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第106話 別れの決心

いつもご覧いただきありがとうございます。

 タク達が夕食会の誘いを受けた数時間前、その日の午前中にクレア王女は勇者達の状況について報告を受けていた。


 報告者はもちろんいつもの文官男女2名である。


 まあ、明らかにただの文官ではないのだが。



「王女殿下、勇者達の状況について報告します。」


「うむ、申せ。」


「まずはいつもの騎士と格闘戦士からでございます。

 この2人は相変わらず成長していません。

 といいますか、全く頭を使わないので技術の成長が見受けられません。

 しかも前回の活動経費の支給後にその日のうちに娼館で使い果たしてしまいました。

 そのせいで魔力の伸びも頭打ちです。

 今後の成長も期待できません。」


「そうであるか。

 やはり期待したほどではなかったということじゃな。

 せっかく良いスキルを引いたと思ったが残念じゃ。」


「心中お察しいたします。

 ただ、格闘戦士の方は、昨日開催された格闘技大会でそれなりに見せ場を作りましたので。

 今後も格闘技の世界である程度活躍できる見込みはあります。」


「その格闘技大会とは例のアレじゃな?

 交渉人スキル持ちの勇者が自分で設立した商会の宣伝のために開催するとか言っていたやつじゃな。」


「はい。大会自体は観客からの受けもよく、興行的にもかなり成功したようです。

 かく言う私も出場資格があったなら出てみたかったですな。」


「ふん、そちが出場したら実力差が圧倒的過ぎて勝負にならんではないか?」


「は、まさにそうなのですが、今回は選手の選定と試合の組み合わせが絶妙でして、これが大会の成功の要因かと存じます。

 あの交渉人の勇者はなかなかのしたたかさですな。」


「ふむ。最初はどうなることかと思ったが、意外に化けたということか。

 できることなら城の調達部の職員に取り込みたかったのじゃ。」


「左様ですな。

 ただ、今後も自身の商会である松戸屋で販売する商品はこの王城の各工房に製作を発注するようですので、我が方としても利益があるのでよいでしょう。

 まあそれもかの勇者の計算のうちでしょうな。」


「王城にも儲けさせてやるから独立を認めろということじゃな。

 流石は交渉人と言ったところかの。」


「は、流石は王女殿下、ご理解がお早くて私の報告が短くなって助かります。

 女子の勇者のうち、聖女と治癒士は王城の治療院で順調にスキルを成長させています。」


「うむ、良いことじゃ。

 聖女と治癒士はまだお世話係を選んでないのか?」


「はい。それとなく治療を受ける騎士団員や魔法士団員にアピールさせているのですが、なかなか興味を示さないようです。」


「引き続きアピールさせるのじゃ。

 できるだけ顔のいい者を選んでな。

 好きな男ができれば旅に出ずに王城に残ることを選択するかもしれんのじゃ。」


「はっ、善処します。

 錬金術師は引き続き訓練に励んでおります。

 最近は魔導具作りに本格的に取り組みたいと言って、王城内にある文献や既存の魔導具をいろいろと研究しているようです。

 元来物作りや研究が趣味のようであり、いまの生活が向いているようです。

 このままいけば王城に残るかもしれません。」


「ふむ、いいことじゃ。

 あとは好きな女子でもできればこの世界に残るであろう。

 見た感じ女にモテそうなタイプではなさそうじゃしな。

 城内に将来有望な錬金術師の勇者が結婚相手を探していると触れ回って誰かに立候補させて、希望者は優先的に錬金術士付きのメイドにするのじゃ。

 かいがいしく世話をしてやればそのうち情が湧いてお世話係に指名するじゃろう。」


「は、かしこまりました。

 あと、弓術士、斥候、テイマーの勇者はそれぞれ冒険者として活動し、順調に成長しているようです。

 ただその成長の速さが尋常ではなく、一昨日の時点で既にDランクにまでランクアップしております。」


「なんと、それは早すぎではないのか?」


「はい、王都のギルドで最速とのことです。」


「もしかして好きな男を選んで魔力の開放に大成功したとかなのか?」


「いえ、そうではありません。

 こちらも騎士団や魔法士団の若い団員にアピールさせていますが、こちらの世界の男には全く興味が無いらしく、ケンモホロロにあしらわれています。

 ただ、・・」


「ただ?、なんじゃ?」


「はい、この者達は例の勇者、お手伝いの勇者と常に行動を共にしております。

 かのお手伝いの勇者なのですが、スキルの名前とは裏腹に、魔物討伐でも活躍しており、

 先日は王都の北側に現れたオーガを倒したとのことです。

 この功績により先の女子達と合わせてDランク冒険者になっております。」


「なんと!オーガを倒したじゃと?」


「はい、いろいろと調査をした結果、何やら魔法や魔道具を使いこなしているようなのです。」


「魔法に加えて魔道具じゃと?

