第122話 不穏な追跡者・・
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ワウラの街の外壁を通り過ぎて、サゲオの街に向かう街道に出た僕達は、他の商会の馬車に続いて進んでいく。
タント商会長曰く、国境に向かうこの街道は交通量が多いので基本的には安全だが、商隊の隊列が少なくなった場合などは魔物や盗賊が襲ってくる場合があるので油断できないらしい。
ちなみに、今回の積荷は王都を経由して入荷した他国の布製品や工芸品等とのこと。
それらをクリストファー王国で売り払ったあとは南方から流れてくる珍しい食材、主に胡椒などの調味料の類を入荷してくるのが定番だそうだ。
なので盗賊に襲われるとしたら金目の物をたくさん搭載している往路の可能性が高いとのこと。
僕は念話で『炎狼小隊』のメンバーに情報共有するとともに、周囲の警戒を巌とするように指示を出す。
メンバーからは「「「「了解!」」」」の頼もしい回答が返ってくる。
隊列の上空にはマイティを、前後にはスノーとアッシュを配置して感覚共有も活用しながらちょっとした異変でも探知できる態勢を整える。
備えあれば憂いなしだからね。
万全の態勢で今回の護衛依頼を成功させよう!
◆◇
ワウラの街の冒険者ギルドの朝のラッシュアワーが終わり、受付が閑散とし始めた朝の10時頃、1人の商人風の男が受付に歩み寄ると、
「こんにちは、お嬢さん。
ダイン商会の者ですが、商隊の護衛依頼をお願いしたいのですが。」
と受付の女性スタッフに話しかける。
「いらっしゃいませ。
商隊の護衛ですね。
行き先と希望される護衛のランク等を教えていただけますか?」
「はい。サゲオの街まで馬車2台の護衛です。
こちらの都合で恐縮なのですが、大事な荷物を運ぶので腕利きの冒険者にお願いしたいのです。
最近話題の『炎狼小隊』というD級パーティーがこちらの街にいらっしゃると聞きましてね。
ぜひともそちらのパーティーに指名依頼をお願いしたいのですが?」
「『炎狼小隊』の皆さんですね・・。
あ〜、そのパーティーの皆さんは既に別の護衛依頼でサゲオの街に発たれたようです。
計画では今朝出発されたばかりですね。」
「なんと! 一足遅かったですな・・。」
「はい、せっかくご指名を頂いたのに対応できなくてすみません。
あ、でも他にも腕利きの護衛専門の冒険者パーティーはおりますが依頼を出されますか?」
「いえ、それであれば一度商会に戻って再度日程の調整をしてきます。
因みに『炎狼小隊』の皆さんがこちらにお戻りになるご予定はわかりますか?」
「え〜と、どうやら片道の依頼だけ受注しているようですので、こちらに戻って来る日はわからないです。」
「そうでしたか。
情報提供ありがとうございました。
また出直してきます。」
「またのお越しをお待ちしております。
本日はご足労頂きありがとうございました。」
と、丁寧なやり取りを終えると商人風の男は冒険者ギルドを出てそのまま荷捌き広場に向かう。
そこには荷馬車が2台が停車しており、商人風の男達が2人、冒険者風の男が4人が待機している。
パッと見は商隊とその護衛の冒険者のようだ。
先ほど冒険者ギルドから出た商人風の男はその集団と合流すると、
「一足遅かった。
奴らは既にサゲオの街に向かって旅立った。
速やかに追うぞ。
途中の野営地点で「説得」して王城に戻ってもらう。」
と小声で話しかける。
「はっ!」
と待機していた男達が小声で答えると、商隊とその護衛の冒険者っぽく振る舞いながらその集団は出発する。
彼らは言うまでもなくクレア王女の命令を受けてタクを「説得」しに来たセントラル王国の暗部の人間である。
話の雰囲気からはただの話し合いですむような感じではない。
王国の暗部に追われることとなったタク達は無事に国境を越えることができるのだろうか?
今後のタクとその仲間達の運命や如何に?
