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第118話 勇者召喚の余波(その3)

新年明けましておめでとうございます。

本年も拙作を応援していただけると幸いです。

よろしくお願いいたします。

 時を遡ること20日ほど前、セントラル王国から見て北西にある聖アンネ神聖国のさらに北側にある「精霊の森」と言われる大森林の奥深く、通称「世界樹」と言われる大木の周囲にある集落では、過去に数例しかない出来事に族長以下の関係者が狼狽していたのであった・・。


 この集落に住むのは人族ではなく、耳の長いスラッとした亜人、いわゆるエルフと呼ばれる民族である。


 タク達が見ればきっと「おお!異世界定番!」と大喜びしたであろう。


 ちなみに異世界ものの定番の例に漏れず、男女とも美形である。

 ただし、女性はスラッとしておりあまり起伏は無い・・。

 この点はタクの好みではないようであるが。

 まあ、それはともかく・・。



「リリーを呼べ。」


 と、大木の直近にある大きな木造の屋敷の中に座るエルフの男性、エルフ族の王兼ねて族長にして「精霊の森」の代表、他国からは国家元首と同等の扱いを受けている初老の男性は侍女に指示をする。


 うやうやしく返事をした侍女が族長の部屋を出てから5分ほどして、若いエルフの女性が族長の部屋に入ってくる。


「父上、お呼びでしょうか?」


「うむ、リリーよ、大事な話がある。そこに座るがよい。」


「はい、なんでしょうか?」


 と、リリーと呼ばれた若いエルフ女性は族長とともに応接セットのような椅子に向かい合わせで座る。


「リリーよ、端的に言うぞ。聖獣様のお仔が旅立った。」


「な、なんと!聖獣様のお仔が旅立つなんて、ここ数百年無かった話では!?」


「そのとおりじゃ。この儂ですら言い伝えでしか聞いておらん。

 ただ、古くからの言い伝えによれば、聖獣様のお仔が連れてくる男は王族の王女の婿になり、生まれた子供を次代の王にすることとされている。

 それがエルフ族の発展にとって必要不可欠と言われておる。

 ちなみに、いまこの森にいる王族の娘はそなた1人のみ。

 この意味はわかるな?」


「父上・・。おっしゃりたいことはわかりますが、たとえ古くからの言い伝えとはいえ、どこの誰とも知らない男といきなり結婚などと言われても困ります。

 それに王女と結婚すると言うのであれば私より姉上のほうがふさわしいでしょう。

 まずは姉上を探し出して連れ戻すべきでは?」


「あれの、ミミーの行方は引き続き探しておるが、30年前に例の人族の集団と一緒に「東の森林地帯」の奥に消え去って以来、足取りが消えておる・・。

 もはやどこにいるのかさっぱり見当もつかぬのじゃ・・。」


 と族長は深いため息をつく。


 そうなのだ。父上の言うとおり、姉上、王家の第1王女であるミミーは30年程前に突然現れた人族の集団のうちの1人の男と恋に落ちて一緒について行ってしまったのだ!

 いわゆる駆け落ちというやつである。


 姉上は各種の精霊の加護を得て火、水、風、木、土、光の精霊魔法を自由自在に操ることができ、かつ、エルフの中でも際立つ美貌を持つ典型的な王族のエリートエルフで、父上の後を継いでエルフ族の王として次代を担うことを嘱望されていた。


 ところが、ある日突然現れた人族の男に一目惚れされてしまい、来る日も来る日も愛の告白を受けているうちについにプロポーズを受け入れてしまったのだ。


 姉上はエリートエルフではあったが、精霊の森の中しか知らない箱入り娘であったため、恋愛の戦闘力は極めて低く、人族の男の連日連夜の愛の矢による攻勢には抗えなかったらしい。


 とは言うものの、その人族の男は聖獣様が認めなかったので王族の婿にはなれなかったのだ。

 聖獣様曰く、「ちゃらいからだめ」とのことだったらしい。

 「ちゃらい」がどういう意味かは教えてくれなかったそうだけど。


 そのため、姉上は王族の地位を捨ててその人族の男についていくことを決心したらしい。


 人族の集団とともにこつ然と姿を消した姉上の部屋には、「あとはリリーに任せたわ。」との書き置きが残されていた。

 

 それってひどくない? 当時は私はまだ10歳の子供だったんですけど!

 

 あ、ちなみにエルフ族は長寿なので今の私の年齢は人族に換算すれば15歳くらいだからね!


