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第117話 トミーの慟哭・・

いつもご覧いただきありがとうございます。


「タクさん、これなんてどうですか?

 小さな商隊の護衛依頼ですよ。

 明後日にサゲオに向けて出発で、行程は1泊2日。

 Dランクパーティー以下で人数は5〜7名程度を募集とのことです。

 成功報酬は一人あたり36,000エソです。

 私達にピッタリじゃないですか?」


 と、ククとルルが依頼ボードの張り紙の一部を指差す。


 そこには確かにクク・ルルが言う通りの内容が掲示されていた。

 馬車3台の商隊の護衛らしい。

 

 これならうちのパーティーとクク・ルルだけで受注できるからちょうどいいかもね。


「いいんじゃないかい?

 『炎狼小隊フレイムウルブス』と『新緑の精霊』で合同受注できそうな内容だからね。

 皆もこれでいいかな?」


「そうですね。規模的にも報酬的にも問題ないと思います。

 これにしておきましょうか?」


 とチャロンも同意する。

 まあ、チャロンがOKなら大丈夫だろう。

 女子チームもウンウンと頷いている。


「じゃあ、これをカウンターに持って行くことにしようか?」


「「「「はい!」」」」「「了解です!」」


 と言ったところで「◯◯番の番号札をお持ちの方〜」と受付カウンターから声がかかる。


「お、ちょうど査定も終わったようだよ。

 依頼の紙を持ってカウンターに行こうか?」


 と皆で受付に向かう。


 買い取り価格が楽しみだね!


◆◇


「『炎狼小隊フレイムウルブス』と『新緑の精霊』の皆様ですね。

 大変お待たせしました。

 こちらが買取額となります。」


 と言いながら受付のお姉さんが提示してきた買い取りの内訳書には次のとおり記載されてあった。


・「3匹の若オーク」討伐報酬:500,000エソ

・同上、素材買い取り:200,000エソ✕3=600,000エソ

・バッドウルフ(大)買取:200,000エソ

・バッドウルフ(中〜小)買取:100,000エソ✕22=2,200,000エソ

・合計:3,500,000エソ


 おお、なかなかの買取額だね。

 チャロンと女子校生チームもウンウンと頷いている。

 

 クク・ルルは驚きのあまり目を回しているが。


 この反応の違いは僕達が高額買取に慣れすぎてしまった、というところだろうか。

 

