第110話 戦いのあとは美味しいご飯
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ボス狼を倒したあと、スノーを介して手下のバッドウルフ達と交渉したところ、まだ動ける個体は怪我した脚を引きずって森の中へと逃げ帰っていった。
流石に無駄に死にたくはなかったらしい。
ふう、これで護衛は成功だね。
「みんな、よくやったぞ!敵は退散した!
死んだ個体はとりあえず回収しよう。
このままだと血の匂いで他の魔物を引き寄せてしまうからね。」
と言うと、皆で手分けをしてバッドウルフの生死を確認しながら僕のアイテムボックスに収納していく。
なお、まだ虫の息で生きている個体もいたが『赤き剣撃』のトミー以外のメンバーが止めを刺す役を手伝ってくれた。
バッドウルフ達相手に何もできなかったのでそれぐらいは手伝わせて欲しいと申し入れがあったから、ありがたくお願いしておいた。
なお、トミーの奴はそれを憮然とした表情で見ていた。
どうやら自分が何も出来なかった相手を、ランク下位の僕達があっさりと撃退した事実が気に入らなかったらしい。
うーん、そんな子供みたいな態度をとられてもねぇ・・。
バッドウルフの収納と土壁のシェルターの撤収が完了した頃、今回の雇い主のメリル商会のメリルさんが僕に声を賭けてくる。
「いやあ、どうもありがとうございました。
あの数のバッドウルフが現れたときはもう駄目かと思いましたよ。
もし出会ったら普通に死を覚悟するレベルの魔物ですからね。
ところで、攻撃に使っていた変わった形の杖は何なのでしょうか?
あと、バッドウルフはどうやって収納されたのですか?」
「いえ、護衛は仕事ですからお礼には及びませんよ。
攻撃に使用していたのは土魔法の杖のような物ですね。
あと収納については魔導具を使っています。」
と端的に答えておく。
やはり商人、ショットガンと収納には食いついてきたね!
「その魔導具は何処かで購入できるのですか?」
「うーん、どうでしょうか。
私達はとある商会と契約していまして、魔導具の開発をお手伝いしているのです。
魔導具の提供を受ける代わりに、それらの使い勝手や改善点を報告する仕事をしているだけなんですよ。
申し訳ないんですが、その商会がこれらの道具を売り出すかどうかは僕達にはわからないんです。」
と答えておく。
話の内容はかなりごまかしているが、まあ嘘ではないから問題はないであろう。
「そうですか、残念ですな・・。
そのような便利な道具が販売されるなら是非とも購入したいものです・・。」
と残念そうな顔をしながら馬車へと戻っていった。
僕達を問い詰めたところで詳しい話はしないだろうと理解したのだろう。
時間を無駄にしないところもまた商人らしいね。
その後、トミーの合図のもと、馬車の隊列は歩みを再開した。
なお、僕が乗る馬車の御者さんには先程の対応について褒められた。
「冒険者をやってると予想外の敵に出くわすことが偶にあるんだが、
大体はさっきのトミーのように固まって何もできなくなってしまうもんだ。
でもお前さん達は若いのに大したもんだな。
状況を判断して冷静に対処できていた。
いい武器を持っていても動けなかったら意味はないからな。」
「ありがとうございます。
自分たちにできることを精一杯やっただけですよ。
それはともかく、さっきのバッドウルフってあんな大きな群れを作るものなのですか?」
「いや、通常は5頭程度、多くても10頭といったところだな。
あのボス狼はやたらと大きくて強そうだったから、いくつかの群れをまとめて一塊にしたんだろう。
最近、王都の周辺で危険な魔物がちらほらと出現しているようだから気をつけないといけないな。
ちょっと前に王都の北側でオーガも出たらしいぞ。
まあ、冒険者に討伐されたらしいけど。」
「そうらしいですね・・。」
うん、まあ僕達が倒しました、と言うほどのことでもないから黙っておこう。
