第123話 向けられた牙!
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前回同様にキャンプを設営した僕達は、夕食の準備を実施中である。
今日は魔物との戦闘も無く、比較的早く野営地に到着して時間もあったので、ちょっと手の込んだ料理を作る事にした。
今日のメインはカレーライスだ。
前から野営の途中で食べたいと思っていたが、なかなか機会がなかったんだよね。
やはりキャンプの定番料理といえばカレーライスは外せないのだ!
もちろん肉はタップリと入れてある。
お肉ゴロゴロカレーだね!
これにトッピングのゆで卵を添えてさらにボリュームをアップする。
元の世界では太ること間違いなしのメニューだけれど、こっちでは日々野外で活動しているからか、多少のカロリーの過剰摂取は全く問題ない。
満腹度を優先したメニューを優先しよう!
以前に王城の食堂で作った「山賊猪の強欲カレー」には及ばないが、かなり強欲感があるぞ。
サイドメニューに亜季ちゃんが狩ったノウサギを解体して肉と野菜の串焼きをたくさん作る。
マイティとクロロは生肉オンリーだけどね。
その他のおかず?に市場で買ってきた暴れ黒牛と山賊猪の合い挽き肉と各種の野菜を使ってギョーザも作る。
どうやら亜季ちゃん達がクク・ルルにギョーザの話をしたらしく、ぜひとも食べたいとリクエストがあったのだ。
断る理由もないし、僕も食べたかったので皆で手分けして作る。
ギョーザは皆でワイワイと言いながら作る過程も楽しいよね。
ついでに明日の昼食用にハンバーグのパテもたくさん作っておく。
もちろんチーズインハンバーグだ。
最後に亜季ちゃんが狩ったキジで作ったキジ肉と野菜のスープで今日の夕食の完成だ。
うん、今日も豪勢な夕食だね!
単品でもいい匂いのする料理が複数あるので、周囲に対する匂いの影響力はとてつもなく大きい。
料理の見た目とも合わさって、もはや暴力的ですらある。
もはや料理テロと言っても過言ではない。
こんなにいい匂いが漂っているのに食べられないなんて、お腹がペコペコの人にとっては地獄の責め苦だろう。
既に周囲から半ば殺意のこもった視線を感じるが、もう慣れたので気にすることなくスルーで対処する。
キャンプ料理は周囲の目線を気にしてはダメなのだよ!
食べたい物を食べたいだけ食べる、それがキャンプの醍醐味なのさ!
◆◇
「ふう、今日はいい1日だったね。魔物も出て来なかったし、料理も美味しかったしね。
いつもこんな感じならいいのにね。」
とお風呂に入りながら、人の姿に戻って僕の隣で一緒にお風呂に入るヤトノに話しかける。
今夜は熱々の美味しい料理を食べすぎて汗だくになってしまった僕は、お風呂で汗を流した後に湯船でマッタリしているところだ。
ちなみにスノーとアッシュはいつも通り先に戻って警備についているのでお風呂の中には僕とヤトノだけである。
「ですね!でも魔物を狩らないと収入がイマイチですよね~。
護衛だけだと可もなく不可もなくといった感じですからね。
毎日美味しいご飯をたくさん食べるためには、それなりに獲物も出てきて欲しいですね。」
「まあ、それもそうだね(汗)
オーガやオークはいらないので、暴れ黒牛や山賊猪くらいで丁度いいかな。」
「ですね! それくらいならバイパー分隊がいれば楽勝ですよ。
それよりご主人様のバイパーも私に噛みついてきそうなくらいに元気がいいですね、ウフフ。」
と言いながら、既にワイルドトランスフォームMAX状態の僕の僕を優しく手で掴んで上下に擦る。
「そ、それはヤトノの体がセクシーすぎるからだよ(汗)」
「ふふふ、嬉しい事を言ってくれますね、ご主人様。
それでは今日もタップリご奉仕しますね!」
と、最近メキメキと奉仕の腕を上げているヤトノに優しく掴まれてトップギアにシフトチェンジした僕のレッドバイパーは、今日も白いエグゾーストを吐きながらゴールラインの向こう側に走り去るのであった・・。
◇◆
何事もなかったかのような顔をしてお風呂から出た僕は、皆と見張りの順番を決めて寝る準備をする。
まあ、チャロンにはヤトノが念話で報告済みなのでバレバレなんだが(汗)
最初は楓ちゃんとクク・ルル。
次が亜季ちゃんとアカネちゃん。
その後に僕、最後がチャロンと大体いつもの感じである。
「じゃあ、何かあったらすぐに大声を出して起こしてね。
最初の3人は見張りをよろしくね。
残りのメンバーは早く寝よう。」
「了解です!」「「お任せください!」」
と元気よく答える楓ちゃんとクク・ルルに後を任せて僕はテントに入って横になる。
「ああ、このまま何事もなく朝になるといいね・・。」
とつぶやきながら白ヘビモードのヤトノと一緒に寝袋に入る。
ああ、今日もいい1日だったね。
おやすみなさい、異世界・・。
◇◆
タク達がキャンプを構える場所から少し離れた場所で野営している商隊とその護衛の冒険者達が、タク達の様子をずっと観察している。
彼らはダイン商会を名乗る商隊、その正体はセントラル王国の暗部の者達である。
ワウラの街からタク達を追って大急ぎで馬車を走らせ続けて、途中で追いついていたのであった。
野営地に到着する2時間ほど前からタント商会の馬車の何台か後ろに位置取って後をつけ、そのままタク達のキャンプの近くに馬車を停めて野営をしている。
距離にして100mといったところであろうか。
ここで野営するその他大勢の一部であるので当然ながらタクは気付いていない。
「それにしても彼らの食事には驚きだな。」
「ああ、あれだけの食材を何処から出したのだ?
