第124話 真夜中の襲撃
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ナンの生地を仕込んだ鍋を火にかけると、生地が焼ける良い匂いが漂って来る。
「いい匂いだね。
お腹が空いてきちゃうよ。」
「ですね!
焼きたてをつまみ食いしましょう!」
「ははは、それもいいね。
たくさん焼くからちょっとくらい食べてもいいだろう。
あ、朝のスープの準備もしないとね。」
「はい!私も手伝いますよ!」
とアイテムボックスから野菜を取り出して調理を開始しようとしたその時、バイパー分隊が尻尾を鳴らす音が聞こえる。
短く3回の音の合図は不審者の発見の合図だぞ。
む、何か現れたのか?
僕はクロロに、
「クロロ!、何かが僕達のキャンプに接近しているかもしれない!
上空から監視だ!」
と指示する。
続けて、
「ヤトノ、スノー、アッシュ、キャンプに誰かが接近中だ!
音と熱の感知で周囲の警戒だ!」
と指示を出すと、片手剣に手をかけて何時でも敵を迎え撃てる準備を整える。
「ご主人様! キャンプの周囲に熱を感じます。
これは動物ではなく人の気配ですね。
全部で7人いますよ!
私達のキャンプを囲むように接近してきます!」
なんだと! キャンプを包囲して襲ってくるつもりか?
てゆうか何故僕達のキャンプなんだ?
商隊の馬車ではなくて?
もしかして商隊の荷物ではなく人攫いが目的か?
さては、うちのパーティーの女子チームに目をつけたのか?
たしかにうちのメンバーとクク・ルルはみんな美人だから盗賊が道中で目ぼしをつけていてもおかしくはない(汗)
「ヤトノ!皆を起こしてくれ!
そしてヤトノは白ヘビモードで待機だ!
いつものように伏兵としてバックアップを頼むよ!」
「はい! わかりました!」
と言うとヤトノは皆のテントまで走って行き、テントをバンバンと叩きながら、
「不審者が発生しました!
みんな起きてください!」
と声をかけている。
うむ、これなら大丈夫だろう。
さあ、僕達の安全と安眠を邪魔する奴らを迎撃してやるぞ!
◇◆
「おい、奴らが急に動き始めたぞ。
もしかして気づかれたか?」
と暗闇に潜む男達の1人がリーダーらしき男にそっと近寄リ小声で報告する。
「まさか。この距離と暗さで気付かれる訳がない。
我々の『気配遮断』を看破できる者などいないぞ。」
「だが、奴らは明らかに警戒態勢を取り始めているぞ。
あ、女のほうが仲間を起こし始めたぞ。
このままでは襲撃が未遂に終わってしまう。」
「うむ、こうなったら仕方がない。
今のうちに速攻で襲撃してあの男の身柄を確保するぞ。
他のパーティーメンバー達が起きてくる前に決着をつける。
全員で正面突破だ。
行くぞ!」
とリーダーが小声で指示を出すと、闇に潜んだ男達が一斉に走り出す。
男達は足音も立てずに暗闇の中を走り抜けると、一気にタク達のキャンプに接近する・・。
こうして真夜中の襲撃の口火が切られた。
王国の暗部の突然の襲撃に、タクとその仲間達は立ち向かうことができるのか?
◆◇
『ブルル・ブルル・ブルル』と、
バイパー分隊が尻尾で短音を3回鳴らす音が再び響き渡る。
むむ! 敵に動きがあったのか?
『クロロ!、上空から不審者を視認してくれ!
『感覚共有』で確認する!』
とクロロに念話で声をかけると、速やかに『感覚共有』でクロロの視界を共有して不審者の様子を確認する。
なんと!、黒ずくめの男達が僕達のキャンプに向かって走って来ているではないか!
「なんだ、あいつ等は?
しかも走っているのにまるで気配を感じない!
只者じゃないぞ(汗)」
と思わず独り言をつぶやいてしまう。
「タクさん! どうしましたか!?」
とチャロンを筆頭に女子チームが集合してくる。
「チャロン!、みんな!
怪しい男達が襲撃してきた!
よく分からないが迎撃するぞ!
チャロンは亜季ちゃんとアカネちゃんと一緒にショットガンで迎撃準備!