 ま、それはともかく、私と言えば姉上とは正反対。

 土魔法だけが唯一人並みで、その他の各種精霊魔法の威力は生活魔法レベルであり、他のエルフよりかなり劣るのだ。

 唯一、顔とスタイルだけが王家の血筋のおかげで他のエルフより見栄えが良いと言ったところ。

 総合的にはエルフとしては残念なレベルなのだ。


 はっきり言って私よりいとこ達の方がエルフとしての能力は高い。

 私なんてお世辞にもエルフ族の次代を担う存在としてふさわしいとは言えないわ。

 私が王家の後を継ぐなんて、この森のエルフ達も納得しないでしょうしね。 

 ここはなんとか結婚フラグを回避しなくては!


「父上、状況はわかりました。

 しかしながら父上もご承知のとおり、私が王家の跡を継ぐのは適当ではありません。

 エルフとしての能力で言えば姉上やいとこ達の方が格段に上ですからね。

 聖獣様のお仔が連れてくる男性をお断りする方法はないのでしょうか?」


「ふむ・・。聖獣様のお仔がお相手を連れてきてしまうと王家の娘であるそなたが婿にとる以外の選択肢はない。

 どうしても・・、と言うのであれば・・・」


「何か方法があるのですか?」


「うむ、聖獣様のお仔がお相手をこの「精霊の森」に連れてくるのを止めるしかないな。

 聖獣様のお仔を見つけ出し、お相手を「精霊の森」に連れていかないようにお願いするしかあるまい。」


 ・・・。

 王族たる父上がこんなにあっさりと抜け道を提示するなんて、父上も私が王家を継ぐことは難しいと考えているのね。

 それはそれで残念だけど、エルフ族全体のことを考えればやむを得ない決断だわ。

 逆の立場なら私もそう思うでしょうし。


「わかりました。

 では早速聖獣様のお仔を追って旅立ちます。

 ところで、聖獣様のお仔の行き先に心当たりはありますでしょうか?」


「うむ、言い伝えでは聖獣様のお仔が連れて来るのは黒目・黒髪の人族だとされておる。

 いわゆる伝説にある勇者タケル様と同じような見た目であるな。

 そのような者達はこの世界には基本的にはおらぬ。

 唯一あるとすれば、セントラル王国が定期的に実施していると言われている勇者召喚によってこの世界にやって来た異界の者達であろう。

 よって、セントラル王国の王都へ行くのが最も近道であろうな。」


「は、承知しました。

 それでは早速セントラル王国に向かって旅立ちます。」


「うむ、気をつけて行くのじゃ。

 そなたは精霊魔法があれな分だけ剣術と弓術はよく訓練したから冒険者として活動すれば道中の路銀の確保も容易であろう。」


「お任せください。

 自分の食い扶持くらいは稼げますから大丈夫ですよ。」


 そうなのだ。

 私は王家の跡を継げない場合のことも考えて、1人でも生きていけるように剣術と弓術を頑張って訓練したのだ。

 森の外への交易を担当しているエルフのお姉さんからは、「リリーなら外の世界でも冒険者としてやっていけるよ。」と言われる程度には頑張って腕をあげたのだ。


「うむ、ちなみに聖獣様のお仔は若い狼くらいの大きさだ。

 毛の色は聖獣様と同じ白色である。

 人族が言うところの白魔狼の子供に似ておるから、見つけるのはそう難しくはないであろう。」


「わかりました。

 それでは早速行って参ります。」


 と父の部屋を辞去する。


 さあ、行くと決まったら早く旅立たないといけないわね。

 聖獣様のお仔はまだ小さいとはいっても聖獣フェンリルの仔だからね。

 風魔法を使って飛ぶように駆けていったかもしれないし。


 まずはこの「精霊の森」を出て、近くの人族の街で冒険者登録かしら?


 まあ、きっかけはともかく、この森を出るのは楽しみだわ。

 こんな機会でもないと森から出られなかったかもしれないしね。


 せっかくだから楽しんで旅をしないとね!