それに野営道具も。」
「例の商会で販売している収納魔法のポーチを使ったとしてもあれだけの量は持ち運べないはずだ。
しかも新鮮な肉や野菜を収納していたぞ。」
と話す男は、別の暗部の者が冒険者のふりをして松戸屋から購入した魔道具の性能を確認済みである。
その時は通常サイズの背嚢と同程度の容量しか出し入れできなかったし、収納の中に入れた野菜は時間の経過とともに傷んでいたのだ。
「うむ、おそらくだが市販されている物より高性能な魔道具を使っているのであろう。
それに弓術士の勇者の女が昼間の狩りに使っていた弓の性能は異常だ。
あの距離と位置から獲物を仕留めるなんて、いくら弓術士のスキルを持っていても無理だ。
そもそも獲物が見えていないのに矢が当たるなんておかしいだろう。
あの弓も何かしらの魔道具に違いない。
ターゲットが魔道具を作るスキルを持っているという予想は当たっているやもしれんな。」
と話す男は、亜季ちゃんの弓の腕前は魔道具の効果だと疑っている。
実際は亜希ちゃんがマイティとの感覚共有で獲物が直接見えなくても狙いを定めることができるだけなのだが、それを男が知るはずもない。
「それが本当ならすごい話だ。
奴が自分のスキルを隠しているという事だからな。
王城のスキル鑑定士の目を欺いていたと言う事になる。
これは詳細な調査が必要だぞ。」
「ああ、『お手伝い』というスキルは聞いたことがないが、奴を見ていると何かと怪しい点が多い。
必ず連れて帰らねばいけないな。」
「だが、どうやって説得するのだ?」
「なに、いつも通りだ。
紳士的な『話し合い』で納得してもらうだけさ。
我々は王城の職員であって盗賊じゃないからな。
まあ、話し合いの結果次第では帰りの馬車の乗り心地が少し変わるだけさ。」
と、1人の男が荷馬車の荷台の後ろにかかる帆布を少しめくる。
そこには申し訳程度に置かれた空の木箱の他は、剣やナイフ、棒などの武器とロープやズタ袋などしか置かれていない。
明らかに荷物を運ぶと言うよりかは、人間を攻撃したり拘束して運ぶための装備である。
「奴の見張りの順番になったら身柄を確保するぞ。
奴は剣も体術もなかなかの手練れらしい。
話し合いに応じなければ、皆で一斉に飛びかかって押さえつけるぞ。
あと、奴等が連れている従魔が騒ぐようなら排除しろ。」
「もし誰かが一緒に見張りをする場合はどうする?」
「いつも連れているお世話係の獣人なら一緒に拘束しよう。
騒ぐようなら排除してもかまわん。
その他の勇者の女は気絶させて転がしておけ。
奴らはたいして役に立つとは思わんが、いないよりはましだろうからな。
旅を続けてもらえばいいだろう。
あの男を確保したら馬車に放り込んで速やかにここを離脱するぞ。」
「わかった。では我々も交代で休みを取ろう。
奴が現れたらいつでも動できるようにしっかり準備しておけ。」
「了解だ。」
などと、コソコソと打ち合わせをした男達は見張りを残してその場で横になって仮眠につく。
すぐ近くで不穏な事態が進行していることを、既に夢の世界に旅立ったタクは知る由もない・・。
◆◇
「タク先輩、交代の時間ですよ。起きてくださいね。
起きないと私が抱きついて添い寝しちゃいますよ。」
と誰かが僕のテントの外から優しく声をかけてくる。
うん、この声は亜季ちゃんだな。
もう交代の時間か。早かったね。
それにしても、起こしに来たのに抱きついて添い寝しちゃうぞ、とは如何なものか?