 いったいそんなものを何処で手に入れたのじゃ?」


「それはまだわかっておりません。

 ただ、昨日の格闘技大会の商品に魔道具が提供されております。

 その魔道具を提供したのが例の交渉人の勇者の商会です。

 交渉人は魔道具を別の商会から仕入れているようですが、その商会の代表として登録されている若い女が、どうやらお手伝いの勇者と関係がありそうだ、というところまでは分かっております。」


「それは怪しいのじゃ。

 もしかしたらお手伝いの男は魔道具を購入できる伝手があるのか?」


「かもしれません。もしくは・・」


「もしくは・・?」


「自分で魔道具を作る事ができるのかもしれませんな。」


「なんと! それはまことか?」


「何か証拠があるわけではありませんが、かの者は様々な服をデザインしたり、野営の道具を設計したりとなかなかの多才ぶりを発揮しております。

 しかも剣術、弓術、体術も習得しており、昨日の格闘技大会ではメインイベントの最終試合で見事な勝利を収めております。

 この多才ぶりを考慮すれば、魔道具を作れる可能性はあります。」


「ふむ、どこかで魔道具作りを学んだかもしれんということじゃな。」


「はい、そして自分で作った魔道具を自分の関係者を通じて交渉人の勇者に横流しして販売させているのかもしれません。」


「その魔道具を卸していると思われる商会の事は何かわからんのか?」


「はい、商業ギルドの情報管理が固く、商会や代表者の名前はわかりませんでした。

 ですが、代表者は白銀色の髪の若い女で、昨日の格闘技大会でお手伝いの勇者の傍にいた事は確認できています。」


「それは怪しいのじゃ。

 むしろその2人が関係しているのはほぼ確実じゃな。

 詳しい調査が必要じゃな。」


「左様ですな。

 つきましては、冒険者達をじっくりと再鑑定する事をおすすめします。」


「ふむ、そうじゃな。

 それがよいかもしれんな。

 でもどうやって鑑定するのじゃ。

 あまりあからさまに鑑定などするとかえって怪しまれるかもしれないのじゃ。」


「はい、私も同感です。

 つきましては王女殿下主催の夕食会を開催してはいかがでしょうか?

 来客用のホールには壁の裏側に見張り用の隠し部屋がありますから、そこに鑑定士を潜ませて鑑定させましょう。

 それに夕食を食べながら会話をすれば気分が良くなって何かしらポロッと情報を漏らすかもしれません。」


「うむ、よい考えじゃ。

 では早速準備するのじゃ。」


「御意。速やかに準備いたします。

 あ、1件報告を忘れておりました。

 魔法使い各種の勇者の件ですが、お世話係の少年のおかげで魔力の開放に成功し、今では「漆黒の大賢者」と呼ばれるまでに成長しました。」


「うむ、あの男色勇者か。

 男色で魔力開放に成功した例は初めて聞いたが、まあ結果が大事なのじゃ。

 そのお世話係といい仲なら、王城に留まるように画策して魔法士団の戦力にするように仕向けるのじゃ。」


「ははっ。」


 報告を終えた文官2名はクレア王女の執務室をあとにする。



 なお漆黒の大賢者の話になったときに女性文官が苦虫を噛み潰したような顔をしていたが、その理由が男色が嫌いなのか、はたまた男色が好物だがそれを気付かれないように振る舞っていたのは不明である。


 男性文官は女性文官に確認したい衝動に駆られたが、それを口に出すような愚を犯す事はなかった。


 何故なら彼は過去に彼女の機嫌を損ねた男たちが辿った末路をよく覚えているからである。


 この国の暗部で暗躍する者にとっては沈黙こそ金なのであった・・。


◇◆


 引き続き亜季ちゃんから念話が入る。


『タク先輩、いま聖が部屋にやってきて伝言を受けました。

 6時半からクレア王女主催の夕食会に招待されるとのことです。

 なお、食事会は召喚勇者だけで、お世話係は参加しなくてよいとのことです。』


『そうなんだね。

 このタイミングで何の前触れもなく夕食会に呼ばれるなんて、何か作為的なものを感じるよね。

 ところで服装というかドレスコードの連絡はあったかな?』


『いえ、特には連絡は無かったですが、流石に戦闘服というわけにもいかないですよね。』


『そうだね。

 じゃ、女子チームはハイカラさんスタイルでどうだい?