◇◆
商隊の隊列は特に問題無く順調に目的地に向かって進む。
前回と同様に亜季ちゃんと獣魔達は狩りに勤しんでいる。
むしろこちらが本業と言っても過言ではない勢いだ(汗)
亜季ちゃん達が無慈悲に小動物を狩りまくる様子を見て、
「そちらのパーティーの弓術士の方は凄まじい腕をしていますな。
あんなに簡単に獲物を狩っている冒険者を初めて見ましたよ。
何か秘訣があるのでしょうか?」
とタント商会長が話しかけてくる。
「ははは、そうですね(汗)
まあ獣魔達と協力しながら上手くやっているみたいですよ。」
と適当に答えておく。
まさか亜季ちゃんのスキルやその他のアレコレを全部言う訳にはいかないしね(汗)
間違っても「煉獄するのが趣味なんです。」とは言えないし(汗)
「それにあの獣魔達もただの動物ではないような気がするのですが?」
「ははは(汗)、僕もよく分からないのですが、たまたまお腹を空かせて倒れていたところを助けてあげたりしたんですよ。
種族もよく分からないのです。
狼か大型の種類の犬ですかね?」
「そうでしたか。
これ程見事に獣魔を使役しているパーティーは初めて見ましたよ。
全く驚きですな。」
「ははは(汗)、うちのパーティーではああやって狩った獲物を使って獣魔達にタップリと食事をあげていますので、自分たちのご飯のためだと思って頑張っているのかもしれませんね。(汗)」
「なるほど、食べるために協力するのはある意味生き物として基本ですからな。
おっと食事の話をしていたらお腹が空いてきましたな。
ちょうど休憩用の広場に着きますので昼休憩にしましょう。」
とタントさんが指差す方向には、街道沿いの左右に草木が刈られた開けた広場がある。
既にいくつかの商隊が昼休憩を取っている。
「承知しました。
昼休憩は1時間でいいですか?」
「はい、そうしましょう。
あと、食事についてはお互いに気を使わずにということでお願いします。」
「承知しました。」
僕が後方の馬車に
「あそこの広場に入るよ!」
と号令をかけると、各馬車は街道をそれて広場に進む。
タント商会長とその他の商会スタッフが馬車を停めると、
「ここで1時間昼休憩にします。
5分前には出発準備完了でお願いします。」
と商会の皆さんとうちのメンバーに説明する。
当然ながらみな了解である。
商会の皆さんは馬車の側に座ってお弁当を食べるようだ。
まあ、行動の初日だと街からお弁当やサンドイッチを買ってこれるよね。
「じゃあ、僕達もお昼にしよう。全kし同様の役割分担でササッと作って食べようか?」
「「「「はい!」」」」「「わかりました!」」
と元気よく答えるうちの女子チームとクク・ルル達と一緒に昼ご飯の準備を開始する。
今日のメニューはサンドイッチ、アヒージョ、プチナンドックに肉の串焼きと野菜スープだ。
サンドイッチは元の世界でも人気のあった、ガブウェイ風のサンドイッチにしよう。
ワウラの街の市場でそれっぽい形の長いパンを購入できたので作ってみたくなったのだ!
串焼きとスープは女子チームに任せてメイン料理をサクサク作る。
アヒージョを煮ている間にベーコンを炒めたら、それを野菜と一緒にパンに挟んでドレッシング代わりのオリーブオイルと塩コショウとハーブを混ぜたものをかければヘルシーなサンドイッチの完成だ。
うちの女子チームは肉食に偏りがちだから野菜も食べさせないとね!
ウインナーを炒めてそれらを作り置きのナンに挟んでケチャップとマスタードをかけたらプチナンドックもできあがりだ!
うん、2つとも実に美味しそうだ!
アヒージョがグツグツといい感じで出来上がった頃には野菜スープも完成である。
肉の串焼きもジュージュー!といい音と匂いをあげながら焼けてきた。
さあ、ランチの準備は完了だ!
「さあ、みんな準備完了だ!
温かいうちに早く食べようか!
いただきます!」
「いただきます!」
とあいさつすると、女子チームと獣魔達がモリモリパクパクと食事を開始する。
クク・ルルもすっかりこの食事スタイルに慣れたようだ。
うちの女子チームと一緒に違和感なく食事を楽しんでいる。
ヤトノとクロロは馬車が動いている時は爆睡していたが、今は匂いに釣られて起き出してきた。
当然のようにパクパクと食べている。
そんな賑やかな食事風景を周囲の商隊は呆気に取られたように見ている。
特に干し肉と固いパンをかじっている冒険者達は僕たちのメニューを羨ましそうに見ているぞ。
まあ、こんなにいい匂いが漂って来たらそうなるよね(笑)
申し訳ないけど分けてあげる量はないけどね。
周囲の熱い?羨望の?視線を華麗にスルーしながらランチを終えた僕達は、チームワークで片付けを終了させると、トイレも済ませて出発の5分前には出備を完了させるのであった。
うん、今日も完璧だね!
◇◆
午後からの道中も何事も無く商隊の隊列は進む。
予想通り、先程の食事風景についてタント商会長から質問されたので、スポンサーの『8番格納庫』ブランドから試作品の魔道具の提供を受けている事を説明しておく。
たいへん羨ましがられたので、
「一部の魔道具は既に販売されていますよ。
機会があったらぜひ購入されて下さい。」
とお勧めしたら、タント商会長は
「是非とも購入したい!」
と意気込んでいた。
やはり商人にとって収納の魔道具は魅力的らしい。
うん、今日も営業活動は成功だ!