その後も護衛の途中に御者さんがいろいろと情報を教えてくれた。
さっきのバッドウルフは毛皮が丈夫なのでわりといい値段で売れるらしい。
防具の素材としての需要が高いそうだ。
ちなみに肉は不味くて食べられたものではないので毛皮を剥いだらあとは捨てるとのこと。
ただ、毛皮が硬くて解体が大変なので、下手に解体するよりそのまま売り払ったほうが冒険者としてはコスパがよいそうだ。
うん、あの数のバッドウルフをどうやって解体しようかと思っていたのでいい情報が聞けたね。
どこかの街についたら、冒険者ギルドでサクッと売り払らおう。
女子高生達の食費の足しにでもなるといいのだけれど(汗)
◆◇
その後は何事もなく馬車は進み、再び街道沿いの開けた広場のような場所に到着する。
どうやらここが本日の野営地のようだ。
御者さん曰く、広場の近くには小川が流れており、水の確保も容易で水浴びもできるので、節約しながら旅をしたい商隊や冒険者達に人気の野営地らしい。
なお、依頼主のメリルさんは野営の支度は自分でする主義らしく、御者さん達もそれぞれ自分の支度だけすればいいらしい。
余計な気を使わなくてよいので楽だそうだ。
うむ、徹底して節約している感じがするが、嫌いではない。
自分の事を自分できっちりとするのは大事なことだからね。
雇い主だからといって偉ぶらないところは高評価だぞ。
「今日はここで野営だ!
各パーティーごと自分たちで支度しろ。
ただし、夜間の見張りを考えて馬車の近くで支度をするんだ!」
とトミーが相変わらず偉そうに指示を出す。
うん、どうやら先ほどの失態は彼の中では無かったことにしているようだ。
そんなトミーを『赤き剣撃』のパーティーメンバー達はなんとも言えない表情で見ている・・。
「あと夜間の護衛の順番を決めるから、各パーティーのリーダーはここに残るんだ!」
とトミーが言うので、僕は野営の支度を女子チームに任せてその場に残る。
ククとルルのパーティーからは姉であるククが残る。
「10時から朝6時までの時間帯を2時間ずつ4つに分ける。
11人いるから基本は3人一組で、1組だけ2人だ。
俺たち『赤き剣撃』のうち2人が10時から12時までの時間帯を担当する。
これは慣例であり、護衛を仕切るパーティーの特権だ。」
とおっしゃられる。
「はあ、そうなんですね。
ではあとの組み合わせはどうしますか?」
「うちの残りの2人と『新緑の精霊』に『炎狼小隊』から1名ずつ足して3名ずつのグループを作るんだ。
組み合わせと順番はお前たちに任せる。
俺たちのパーティからはナンシーとモニカを差し出すから適当に組み合わせてくれ。
ちなみに俺とレオンが10時からの担当だ。」
と言い残してトミーは去っていった。
どうやら自分が一番楽な時間帯を担当するらしい。
まあ、予想どおりだが。
さっきの戦闘で全く役に立たなかったので、自分たちが夜中の見張りにつきます、とはならないんだね。
まあ、言い争っても時間の無駄なのでさっさと野営の準備をしよう!
今夜も美味しいキャンプ飯を楽しむぞ!
◇◆
僕は皆のところに戻ると、見張りの件を伝える。
女子チームとクク・ルルは、「はあ・・」というリアクションであった。
まあ、そうなるよね。
僕もそう思うよ。
「まあこれも仕事だよ。
とりあえず野営の支度をしたら夕食にしよう。
今日は亜季ちゃんが狩ってくれた獲物を使って豪華なキャンプ料理にしよう!」
と提案する。
やはり仕事したあとはしっかり食べないとね!!
僕たちはまずテントと風呂・トイレを設置する。
それが終われば周囲を土壁で囲んでキャンプの設営は完了だ。
「このテントはとてもいいですね!
もしかしてこれが最近王都で噂になっている新しい製品ですか?」
とククが聞いてくる。
「うん、そうだよ。
最近売出し中の『8番格納庫』ブランドの製品さ。
僕たちが使っている食器セットや、いま着ている戦闘服もそうだよ。」
「え〜すごい!
最新の製品で全部そろえているなんて羨ましいです!