起こすならちゃんと起こしてほしいぞ(汗)
僕はモゾモゾとテントから這い出すと、
「起こしてくれてありがとう、亜季ちゃんとアカネちゃん。
何か変わったことはあったかい?」
と声をかける。
「いえ、ありませんよ。」
とアカネちゃんが答えた後に、
「はい、何も無いのですが・・。」
と亜季ちゃんが歯切れ悪く答える。
「どうかしたのかい?」
「はい、あっちに停車している2台の馬車なのですが、昨日の午後に突然猛スピードで走ってきたかと思えば、急にスピードを落として私達の商隊とつかず離れずの距離を維持したままずっと後方をついてきていたのです。
しかもそのまま同じ野営地で宿泊ですからね。
急いでいたならそのままもっと先に進んで行ってもよさそうなものなのですが。」
「おお、よく気が付いたね。
僕は全く知らなかったよ。」
「はい、私はマイティとの感覚共有で周囲の状況を見ていましたからね。
それに今も私達のキャンプを直接見れる位置に停車しているのも気になります。
気のせいかもしれませんが、念のため申し継いでおきますね。」
「わかったよ。
教えてくれてありがとう、亜季ちゃん。
クロロにも情報共有してしっかり見張るように伝えておくよ。
じゃあ、朝までゆっくり休んでね。」
「はい、わかりました。
見張りをよろしくお願いしますね。
おやすみなさい、タク先輩。」
「おやすみなさい!」
と返事をすると亜季ちゃんとアカネちゃんはそれぞれのテントに入って行く。
ふむ、ずっと後を付いてくる馬車か・・。
気のせいかもしれないけれど一応気をつけておこう。
僕は止まり木にとまって起きているクロロの頭を優しくなでながら、
「さっきの亜希ちゃんの話しは聞いてたかい?
念のためしっかり見張りを頼むよ。」
と声をかける。
クロロは「わかった!」と言わんばかりに「ホウ!」と鳴くと首を左右に振りながら周囲を見回している。
どうやら周囲の音を拾っているようだ。
「まあ、クロロがいれば安心だけど、せっかくなのでバイパー分隊も出動させよう!」
と独り言を言うと、アイテムボックスからバイパー分隊を取り出す。
「一列横隊に整列!」
と小声で号令をかけてバイパー分隊を整列させると、
「命令を達する!
我がキャンプ内の警戒監視を実施せよ!
不審な人物及び魔物を発見した場合は尻尾を鳴らして報告すること。
バイパー1は分隊の指揮をとれ!
以上、かかれ!」
と命令する。
バイパー分隊は敬礼の代わりに首を縦に振ると、キャンプ内に展開していく。
どうやらバイパー1が念話で合図を出して警戒監視を開始したようだ。
作ったばかりの割には、なかなか優秀な動きである。
ヘビの本家?のヤトノが監修しただけはあるね!
これで見張りの準備は完了かな?
何かあったらクロロやバイパー達が教えてくれるだろう。
「さあ、僕はナンの作り置きでも焼こうかな?
明日も女子チームがたくさん食べるだろうしね。」
と言いながら、ナンを焼くための道具と材料を出して準備を始める。
その時、テントの中からモゾモゾとヤトノが出てきて、白い煙とともに人型に変身すると、
「ご主人様! ナンを焼くのですか?
私も手伝いますよ!」
とテンション高く声をかけてくる。
「おお、ヤトノ。手伝ってくれるかい?
それよりテントの外で人の姿になってもいいのかい?」
「うーん、クク・ルルの2人は熟睡してますし、服も戦闘服にしたので問題ないでしょう。
見張りの順番から言うとチャロンお姉さんに見られるだけでしょうしね。」
「ま、それもそうか。
じゃあ、お手伝いをお願いするよ。
よろしくね!」
「はい!」
と元気よく答えるヤトノと一緒にパン生地を伸ばしてナンを焼く準備をする。
さあ、明日の食事に備えて美味しいナンをたくさん焼いておこうかな!
◇◆
「お、奴が出てきたぞ。皆起きるんだ。」
と見張り当番の男が仮眠中の仲間に声をかける。
ここはダイン商会こと、王国の暗部の者たちのグループである。
タクが起きてきたのを視認した見張り番が、リーダーらしき男の言い付けに従って他の仲間を起こす。
「うむ、ようやく現れたな。」
「行動準備だ。音を出すなよ。」
「前直の見張りの女2人がテントに入って15分たったら奴を『説得』しに行くぞ。
武器と拘束道具の準備だ。」
と暗部のメンバー達は手慣れた様子で準備を進める。
どうやらこの手の任務は経験豊富なようだ。
「準備はいいか?
できるだけ暗闇を経由して奴を囲むようにゆっくりと接近するぞ。
さあ、行くぞ。」
とリーダーらしき男が声をかける。
すると、タクのキャンプの様子を伺っていた男が、
「みんな待て。誰か出てきたぞ。
見たことのない女だぞ。
あいつは誰だ?」
と声を出して仲間の動きを止める。
「あ!、奴は確か、先の格闘技大会の際に奴の側にいた女だ。
例の松戸屋に魔道具を卸し売りしている商会の代表者ではないかと疑われている女だ。」
「うむ、これで間違いない。
『お手伝い』の勇者は魔道具作成と販売に何かしら関係している。
あの白銀色の髪の女も含めて拘束するぞ!」
「「「「「「了解だ」」」」」」
と各メンバーが短く答えると、それぞれが行動を開始する・・。
ついにタクとヤトノに向かって王国の暗部の牙が向けられてしまう!
いったいどうなってしまうのか?
2人の運命や如何に!
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