 日本じゃフォーマルでも通じる服装だしね。

 僕はせっかくなので今日もらった帝国陸軍風の制服を着ていくよ。

 一緒に大正ロマン風の組み合わせにするかい?』


『ええ、そうしましょう!

 でもチャロンさんが参加出来ないのに私たちだけ揃いの衣装で参加するのは申し訳ないですが・・。』


 と亜季ちゃんが言うと、


『大丈夫ですよ、アキさん!

 これから何度でもお出かけの機会はありますから。

 今日はせっかくの夕食会なので皆さんで楽しんできてください!』


 とチャロンが答える。


『ありがとうチャロン。

 でもクレア王女の狙いが分からないから用心するに越したことはないね。

 亜季ちゃん、皆にバッジの魔導具、治癒魔法のネックレス、念話の魔導具を忘れずに着用してくるように伝えておいてくれるかな?

 無いとは思うけど悪意ある行為に対応できるようにしておこう。』


『わかりました!

 伝えておきます!

 では6時15分になったら1階のロビーに集合しましょう。

 また後で。』


 と言って、僕達は念話の通信を切る。


 さあ、準備をしなきゃね。


 あ、でもその前にステータスを確認しておこう。

 もしこそっと鑑定されて、僕のスキルの秘密がばれてはいけないからね。


「チャロン、出かける前にステータスを確認しておくよ。

 もし何か大事な情報が増えていたら困るしね。」


「そのほうがいいですね。

 ぜひ確認しておきましょう!」


 僕は「ステータス」と唱える。

 なんか久しぶのような気がするが、まあよしとしよう。


 さて、ステータスに変化はあるかな?



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

・名前(年齢):七条 拓(21歳)

・種族:人属

・レベル:4

・スキル(メイン):お手伝い

・スキル(メイン)の効果:

 他人の仕事を見よう見まねで手伝うことができる。

 スキルの無い人よりちょっと早く仕事のコツを掴める。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

(補足説明) 

 (変化無し。省略)

(サブスキル)

・【鑑定系】:「目利き(上級)」

・【生活魔法系】:「点火」「点灯」「洗浄」「放水」「乾燥」

         「汚れ除去」「吹き付け」「吸引」「氷結」

         「氷粒」「土いじり」「石粒」「空気研磨」

         「防音」

・【弓術系】:「弓術(特級)」

       「魔力誘導(特級)」

       「測距(特級)」

       「照準補正(特級)」

・【射撃系】:「拳銃射撃(初級)」(←New)

・【テイマー系】:「テイマー(特級)」

         「生き物係(動物園級)(←UP)」

         「感覚共有[マルチ](上級)(←UP)」

         「念話(上級)」(←UP)

・【料理系】:「解体(小型)」「焼き加減」「揚げ物」

       「鍋奉行(中級)」

       「キャンプ飯(中級)」

・【剣士系】:「片手剣士(上級)(←UP)、

       「侍(中級)」

・【生産系】:「デザイナー(特級)」「型取士(中級)」

       「お針子(上級)」(←UP)

       「革細工(上級)」(←ダブルUP)

       「武器作成(各種)(中級)」

       「魔道具作成(特級)」

・【錬金術系】:「物体作成(上級)」

        「物質生成(初級)」

        「薬品作成(見習い)」

        「付与魔法(特級)」

・【魔法使い系】:魔法使い(各種)(中級)(←UP)

・【便利系】  :アイテムボックス(特級)(←UP)

・【格闘戦士系】:総合格闘技(中級)(←UP)

・【治癒魔法系】:「治療(中級)」「治癒(中級)」

         「解毒(中級)」

         「回復(中級)」「避妊(初級)」

・【光魔法系】:「浄化(中級)」(←UP)

・【闇魔法系】:「ゴーレム作成(初級)」(←New)

        「光反射操作(初級)」(←New)

・【斥候系】:「投擲(初級)」「罠設置・解除(初級)」

       「気配察知(中級)」

       「気配遮断(初級)」「認識阻害(初級)」

       「地図作成(中級)」

・【交渉人系】:「番頭心得」(←UP)

(称号)

・ハンバーガー勇者

・物忘れ勇者

・賄い勇者

・夜の勇者

・コスプレデザイナー

・オーガキラー(←New)