 きっとクク・ルルの反応が正常なんだろうね。



「この買取額でよろしいでしょうか?」


 と受付のお姉さんが聞いてきたので、皆と目と目で合図して問題ない旨を確認すると、


「問題ありません。支払いは7等分でお願いします。」 


「承知しました。」


 と言うと、受付のお姉さんは50万エソずつ、小金貨5枚ずつが入った小袋を7つカウンターに乗せる。


「どうもありがとうございました。」


 とお礼を述べながらそれぞれが受け取る。


 ククとルルの報酬を受け取る手が震えていたのは見なかったことにしよう。

 きっとこんなに高額な買取額を手にしたことが無いに違いない。


「あと、依頼を受ける手続きをお願いしてもいいですか?」


 と先ほど選んできた護衛依頼の紙を差し出す。


「ええ、もちろんですよ。

 実力のあるパーティーに護衛依頼を受けていただけるとありがたいですからね。」


「実力のあるパーティーですか?」


「ええ、タクさん達のことですよ。

 本日の買い取りの成果を軽々とあげてくる冒険者パーティーは珍しいですからね。

 少なくともC級、普通はB級パーティーじゃないとバッドウルフや二つ名付きのオークを倒すのは困難なのですよ。」


「そうなんですね(汗)」


「まあ、各パーティーの秘密には触れませんが、依頼主には実力のあるパーティーだとお伝えしておきます。」


「ご配慮ありがとうございます。

 依頼当日の集合場所と時間はわかりますか?」


「はい、荷捌き広場の荷積場側に朝の7時半です。

 タント商会のタント商会長が依頼主ですよ。」


「わかりました。明後日の朝、7時半にタント商会長と待ち合わせですね。」


「あと、今回の『3匹の若オーク』討伐でかなり評価がアップしていますから、このまま順調に依頼をこなしていけばC級へのランクアップも近いですよ。」


「おお、そうなんですね、情報ありがとうございます!」


 と次の仕事の予定と自分たちの情報を確認すると、僕達は受付カウンターを離れる。


 ホールの情報掲示板を見てみたが、サゲオの街方面の街道には特に危ない魔物は出ていないようだ。

 うん、これなら安心だね。

 楓ちゃんのフラグメイキングだけ注意しておけば問題ないだろう。


「じゃあ、みんな宿に戻ろうか?

 今日は疲れただろうから、早くご飯をたべて早く休もう!」


「ですね!」「お腹が空きました!」「夕食が楽しみです!」


 と女子高生3人組が間髪入れずに答える。


「ははは、そんな事を言われると僕もお腹が空いちゃったよ(笑)。

 早く宿に戻ろう!」


 と言って皆で冒険者ギルドの入口ドアをくぐると、ギルドの外で男女が言い争う声が聞こえる。


 むむ、トラブルなのか?、はたまた、痴話喧嘩なのか?

 

 しかしこの声は何処かで聞いたことがあるぞ?、と思いながら騒音の発生源の方を確認すると、そこには喚き散らすトミーとそれを嗜めるナンシーさんとモニカさんの姿があった。


 やっぱり揉めていたんだね・・。


◇◆


『タク先輩、あれどうしますか?』


 と亜季ちゃんが念話で話しかけてくる。


『他所のパーティーの問題に首を突っ込みたくないんだよね・・。

 気づかないふりをして遠ざかろう。

 君子危うきに近寄らず、が一番だね。』


 と答えて、冒険者ギルドから離れようとしたところで、


「おい!、『炎狼小隊フレイムウルブス』のタク!

 お前がうちのナンシーとモニカを誑かしたのか!

 この2人が『赤き剣撃』を抜けるって言ってやがるのはお前のせいだな!

 俺のパーティーを抜けるなんて許せねえ!」


 とトミーが盛大に噛みついてきた。


 内心としては無視したいところだが、どうやら認識の相違があるようだ。

 僕は決して誑かしたり唆したりしていないぞ。


 ここは交渉人スキルを駆使してきっちりと説明しますかね。

 周囲で野次馬している人達に痴話喧嘩の原因と思われても嫌だからね(汗)



 僕達はトミー達に近づくと、


「トミー、君が何に熱くなっているかは知らないが、僕はナンシーさん達を誑かしたりしていない、ということだけは明確に回答しておこう。

 僕はただナンシーさん達の今後のライフプランの相談に乗っただけだ。」


 とありのままの事実を伝える。


「だがお前と話した後でこの2人がパーティーを抜けるって言い出したんだ!