すごくお金がかかったんじゃないですか?」
「うーん、僕達は『8番格納庫』ブランドと契約しているので、最新の製品の提供を受けているんだよね。
なので販売価格はよく知らないんだ。」
「そうなんですね。
早く私達も皆さんと同じ製品を買いたいですね。
私達のテントはこんなのですから・・。」
と指さした先にはテントというよりは、タープと言ったほうがよいものがあった。
ただの布を木の棒で支えている感じだね。
その中に毛布を敷いているだけだ。
これがこの世界の標準みたいだけど、流石にこれでは野営はきつくないかな?
風も筒抜けだし、着替えもできないよね?
「じゃあ、これを使えばいいよ。」
と言って、アイテムボックスからテントを1セット、寝袋を2つ取り出してククとルルに手渡す。
「これはブランドから販売促進用のサンプルとして支給を受けたものなので、遠慮なく使ってくれていいよ。
テントは一応2人用だからルルと一緒に使えると思うよ。」
「え!こんな良いものを頂いていいのですか?
ご承知のとおり、何の対価もお支払いできないのですが・・・」
「ははは、お金なんていらないさ。
元々僕達もただでもらったものだしね。
あえて言うなら、製品を使った感想を僕達に教えてくれるかな?
ブランド側に伝えて製品の改善に反映してもらう必要があるからね。。
あと、もし製品を気に入ってくれたなら、知り合いの冒険者に宣伝してくれるとありがたいよ。」
「ありがとうございます!
大切に使わせていただきます!」
というと、テントと寝袋を大事そうに抱えてテントエリアに行くと、チャロン達に教えてもらいながら設営していた。
うん、初めて使用するククとルルでも問題なく設営できているようなので、販売用の製品としても問題なさそうだね。
「さあ、キャンプの設営が終わったらご飯の準備をしよう!
今日は人数が多いから鍋料理にしようかな。
作業割りは、チャロンとクク・ルルで獲物の解体、亜季ちゃんとアカネちゃんでご飯の準備、僕と楓ちゃんで火とおかずの準備をしよう!
チャロン達は今夜のおかずの分と明日の食事の分も含めてキジ、アナグマ、ノウサギの解体をお願いしてもいいかな?」
「「「「「「はい!」」」」」」」
と皆で作業にかかる。
ちなみに料理実施中の周囲の警戒は従魔達にお願いしてあるから安心だ。
今夜はキジ鍋とアナグマの肉を使った肉野菜炒めと定番の肉の串焼きにしよう!
女子チームが食材の準備をしている間に土魔法でかまどを作って火を熾す。
点火の魔道具があれば火熾しもラクラクだ。
鍋に放水の魔道具で水を張って火にかける。
お湯が湧くまでの間に野菜をサクサク切って準備する。
それが終わったら串焼きの準備も手早く片付ける。
一口大の大きさに鹿肉を切ったら、肉と野菜を交互に刺して、塩コショウをふったら準備完了だ。
今日はクク・ルルの2人がいるからいつもより多めに準備しよう。
ついでに僕の好みでウインナーの串焼きもたくさん準備しておく。
うん、この塩とハーブが効いたウインナーを焼くと美味しいんだよね!
僕達の隣では亜季ちゃんとアカネちゃんがお米を研いで水を吸収させている。
準備は順調だ!
鍋のお湯が湧いたタイミングでチャロンがキジのトリガラを持って来てくれたので、沸騰したお湯に放り込んでダシを取る。
アクを丁寧に取りながら煮込めばいい出汁が取れるはずだ!
長ネギと生姜と一緒にじっくり煮込みましょう。
そんなこんなで料理は順調に進み、ご飯は炊きあがってオコゲの香ばしい良い匂いが漂っている。
キジ鍋も野菜と肉がいい感じで煮えてきて美味しそうだ!。
肉も野菜もたっぷりだぞ!
さあここでもう一品だ!
僕は火にかけて温めたフライパンにオリーブオイルをひくとアナグマ肉の薄切りをさっと強火でさっと炒めて一度お皿に出す。
アナグマは脂身が多いけど甘みがあって美味しいのだ!