楓ちゃんとクク・ルルはタントさん達の護衛だ!」
「はい!」
と返事をすると女子チームは速やかに準備にとりかかる。
前回の護衛の経験のおかげか、皆の動きがスムーズだ。
これなら迎撃準備が間に合いそうだ!
と思った矢先に、僕たちの前に黒ずくめの男達が姿を現す!
顔まで黒い布で隠した男達は手には短剣を持ち、明らかに穏やかな雰囲気ではない。
これは戦闘は避けられないぞ。
むむ、ショットガンでは周囲の他の商隊に流れ弾が当たる恐れがある(汗)
かと言ってこの距離では弓は悪手だし、剣での白兵戦では女子チームが怪我をする恐れがある。
うむ、ここは戦力化したばかりのバイパー分隊の出番だ!
ド派手にデビューさせてやろう!
『バイパー分隊、敵の後ろに移動しろ!
襲撃可能な位置で待機だ!
準備完了したら尻尾を1回鳴らして合図しろ!』
とバイパー分隊に念話を送る。
『チャロン達はショットガンをスラッグ弾モードにして攻撃準備だ!』
と女子チームにも指示を出す。
これで迎撃準備は完了だ。
さて、一応敵が誰なのか確認しておこうかな?
僕は黒ずくめの男たちに向き合うと、
「で、お前達はいったい何処の誰で何の用だ?
盗賊なら容赦なく討伐させてもらうぞ。」
と招かれざる来客達に声をかける。
すると中央に立つ男が、
「冒険者タクだな?」
と聞いてくる。
むむ、なぜ僕の名前を知っているんだ?
て言うか、ターゲットは僕なのか?
まさか男色好きの貴族に売り飛ばすために僕を攫って行こうと言うつもりじゃないよな?
悪いが僕はそっちの趣味はないぞ!
「その質問に答える必要があるのか?」
「まあ、必要があるかと聞かれれば、その必要は特にない。
貴様が冒険者タクという事は把握しているからな。
一応聞いただけだ。」
「なら答える必要はないな。
で、お前達は誰なんだ。」
「それに答える必要はない。
こちらの用件は1つ。
貴様と、さっきまでいた白銀色の髪の女の2人は我々と一緒に来てもらう。」
は?、何故僕とヤトノなんだ?
「何故だ?」
「答えるつもりはない。
黙って一緒について来れば、仲間の安全は保証しよう。
もし断れば貴様と白銀色の髪の女は力ずくで連れて行く。
当然他の仲間の安全は保証しない。
もし抵抗するなら殺す。」
何だと!そんなことを言われて「はい、わかりました。」と言う訳はないだろう!
いったいこいつ等はどういうつもりなんだ?
「断る。理由も分からないのにお前達の言う事を黙って聞くつもりはない。
ましてや大事な仲間を危険にさらすつもりもない。」
「では交渉は終わりだ。
力ずくで連れて行く。
仲間が死んだら貴様のせいだからな。
後で後悔しても遅いぞ。」
と言うと、男達は短剣を構えて戦闘態勢に移行する。
なんて奴らだ!、交渉が終わるのが早すぎるじゃないか!
そこはもう少し会話のキャッチボールを続けるところじゃないのか?
連れて行く理由を説明するとか、金銭的な条件を提示するとか、定番の流れがあるだろう?
こっちはバイパー分隊の準備が整うまで時間稼ぎをしているんだから空気を読めよ!
全く交渉になってないのに交渉を終えるとは如何なものかと思うぞ!
悪人なら悪人らしくテンプレなやり取りをしてみせろよ!
と、黒ずくめの男たちの会話にいささかの不満を覚えつつも、やむを得ないので僕は次のステップに移行する。
「なら仕方がない。
こちらもお前達を返り討ちにさせてもらうぞ。」
と答えたところで、バイパー分隊が尻尾を1回鳴らす音が聞こえる。
うむ、ギリギリ間に合ったぞ!
