼び捨てでお呼びください。
こちらこそよろしくお願いいたします。」
とまたもや丁寧に答えてくれた。
てゆうか、16歳、こちらの世界では成人なのだろうか?
あとで聞いてみよう。
「ではよろしくね、チャロン。」
「ではよろしくお願いします。タク・・さん。」
「それでは早速、生活魔法について教えてくれる?」
「もちろんです。では、訓練できる場所に行きましょう。」
まだ若干堅さがあるものの、チャロンとはまずは良い関係でスタートできたようで一安心である。
さあ、早速ですが生活魔法なるものを訓練してみよう。
僕も魔法使いになれるのだろうか?
こればかりは自分のスキルの能力を信じるしかないね。
案ずるより産むが易し。
昔の人は良いこと言うよね。
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