◇◆


 時と場所が変わってここは「東の森林地帯」の奥にある大きな社。

 いわゆる「魔王の館」である。


「魔王様、お帰りなさいませ。」


「うむ、出迎えご苦労である、左大臣よ。」


「はは、有り難きお言葉。

 して、セントラル王国の様子はいかがでしたか?」


「うむ、一言で言えば大いに楽しんで来たのじゃ。

 今回の勇者召喚は大当たりだったようじゃ。

 いろいろと理由はあるが、まずは服じゃな。

 召喚された勇者がデザインした服がなかなかいい感じでな。

 我の分と側仕えの分まで大量に購入してきたのじゃ。

 我の普段着と側仕えの制服は本日以降、これにするぞえ。」


 と収納魔法から大量の服を取り出す。


「これはどういった服なのですか?」


「ハイカラさんスタイルと言うらしいぞ。

 羽織に短めの袴を履いて、足元は膝下までのブーツを履くらしい。

 まあ、部屋の中ではタイツ?という長めの足袋を履くとのことじゃ。

 細部は一緒に行った側仕えがよく分かっておる。」


「はは、では早速準備させます。」


「うむ。あと召喚勇者が作ったであろう魔道具も購入してきたぞ。」


「ほほう、どのような魔道具でしょうか?」


「うむ、これらじゃ。」


 と言いながら魔王は購入してきた魔道具を机の上に並べる。


「「汚れ除去」と「浄化」の魔法が付与されたバッジの魔道具、「点火」「点灯」「放水」の魔道具、それに収納の魔道具じゃ。

 どれも我らのように魔法を使える者から見れば大したものではないが、人族の世界では今まで見たことのない物じゃ。

 魔法を使えない者にしてみれば喉から手が出るほど欲しいであろう。」


「確かにそうですな。

 生活魔法や収納魔法が使えない人族の冒険者や商人にしてみれば欲しくてたまらないでしょうな。」


「うむ。あと格闘技大会もなかなか面白かったのじゃ。」


「強き者が出場したのですか?」


「いや、強さで言えばはっきり言ってたいしたことはない。

 中には素人の喧嘩に毛が生えた程度の者もおった。

 ただ、試合の組み合わせや演出が上手いのじゃ。

 同じくらいのレベルの者を対戦させてその勝者には賞金と賞品の魔道具を贈呈する。

 各試合には賞金を提供することで商会が広告を出して商会の名を売る事ができる。

 それに試合の合間には魔道具の宣伝をするのじゃ。

 試合を盛り上げて見世物としての価値を高めると同時に観客に対して商品の宣伝もする。

 賞金を出す商会は観客に名を広める事ができる。

 観客は賞品や宣伝を見て同じ商品を買い求める。

 まさに皆が得をする仕組みなのじゃ。

 この仕組みを取り入れた召喚勇者はなかなかのやり手じゃな。」


「それはすごいですな。

 どの勇者がそれを考えたのかはわかりましたか?」


「おそらく「松戸屋」を名乗っていた若い男であろう。

 鑑定したら「交渉人」という初めて聞くスキルを持っておった。

 どんなスキルかはわからんが、口が上手いことは間違いないじゃろう。

 格闘技大会の司会もやっておったでな。」


「なるほど。魔道具は誰が作ったのでしょうか?

 確か錬金術士の勇者もいたと思いますがその者でしょうか?

 それとも例の「お手伝い」の勇者でしょうか?」


「うむ、間違いなく後者じゃな。

 錬金術士が作ったのであれば、魔導具に魔法陣が刻まれているはすじゃが、これらの魔道具には魔法陣など一つも見当たらん。」


「確かにそうですな。

 ですが、かの「お手伝い」の勇者はやけに器用でいろいろと不思議なところはあるものの、スキルとしては「他のものより少しだけ要領よく仕事を覚えることができる。」程度のものだったはず。

 スキルの内容と魔道具の作成の関係性が今ひとつ説明できないのでは?」


「うむ、我も初めはそう思ったのじゃ。

 なので我の持つ「鑑定(超級)」でこそっと詳細な鑑定をしてみたら、なんと驚きの結果だったのじゃ?」


「鑑定結果はどうだったのですか?」


「うむ。

 実はスキルの説明には続きがあってな。

 それによると、自分が見て、触れて、感じて、聞いて、あるいは自分に対して行使された他者のスキルの初級版または簡易版をサブスキルとして取得することができるらしいのじゃ。