僕はバイパー分隊に、
『バイパー分隊は合図をしたら左側の3人に噛みついて麻痺させろ!』
と念話で号令をかける。
尻尾が1回鳴る音が聞こえたので、了解したのだろう。
きっとバイパー1(ワン)が答えたに違いない。
特に回答要領を教えてないけど自分達でアレンジしているようだ。
再びバイパー達が「ただのゴーレムではない」疑惑がフツフツと湧いて来たが、今は考えるのは止めておこう(汗)
「フン、そんな変な魔法の杖でどうやって戦うつもりかは知らんが、やれるものならやってみるんだな。
後で泣いて許してくれと頼んでも遅いぞ。
やれ!」
と中央に立つリーダーらしき男が号令をかける。
それと同時に僕もバイパー分隊に
『やれ、バイパー分隊!』
と念話で号令をかける。
その途端、左側の3人が
「うっ、」「あっ」「ぐっ」と声をあげてその場に倒れ込んでピクピクし始めた。
どうやらバイパー分隊の麻痺魔法の攻撃が成功したようだ。
それを見た残りの男達は
「「何!」」「「どうした!」」
と倒れた男たちに声をかけて動きが止まる。
ふっ、この瞬間を見逃す僕ではないぞ。
『バイパー分隊、右側の3人も麻痺させろ!』
と更なる攻撃を指示する。
するとものの2、3秒で
「ぐわっ」「うぐっ」「のわっ」
と短いくぐもった悲鳴をあげて男達が倒れ込む。
あっと言う間にリーダーらしき男以外を制圧してしまった。
やるな、バイパー分隊!
「な、何をやったんだ貴様は!」
とリーダーらしき男が焦った声で聞いてくる。
「うん? 言った通りに返り討ちにしただけだが?、何か?
さあ、次はお前だ。
まあ泣いて許してくれと頼んでも遅いけどな。
僕は自慢じゃないが約束を守る男だ。
冒険者は信用が一番だからな。」
「何を生意気な!
お前達ごときの冒険者風情を倒すくらい俺1人で十分だ!」
「威勢がいいな。
まあ、お前を倒すのに僕の手を出す必要は無いけどな。
僕の指先すら触れる必要はないぞ。」
「くっ、怪しい術を使うとは聞いてなかったな。
これも『例のスキル』の効果なのか?」
む、『例のスキル』とは何だ?
こいつは僕のスキルについて何か知っているのだろうか?
ちょっと聞いてみるか。
「お前に最後の交渉のチャンスをやろう。
お前たちが誰で、何の目的でやって来て、何故僕のスキルを知っているのかを正直に言えば、殺すのは止めておいてやろう。
言わなければ盗賊と見做して皆殺しだ。
手加減は無しだ。」
「ふん、そんな脅しは効かん。
殺せるものならやってみろ。」
やはり言わないか。
こいつ等はきっとアレだな。
やはり王城が動いたのか・・・。
「では交渉は終わりだ。
お前も仲間と同じようにしてやろう。」
と言うと、デコピンのように指を空中で弾くと同時に、バイパー分隊に『やれ!』と念話で号令をかける。
号令と同時にリーダーらしき男が、無言でパタリと動きを止めると、声も出さずにその場で卒倒して、そのまま意識を失って盛大にピクピクしている。
どうやらバイパー分隊が号令と同時に3匹で噛みついたらしい。
バイパー3匹分の麻痺魔法を同時に受けると声を出すことすらできないようだ・・。
麻痺魔法が効きすぎて死んだりしていないよね?(汗)
ま、とりあえず怪しい男たちの迎撃は完了したからよしとするかな。
後片付けも必要だしね。
◇◆
ピクピクしながら横たわる黒ずくめの男達を見て、
「こいつらが皆に危害を加える前に制圧できてよかったよ・・。」
と安堵のため息をつく。
どう考えても只者ではない雰囲気だからね。
バイパー分隊がいなければ近接戦闘は避けることができなかっただろう。
そうなると女子チームが怪我していたかもしれないからね(汗)
「そうですね。誰も怪我がなくてよかったですね。
ところで、タク先輩。先程はどうやってこの男達を制圧したのですか?
まさか本当にエアデコピンで倒したとかいいませんよね?(ジト)」
と亜季ちゃんが聞いてくる。
おっと、バイパー分隊のことはまだ説明してないからね。
「うん、うん(汗)
ちょっと新しいスキルというか道具を使ったんだよ(汗)
話せば長くなるので、説明は無事にサゲオの街に着いてからでいいかな?(汗)」
「わかりました。今はこの男達の処理が優先ですからね。
でも決して納得はしていませんからね。
サゲオについたらちゃんと説明してくださいよ(ジト)。」
「わ、わかったよ(汗)」
と冷や汗をかきながら答える。
ふう、謎の男達より亜季ちゃんのプレッシャーのほうが恐ろしいよ(汗)
「タクさん、この者達をどうしますか?」
とチャロンが聞いてくる。
「そうだね。とりあえずガッチリと拘束しておくかな。
ロープはご丁寧にも持参してくれているみたいだしね。」
「お任せください!