・歴戦の戦士(←New)

・ASYURAファイター(←New)

・✕✕使い

・蛇使い (←解除)

・ZZ使い

(主要な魔道具)

・皮のポーチ(空間魔法1,000L)

・洋弓「タクカスタム」(上級)

(従魔)

・スノー(種族✕✕✕)

・ヤトノ(種族 黒蛇族(白))

・クロロ(種族ZZZ)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 



 うん、総じて言うと、相変わらず使った分だけ、学んだ分だけスキルが増えたり成長したりしているね。


 生産系スキルが成長しているのがうれしいね。

 ポーチづくりに精を出したからね(汗)


 闇魔法系も新規に増えているぞ。

 

 ゴーレム作成はとても楽しみだね!

 もしかしたら僕も2足歩行ロボット風のゴーレムを作れる日がやってくるのだろうか!?


 光反射操作を使えば、もしかして光学迷彩を使えたりするのかな?

 これは是非試してみなければ!


 それにしても、この称号とやらには納得がいかないぞ。


「オーガキラー」と言われてもですね、そりゃオーガは強い魔物かもしれませんが、称号がつくほどのものでもないでしょう?

 ドラゴンじゃあるまいし。


 これはズンダを試合で倒したということでネタ的な感じで付与されていませんか??


 あと、「歴戦の戦士」にも納得がいかないよね。

 これってタトゥーモドキが歴戦の勇者っぽく見えるだけじゃないの?

 格闘技大会の声援がそのまま称号になってないですか??


 しかも「ASYURAファイター」って、これって称号というよりは職業でいいんじゃないですか?

 これからケン君が更に格闘技大会ASYURAを発展させてくれると思うから、近い将来にプロの格闘家が生まれるかもしれないよ!



 相変わらずステータスにはツッコミどころが多いけど、鑑定で他者から見れる1ページ目の部分には変化はなかったから、まあよしとしよう。


 これであれば鑑定されても僕は只のしがないお手伝いだからね!


◆◇


 ステータスをひとしきり確認した僕は帝国陸軍風制服に着替えてチャロンと従魔達と一緒にロビーに向かう。


 せっかくなので少しでも大正ロマン風の雰囲気を味わおうと、チャロンにもハイカラさんスタイルに着替えてもらっている。


 うん、よく似合っているぞ!


 ロビーに着くとマモル君以外は既に集合していた。


 亜季ちゃん達もハイカラさんスタイルがよく似合っている!



 しかも聖ちゃんと萌ちゃんもハイカラさんスタイルにしたらしい。

 2人とももちろんよく似合っている。


 やはり日本人には日本の服がよく似合うね!



「やあ、みんなハイカラさんスタイルがよく似合っているよ。」


「ふふふ、モデルがいいですからね。

 タク先輩もよく似合ってますよ。

 チャロンさんと並んでいるとまさに大正ロマン風です。」


「タク先輩とチャロンさん、とても素敵です!

 元の世界で流行っていた漫画の主人公のようですよ!」


 と聖ちゃんも声をかけてくれる。


「ありがとう、聖ちゃん。

 聖ちゃんもよく似合ってるよ。

 聖女様スタイルもいいけど、ハイカラさんスタイルもよく似合うね。」


 と社交辞令ではなく本心から答えておく。

 だって実際によく似合っているしね!


「ああ、やっぱり私の初めてはタク先輩に・・・」


 と聖ちゃんがよくわからない事をつぶやいているがそっとしておこう。

 女の子にはきっといろんな事情があるんだろうしね。


 おっt,亜季ちゃんはどうしてそんなにジトっとした眼で僕をみるのかな?(汗)


「それにしても流石は服飾工房だね。

 イメージ通りに元の世界の服を作ってくれてありがたいよ。

 ところでマモル君はまだかい?」



「・・、はい、我孫子のやつはどうやらアイル君とお取り込み中のようで。

 ちょっと遅れるかもしれません。」



 と亜季ちゃんが言ったところで、マモル君とアイル君がやって来た。


 アイル君が赤い顔でハァハァ言っているのは、時間に間に合わせようと走って来ただけではなさそうだ・・。


 ここは何も言わずに生暖かく見守っておこう。


 まあ亜季ちゃんはマモル君をゴキブリを見るような目つきで見ているが(汗)


「皆さん、お揃いですかね?