 お前以外に原因はいないだろう!」


 僕は「はぁ〜」とため息をつきながら、


「誰の話を聞こうが、どのような決断をしようが、それは彼女達の自由じゃないか。

 それにパーティーを組むも組まないも、それぞれの冒険者の自由だろう。

 仮に彼女達が今のパーティーを抜けたいと言うのであれば、誰にもそれを止める権利はないはずだ。

 たとえパーティーのリーダーである君であってもだ。

 彼女たちは君の所有物ではない。

 正当な理由無く彼女たちを束縛するのはやめ給え。

 異論があるならこんなところで喚き散らさずに冒険者ギルドに訴えればよい。

 ギルドのルールに則って適切な裁定がくだされるだろう。」


 と至極まっとうに諭すように答える。


 トミーは自分の理屈に正当性が無いことは理解しているのか「くっ!」と呻きながら、


「うるさい!お前さえいなければ護衛の仕事も継続できたし、ナンシー達もパーティーを離れるなんて言い出さなかったんだ!」


 とおっしゃられる。


 ああ、もう感情的になってダメダメだね。


「大切なことを忘れているようだが、僕達のパーティーがいなければ君はバッドウルフの群れに食い殺されていたか、「3匹の若オーク」達に殴り殺されていたと思うぞ。

 そうなっていれば今後の護衛どころの話じゃなかったはずだ。

 僕達は君に感謝されることはあっても文句を言われる筋合いはない。

 そういう自己中心的な態度がパーティーメンバーが自分から離れて行く原因になっていることをよく自覚するべきだぞ。

 パーティーのリーダーたるもの自己の人格を高める努力をしないとメンバーはついてこないと思うぞ。」


 と再び諭すように答える。


 ナンシーさん達やレオンまで、はたまた、周囲で野次馬をしている冒険者達までウンウンと頷いている。 

 どうやらトミーがややこしい奴というのはワウラの冒険者ギルドでも共通認識のようだ。


「とにかく、君のパーティーの問題について僕達を原因者にするのはやめてくれ給え。

 これ以上僕達に絡んでくるようなら業務妨害で冒険者ギルドに訴えるぞ。

 今後も冒険者として活動していくなら適切な行動を取ることをお勧めする。

 では失礼するよ。」


 と言って女子チームを連れてその場を立ち去る。


 トミーは何も言い返せないのか、「ぐぬぬ〜」と唸るだけである。


 別れ際にナンシーさん達がニヤリとしていたので対応としては間違いなかったのだろう。

 後で宿で会えたらその後の話を聞いておこうかな。


 それにしてもトミーといい、ズンダといい、この世界に来てから冒険者に粘着されることが多いのは気の所為だろうか?


 やはり日本人的な黒目、黒髪、童顔が舐められる原因なのかな?

 

 よくある異世界小説みたいにミスリルの鎧でも着て威圧感を出したほうがいいのだろうか?


 チャロン達と要相談だね!


◆◇


 なんやかんやあったが、ようやく『満月亭』に戻ってきた僕達は、部屋で少し休んだ後、夕食の時間の開始と同時に食堂で夕食をいただいている。


 本日のメニューは、ビッグバードの胸肉の照り焼き、サラダ、クリームシチュー、フランスパンっぽい固めのパン、といったこちらの世界の標準的なメニューだ。

 

 どれも家庭的な優しい味わいでとても美味しい。

 いくらでも食べられそうだ。


 現に女子チームはシチューをおかわりしてバクバクと食べている。

 線の細い美少女達がモリモリバクバクたべる様子に給仕をしてくれる宿の女将さんも目を丸くして驚いている。


 ちなみにナンシーさん達も夕食までに戻ってきて宿にチェックインできたので、今は一緒に食事中だ。


「それでパーティーを抜ける件は上手くいきましたか?」


 とナンシーさんに尋ねる。


「ああ、結果としてはパーティー脱退と新パーティー結成の手続きは上手くいったよ。

 ただ、トミーの奴が最後までグダグダ言っていたので無視して手続きしたんだけどね。

 ギルドとしてはパーティーを組むも組まないも冒険者の自由っていう方針だから、淡々と手続きをして終わりさ。

 あたいらは今日からCランクパーティーの『剣姫の祈り』ってわけさ。」


「それは良かったですね。

 ではトミーはレオンさんと2人で『赤き剣撃』を続けるのですか?」


「いや、レオンの奴もパーティーを抜けたよ。

 奴はもともと冒険者として上を目指す野心も無かったし、トミーと違って無駄遣いせずにしっかり貯金もしていたからね。

 これを機にソロで冒険者をしながらセカンドキャリアを探すって言ってたよ。

 今までの護衛経験の伝手を活かして奴の田舎の農産物を商会に売り込むような仕事をしたいらしいよ。」


「ふむふむ、それもいいですね。

 農産物を適正価格で商会に卸す仲買いみたいな仕事ですね。

 交渉事に慣れていない生産者にとってはありがたい話かもしれませんね。」


「そうなんだよ。奴は無口だけど頭はいいし、誠実だからな。

 トミーと違って護衛発注元の商会長達からの信用は得ていたからな。」


「なるほど。ちなみにトミーはどうするんですかね?」


「さあね?