現物を見たほうが製品のアピールになるよね。
その後も順調に進む隊列を見ながらタント商会長が、
「今日は他の商隊もたくさんいるので、魔物も盗賊も出てくる可能性は低いでしょう。」
と教えてくれる。
「おお、そうなんですね。」
と答える。
まあ、不規則に現れる魔物はともかく、盗賊は人目を避けて襲って来るだろうからね。
「因みに盗賊は頻繁に現れるのですか?」
「いえ、奴らも悪知恵が働きますので、不定期に現れるのですよ。
場所を変えながらちょうど忘れた頃にやって来る感じですね。
どうやらこの街道や隣国側の街道を不規則に巡回しているようですよ。」
「警備隊による捜査はされてないんですかね?」
「当然しているようなのですが、国境を越えて行き来されると追跡も難しいようです。
それにあくまでも噂ですが、金欠の冒険者なんかに一杯奢って商隊の護衛依頼の情報を収集したり、嘘の出現情報を流して捜査を邪魔する担当もいるようです。」
「なるほど、組織的に活動しているんですね。
でも奪った商品なんかはどうやって換金しているのでしょうね?
下手に売りさばいたら足がつきそうですが?」
「そこは、その筋の販売ルートがあるようです。
闇商人を介して遠くの街や外国で売るそうですよ。
しかも闇商人は盗品の入手後からしばらく時間を空けて市場に流すことでバレにくくしているようです。」
「時間が経てば何かと言い訳できますからね。
街道でたまたま一緒になった知らない商隊から買い付けた、とかですかね?」
「そういうことですね。
なので野営広場とかで直接売り込みをかけてくる商会には気をつけてください。
彼らが勧めてくる商品は盗品の可能性がありますからね。
下手をすると買った自分が犯人の疑いをかけられる可能性がありますよ。」
「それは勘弁願いたいですね(汗)
気をつけます。
因みに盗賊が奪うのは金品だけなのですか?
あまり想像したくはないですが、女性や子供を攫うとか?」
「もちろんそういう事もしますよ。
器量のよい女性や子供は連れ去って奴隷として売却する場合もあります。
闇商人の中には奴隷契約の魔法を使える者もいて、攫った女子供を自分の奴隷にした後に転売するのです。」
「それは酷い話ですね。
でも流石に人身売買は足がつくのでは?
攫われたとはいえ、身元を調査したら分かるのではないのですか?
戸籍を調べるとか、奴隷の記録を調べるとか?」
「はい、その点についてもいろいろと悪どい手口を使うのですよ。
南にある獣人の国では、国というよりかは村とか種族単位のまとまりが今だに主流で、そもそも戸籍が無かったりするのです。
なので足がつきにくいように獣人の女性や子供を狙ったりします。
同じ理由で「東の森林地帯」に近い魔族の村から攫ったりもします。
あとは元々奴隷として登録されている者を横取りする方法ですね。
奴隷の場合、主人が何らかの理由で急に亡くなってしまった場合はその奴隷を保護した者に奴隷の所有権が移るのです。
その仕組みを悪用して奴隷の主人を殺して新しい主人になると奴隷を横取りすることができるのですよ。」
「虫唾の走る話ですね。
そいつらは人間の皮を被った悪魔ですね。」
「まさにそうなのです。
自分だけでなく他者への被害の拡散を防止する観点からも、盗賊に出会った場合は容赦なく討伐してよいとされているのですよ。」
「なるほど。
貴重な情報をご教示頂きありがとうございます。
今後の冒険者勤務に役立ちそうなので、仲間達とも共有しておきますよ。」
「お役に立てたなら何よりです。」
うん、あまりいい気分ではないが、貴重な話を聞けて良かったよ。
これでもし盗賊と遭遇しても、対処で悩むことは無いだろう。
自分達が殺される前に倒す、これ以上不幸な人が増えないようにその場で討伐する、というのがこの世界での正しい対処だね。
今日の夕食後にでも皆に話しておこうかな。
◆◇
その後も商隊の隊列は無事に進み、なんと何事もなく本日の野営地に到着してしまった!
今まで数々のフラグをへし折りながら活動してきた僕にとっては奇跡的な瞬間だったよ。
うちの女子チームも喜んでいる。
楓ちゃんが
「こういう時は・・」
と何か言い出しそうになっていたが、亜季ちゃんとアカネちゃんに全力で口を塞がれていた。
うん、新たなフラグの屹立を未然に防止してくれてありがとう!