犯罪人の縛り方は習っていますので大丈夫です!」
「おお、流石はチャロンだね。
皆も手伝ってくれるかな?」
「「「「「わかりました!」」」」」
と答える女子チームと一緒に、ピクピクしている黒ずくめの男達をロープで拘束していく。
「みなさん、こうやってロープを適当な長さだけつかんだら半分に折って、首にかけてこっちにまわして・・。」
と、チャロンの言う通りに縛っていくと・・、ガッチリと固縛された男達のオブジェ?が出来上がった・・。
これってアレだよね。
元の世界で言うところの「亀甲縛り」だよね。
しかも手首と足首は体の後ろでがっちりと固縛されて、えび反りのような姿勢になっている。
このまま木の枝にでも吊るせば、犯罪人というよりかは、そっちの趣味の人が喜びそうな絵面になりそうだぞ(汗)。
これで赤いロウソクがあれば準備完了、といった感じだ(汗)
ところで亜季ちゃん、君はどうしてそんなに上気した顔で「ハアハア」しているのかな?
現役の女子高生が人前でそんな顔をしちゃだめだよ。
「ふう、これだけキッチリと縛り上げれば逃げることはできないですね!
この後はどうしますか?」
「うーん、無抵抗の人間を殺すのもあれなので、警備隊に突き出すしかないかな?
ま、とりあえず顔を確認しておこう。
万が一にも知り合いだと嫌だしね。」
「ですね・・。」
と、内心では王城の関係者だと感づいている僕とチャロンは微妙な気分になりつつも男達の顔を覆っている布を外す。
「どうだい、チャロン?
知ってる顔はいるかい?」
「いや、いないですね。」
「そっか、他のみんなはどうだい?」
と他のメンバーに確認すると、
「あ、タク先輩、こいつらですよ。
私が先程の見張りの交代時にお伝えしたのは。
こいつらが昨日の午後から私達をずっとつけていた奴らですよ。」
と亜希ちゃんが教えてくれる。
「間違いないかい?」
「はい、あっちにある2台の馬車に分乗してずっと後をつけていたのをマイティの視界で確認していましたから間違いないです。」
「わかったよ。夜が明けたらあちらの馬車を確認してみよう。
もし罠でもしかけられていたら危ないからね。」
「ですね、タクさん。
では朝までこのまま転がしておきましょう。」
「了解だよ。
じゃあ、みんな睡眠中に起こして悪かったね。
また朝まで休んでくれるかな。
こいつらの監視は僕が見張りと合わせてやっておくよ。」
「「「「わかりました!」」」」「「了解です!」」
と答える女子達がテントに戻るのを見送って、僕は見張りの任務に戻る。
「ふう、なんとか無事にやり過ごせてよかったよ。
でもまさか王城の関係者が実力行使に出てくるとはね・・。
やはり僕のスキルの有用性に気がついたのかもしれないな。
僕を連れ戻してスキルの秘密を調査したり、軟禁して魔道具作りをさせたりしようと考えているに違いない。
やはり王城を抜け出してきて良かったということか・・。
早く国境を越えて身の安全を確保しないといけないね。」
と独り言ちながら、作りかけだったナンのことを思い出して鍋の様子を見る。
「あちちち、もう少しでナン焦げてしまうところだったよ。
食べ物を粗末にしちゃいけないんだぞ!」
とまだピクピクしている男達を説教しておく。
まあ、気絶して聞いてないと思うけどね(笑)
その後、人の姿に戻って現れたヤトノと一緒にナン焼き作業の続きと、野菜スープの仕込みをした僕は、見張りの交代で起きてきたチャロンに後を任せてヤトノと一緒にテントに入ると仮眠につくのであった。
ああ、今夜は予想外の襲撃イベントで疲れたね(汗)
明日は無事にサゲオの街に到着できるといいね・・。
おやすみなさい、異世界・・・。
最後までご覧いただきありがとうございました。
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