引き続きキャベツに玉ねぎ、人参、長ネギ、ニラ、モヤシをタップリ炒めてしんなりしたらアナグマ肉をフライパンに戻して仕上げにとりかかる。
塩コショウにショウユで味付けすると、ショウユと脂身の甘く焦げた匂いが漂って食欲を激しく刺激する!
うん、これは美味しそうだぞ!
最後に準備していた串焼きを火にかけたら夕食の準備は完了だ!
「さあみんな、お待ちかねの夕食だよ。
ご飯とおかずをよそってくれるかな?」
「「「「はい!」」」」「「わかりました!」」
という元気な返事と共に、皆でテキパキとご飯とおかずと鍋を取り分ける。
クク・ルルは食器を持っていなかったので、鍋セットの販促用を1セットずつ進呈しておいた。
かなり恐縮していたが、護衛中の食事のお手伝いと他の冒険者への宣伝でOKだよ、と先ほどのテントと同じ対価で手を打つ。
そんなことより早くご飯を食べないとね!
「さあ、みんな準備はOKかな?
いただきまーす!」
「「「「「「いただきまーす!」」」」」」
という女子チームの元気な掛け声と共に楽しい夕食の始まりだ!
「うーん、美味しいです!」
「肉野菜炒めヤバいです!」
「キジ鍋が優しい味付けで美味しいです!」
etc・・
と、早速料理を頬張った女子高生達の歓喜の声が周囲に広がる。
クク・ルルもあまりの美味しさに目を丸くして驚いている。
かなりの衝撃のようだ。
獣魔達もいつものとおり軽く焼いた肉や生肉を食べさせてもらっている。
ヤトノは僕達と同じメニューだけどね。
獣魔達は今日も大活躍だったからいっぱい食べるんだよ!
ふと土壁の周囲を見ると、『赤き剣撃』のトミーや、他の商隊、冒険者がチラチラとこちらのほうを見ていた。
美味しそうな匂いに釣られたのか、こちらの食事が気になるらしい。
申し訳ないが、分けてあげられるほどの量はないんだよね。
トミーは自分で食事の用意をするから問題ないだろう。
僕達にもそうしろって言ってたしね。
では僕もいただくとしよう。
キジ鍋は優しい薄味のスープだが、キジ肉の旨味が滲み出ていていくらでも食べられそうだ。
これはヤバい!
アナグマの肉野菜炒めは甘みのある脂身と焦げたショウユの組合せが絶品で、ご飯に乗せて食べるといくらでも食べれてしまいそうだ!
これもヤバいぞ、ご飯が進む!
しかも鹿肉やウインナーの串焼きも安定の旨さだ。
これもヤバい!
どんどん食べたくなるぞ!
気が付けば女子チームが一心不乱に旨い旨いと言って食べている。
クク・ルルも無言で食べまくっている。
どうやらここ最近は収入不足であまり食べれていなかったらしく、欠食気味だったようだ。
今は不足していた栄養を取り戻すが如く食べまくっている。
うん、まだまだ成長期だからね、お腹いっぱい食べるといいよ。
ご飯と鍋と串焼きをあらかた食べ終わったが、みんな若干物足りないようだ。
うん、ここは〆の麺類でもいっておくかな?
僕は鍋にお湯を沸かしてパスタの麺を茹でると、茹でた麺をキジ鍋の出汁の中に入れて火を通す。
そこにチーズを手で小さくちぎりながら加えれば、チーズリゾット風煮込みパスタの完成だ!
「さあ、みんな、〆のパスタだぞ!
キジの出汁が効いてて美味しいよ!」
と言いながら、皆の食器によそってあげる。
キジ出汁煮込みパスタを食べた女子チームは、
「ヤバイです・・」
と言い残すと、みんな無言で煮込みパスタを完食する。
そこに残されたのは満腹になって力尽きた女子チームと従魔達の姿であった。
正常なステータスを保っているのは僕とチャロンだけなのだが?
みんな今が護衛任務中だって事を忘れてないかい(汗)
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