「ではみんな、野営の準備だ!
前回と同様の役割分担でお願いするね。」
「「「「はい!」」」」「「了解です!」」
さあ、今日の夕食のメニューは何にしようかな?
亜希ちゃんがたくさん獲物を狩っていたから、美味しい肉料理を作ってくれっておねだりされそうだよね(汗)
◇◆
タク達が今日の野営地に到着する少し前に、1台の乗り合い馬車が王都の中央広場に到着した。
「ふう、やっとセントラル王国の王都に到着したよ。
結構遠かったな・・。
馬車に乗りすぎてお尻が痛い・・(汗)」
と乗り合い馬車から降りた若い女が独りごちる。
「御者さん、悪いけど依頼完了のサインをもらえるかな?」
とポケットから書類を取り出して乗り合い馬車の御者に手渡す。
「ああ、もちろんだとも。
護衛お疲れさん。助かったよ。
高速乗り合い馬車の護衛はあまり人気がなくてね。
また機会があったらよろしくな。」
と、サインが済んだ書類を若い女に手渡しながら御者の男は若い女をねぎらう。
「ああ、こちらこそありがとうね。
王都に向かう高速乗り合い馬車に上手く同乗できて助かったよ。
またよろしくね。」
と、ほんの少しだけ愛想よく答えると、若い女はその場を立ち去る。
その若い女が目深に被ったローブのフードからは金髪と長い耳の先がチラチラとのぞく。
最低限の荷物が入った肩掛けカバンと弓矢のセットを背負ったその女は、
「早く聖獣様のお仔の情報を集めなければ。
お仔様が相手の男を見つけて森に連れて行く前に見つけないと・・。
やっぱり情報収集するなら冒険者ギルドかな・・。
あんまり行きたくないけどね。
なんかエルフを見ると男どもがやたらと声をかけて来て面倒なんだよね。
しかもみんな汗臭いし・・。
だけど路銀も心許ないからしばらくは情報収集と資金調達を兼ねてこの街に滞在かな?」
と、ため息をつきながら道行く人に冒険者ギルドの行き先を尋ねる・・。
「精霊の森」のエルフ族の王女であるリリーは、森を出た後に可能な限り速くセントラル王国にたどりつける手段をいろいろと探したのだが、その答えの1つが「高速乗り合い馬車の護衛」であった。
これはとにかく速さを追求した乗り合い馬車であり、セントラル王国の王都とその周囲の4つの国の首都を結ぶ主要な街道に設置された馬車乗り場で次々と馬と御者を交換しながら高速でひた走る、というサービスである。
休憩は馬と御者の交換時のみという極めて厳しい行程であり、御者と馬をたくさん使う分だけ運賃も高価であるが、とにかく速さを求める商人や旅人には人気のサービスであり、主要な街道の大きな街の間を1日あたり1便だけ走っている。
しかも日の出から日の入り近くまで走りっぱなしという強行軍の馬車なのだ。
ちなみに、タク達はこの高速乗り合い馬車とは行動のタイミングの関係上すれ違ったことはない。
奇しくも、このサービスはかつてのギラギラした召喚勇者達(そのうちの1人がリリーの姉のミミーを連れ去った。)が使った「金に糸目をつけない移動方法」を参考にして始まったのであるが、当然ながら妹のリリーはそれを知る由もない。
この高速乗り合い馬車の護衛になればセントラル王国の王都まで最速かつ無料でたどりつけると知ったリリーは、「精霊の森」から出て隣国の聖アンネ神聖国で冒険者登録した後に可能な限り速くEランクにランクアップして、この護衛の職にありついたのであった。
ちなみにEランクになれたのは彼女の薬草採取に関する知識や弓の腕のおかげである。
この点は流石はエルフである。
しかし、彼女の本当の苦労は高速乗り合い馬車の護衛になってからであった。
もともとスラッとした体型のエルフは人族に比べてお尻の肉が薄い。
これだけでも人族の護衛に比べて乗車中のお尻へのダメージが大きい・・。
加えてリリーは精霊魔法が不得意なため、他のエルフのように木や風の精霊魔法を活用して柔らかいクッション代わりになるようなものを作ることができない。
唯一普通程度に使える土魔法では彼女のお尻を保護する何かを作ることはできなかったのである・・。
仕方なく藁束をずた袋で包んだクッション(仮)を相棒にして、高速でひた走る馬車の衝撃と戦い続けたのであった。
今のリリーにとっては王都にたどり着けたことよりも、馬車の振動から解放されたことのほうが喜びが大きいのであった・・。
果たして彼女は聖獣様のお仔に繋がる情報を得ることはできるのだろうか?
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