 まあ、今夜は安宿に泊まってギルドの酒場で安酒でも飲んで管を巻いているんじゃないかな?

 奴は典型的なその日暮らしの冒険者が格好いいと思って今まで過ごしてきたからね。

 仲間もいない、貯金も無いとなれば明日からゴブリンの駆除か薬草採取の仕事でもするしかないだろうね。あるいは他所の街に流れていくか。

 この街の冒険者は奴の悪評は知っているからね。

 一緒にパーティーを組んで仕事しようという冒険者はいないだろうね。」


「なるほど、よくわかりました。

 ま、そんなことより、今日は『剣姫の祈り』の結成記念日ですからね。

 僕が一杯奢りますから景気よく飲んでください!」


 と言って、女将さんに人数分のエールを注文する。


「お!さすがはタクだな! 女心が分かっているぜ!」

「本当だな!やっぱりハーレムパーティーのリーダーはちがうな!

 いろいろやりまくってるだけあるぜ!」


 とナンシーさんとモニカさんに誂われる。


 いや、いろいろやってることは否定しませんが、ハーレムパーティーじゃないですよ!

 特にククとルルはただの同行者ですからね!


 その後、エールで乾杯した僕達は『剣姫の祈り』の門出を祝して大いに飲み食いするのであった。

 ちょっと出費が嵩んだけど、こういうのもたまには冒険者らしくていいよね! 

 「3匹の若オーク」のおかげで今夜の飲み代くらいでは僕の財布はびくともしないのさ!


 ちなみにナンシーさんが僕が描いた『剣姫の祈り』のイラストを披露したことで、エールで酔いが回った亜季ちゃんのタトゥーを入れたい衝動が高まってしまい、それを宥めるのに苦労したのであった。


 もしかして亜季ちゃんって酒癖が悪い娘なのかい??

 気をつけないといけないね(汗)



◇◆


「ふう、今夜はたくさん食べたね〜。」


「本当ですね!でもとても美味しかったです!」


「私もたくさん食べました!」


 と部屋に戻って来てからチャロンとヤトノとベッドに座って一息つく。

 

 ヤトノは白蛇モードから人の姿に戻ってリラックスしている。


「とりあえず護衛も無事に終わってワウラの街までたどりつけてよかったね。

 あとは無事に国境を超えれば一段落ってところかな。」


「はい。ワウラから王都に戻らないことがバレてしまうと王城からの追っ手に止められてしまう可能性もありますからね。

 明後日からの護衛を受注できたのは良かったです。

 商隊と一緒に行動していたほうが目立たないですからね。」


「それもそうだね。明日はいろいろと準備をして明後日からの護衛に備えよう。

 それも大事だけど・・、とりあえず今夜はチャロンとヤトノのご奉仕が必要かな?」


「はい・・、タクさん。頑張ってご奉仕しますね・・。」


「ご主人さま、私も頑張りますよ!」


「じゃあ、さっそくお風呂に入ろうか?」


「はい、準備をしてきますね・・。」


 と恥ずかしながらも尻尾を振りながらいそいそとお風呂の支度をするチャロンの後ろ姿を見るだけで、僕の僕は既にワイルドトランスフォームMAXである。


 その後のお風呂とベッドでの3日ぶりのチャロンのご奉仕は激しかったとだけ言っておこう。


 チャロンが燃え尽きたらヤトノと入れ替わってと、真夜中すぎまでご奉仕タイムは続くのであった。


 うん、明日を休みにして正解だったよ。



 ベッドで灰になるまで燃え尽きて溶け切った僕達は泥のように眠りにつくのであった。


 おやすみなさい、異世界・・。


最後までご覧いただきありがとうございました。

今年最後の投稿になります。

2023年も応援いただきありがとうございました。

皆様良いお年をお迎えください。

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