 しかも、取得したサブスキルは、訓練あるいは使い込むことによりオリジナルのレベルまで向上できるらしい。

 まあ、スキルの向上のスピードは使用頻度及びスキルの種類によるらしいがな。」


「なんと!それはどんなスキルでも習得できるに等しいではありませんか?」


「そうじゃ。事実、「お手伝い」の勇者は既に多くのスキルを身につけておった。

 もちろん、魔法も魔道具作成もな。

 かの勇者が魔道具を作成しておることは間違いない。

 あ、それと「お手伝い」の勇者も格闘技大会に出場しておったぞ。

 闇魔法を利用した入れ墨のようなものを体中に描いて大歓声を浴びておったわ。

 試合も鮮やかに勝利してなかなかの盛り上げ上手であったぞ。」


「なるほど。

 確かにただの「お手伝い」ではないようですな。

 して今後の対応はいかがしましょうか?」


「特にないぞ。

 強いて言うなら、かの勇者とその仲間達がこの世界中を旅するようにうまく誘導してやればそれでよい。

 それだけでこの世界の発展に貢献するであろうからな。」


「承知しました。」


「ただ、」


「ただ?」


「かの王国、セントラル王国の王家の動きには気をつけるのじゃ。

 奴らもバカではないからな。

 かの勇者や交渉人の勇者の有用性には気づいておるであろう。

 かの王家が今回召喚された勇者を囲い込んで自分たちを利することのないように見張っておくのじゃ。

 奴らは何故自分たちが勇者召喚の手法を勇者タケルから授けられたのかを忘れている節がある。

 時の経過とともに、この世界の発展のためではなく自分たちの王国のためだけに与えられた権利だと誤解しておるようじゃ。」


「はっ、承知しました。」


「うむ、せっかく大当たりを引いたのじゃ。

 勇者の恩恵がこの世界中に行き渡るようにするのが我らの役目じゃからな。

 下がってよいぞ。」


「ははっ!」


 とうやうやしく返事をすると、左大臣は部屋を去っていく。


 左大臣と入れ替わりに入って来た側仕えからお茶を受け取るとそれを一口飲んでふっと一息つく。


 うむ、「お手伝い」の勇者タクか。

 なかなか楽しみな男なのじゃ。


 しかも黒蛇族の娘をすでに従えているところもまた面白い。

 

 あやつを、勇者タケルを思い出させるのじゃ。

 

 このまま無事に世界を旅して我のところにたどり着いて欲しいものじゃ。


 その日を楽しみにしておこうではないか。


◆◇


 またまた時と場所がかわって、ここはセントラル王国のクレア王女の執務室。 


 クレア王女は勇者のお世話係の文官から報告を受けている。


「王女殿下、勇者達の件で報告に参りました。」


「うむ、申せ。

 何かあったのか?」


「は、例の「お手伝い」の勇者ですが、パーティーメンバーの勇者達と共に訓練と称して商隊の護衛の仕事を受けて旅立ったとのことです。」


「ふむ。まあ、ありえない話ではないな。

 してどこに行ったのじゃ。

 また隣のレッドウイングの街にでも行ったのか?」


「いえ、今回はクリストファー王国との国境に近いワウラの街まで2泊3日ででかけたそうです。」


「む、それは往復の護衛依頼なのか?」


「いえ、今回は片道の依頼になります。

 しかもその後の行動については何も情報がありません。

 冒険者ギルドにも何も言付けを残していないそうです。」


「なんと!もしかしてこっそりと出ていったのではないか?

 奴らはいつ出発したのじゃ?」


「はっ、昨日の朝に出かけたようです。」


「出発前に変わった様子はなかったのか?」


「はっ、関係の深かった工房や仲の良い聖女(見習い)の勇者や治癒士(見習い)の勇者に挨拶をしていたようです。」


「うむ、それは出ていった可能性が高いのじゃ。

 ワウラの街から国境を超えて隣国に行ってしまうと戻ってこないかもしれぬ。

 あの「お手伝い」の勇者はどうも能力を隠しておる気がするのじゃ。

 このまま他国に逃げられては我が国にとって損失になる。 

 今すぐ奴らを追いかけて、「説得」して連れ戻すのじゃ。」


「ははっ、承知しました!」


 と言うと男性文官はスッといなくなる。

 

 どうやら暗部モードを発動して速やかに行動に移ったようである。


 一人残されたクレア王女は、


「「お手伝い」の勇者か・・。

 どうも奴が「当たり」のような気がしてならないのじゃ。

 奴はきっと能力を隠しておる。

 他国に取られる前に連れ戻さねばな。

 我が国の発展に役立ってもらわねば召喚した意味がないのじゃ・・。」


 と独りごちる。



 クレア王女に危ない意味でロックオンされてしまったタクの運命や如何に??


最後までご覧いただきありがとうございました。

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