 では夕食会場にご案内しましょう。」


 と言いながら、何処からか音もなく男性文官が現れて僕たちの案内を開始する。


 この人絶対に只者じゃないだろう(汗)



 男性文官に案内されるまま、僕たちは夕食会場に向かって移動する。


 なお、チャロンとアイル君は従魔達と一緒に夕食にでかけて行った。


 今日は屋外勤務者用の食堂で肉食パーリーらしい。


 僕もそっちが良かったよ(汗)


◆◇


 男性文官に連れられてやって来た王城の本館の夕食会場は、王族がゲストとの食事会に使用する豪華な部屋であった。


 部屋のセンターに置かれた長いダイニングテーブルに人数分の食器が並べられている。


 席順はいわゆるお誕生日席にクレア王女の席があり、そこに近い順に女子、男子の順で配席されている。


 ちなみにクレア王女の左前に聖ちゃん、その対面に亜季ちゃん。

 聖ちゃんの左隣がケン君、その向かいが僕となっている。

 僕と亜季ちゃんが隣同士だ。


 亜希ちゃんが何やら嬉しそうな顔をして、聖ちゃんにドヤっているように感じるのだが、気の所為だろうか?


 僕の右隣がアカネちゃんでその対面が楓ちゃん。

 楓ちゃんの隣が萌ちゃんで、その対面がレン君。


 最後にマモル君、ダイ君、ゴウ君という順番である。

 ちなみにゴウ君だけ対面が不在だ。


 まあ、召喚勇者は11人だからどうしてもそうなっちゃうよね。



 並び方には何かしら意図があるのだろうが、とりあえずマモル君とゴウ君とダイ君をクレア王女から引き離したい事はよくわかった。


 ゴウ君は相変わらず顔がパンパンに腫れていて誰かわからないしね(汗)


 聖ちゃんは皆の代表としてクレア王女の側に配置されたのだろう。


 その直近に僕とケン君と亜季ちゃんが配置されたのには、クレア王女が自らいろいろと聞き出そうとする意図を感じるね。


 これは魔道具について探りを入れてくるつもりに違いない。


 要警戒だね(汗)



 僕たちが席に就いたところで、


「クレア王女殿下が入室されます!」


 と部屋の入口の近衛騎士が合図をする。


 僕たちはその場で起立して王女を出迎える。


 特に指示されてないけれど、その辺りはまあ常識の範囲で対応だね。


 自分の席の前に着いたクレア王女は


「みんな苦しゅうないのじゃ。

 楽に席について欲しいのじゃ。」


 と僕たちに声をかける。



「ありがとうございます。」


 と聖ちゃんが皆を代表して返事をしてから僕たちは席につく。


「今日は急な招待で申し訳なかったのじゃ。

 担当スタッフから召喚勇者の皆が精力的に訓練を重ねて順調に成長していると聞いたので、慰労の夕食会を開催することにしたのじゃ。

 皆揃って来てくれて妾も嬉しいのじゃ。」


 とクレア王女が挨拶する。

 

 それに対して聖ちゃんが、


「ご招待ありがとうございます。

 謹んでご厚意を受けさせていただきます。」


 と皆を代表してお礼の挨拶をする。


 ケン君がさもありなん、的な顔で頷いているところを見ると、僕が知らないだけでもしかしたら決まったやり取りがあるのかな?


 双方の挨拶が終わると、早速料理が運ばれてくる。


 どうやら今日はコース料理のようだ。


 食前酒に前菜から始まり、パンにスープにメインディッシュへと料理が進んでいく。

 

 この世界は成人年齢が早いので、現役高校生の召喚勇者達も飲酒して問題ないらしい。


 今日のメインは暴れ黒牛のフィレステーキとのことだ。


 うん、とてもよい肉だね!


 しかもいい焼き加減で、ソースの味付けも良くて美味しいぞ!


 

 食事中は主に聖ちゃんとケン君が王女様の話の相手をする。


 話の内容は料理のこととか、普段の生活の話とか当たり障りのない内容である。


 うん、軽くジャブを打ってきている感じかな?



 それにしても流石は交渉人のケン君だ。

 話を合わせるのが上手い。


 王族相手でも失礼にならない程度に軽く冗談をはさみながら騒がしくない程度に会話を弾ませていく。


 うん、王女の相手はこの2人に任せておこう。

 僕と亜季ちゃんは食べる方をメインに頑張るとしよう(笑)


 ぱっと見た感じ、部屋の中にいるスタッフさんに怪しい人はいないのだが、時折誰かにじっと見られている気がするぞ。


 もしかしたら物陰に隠れてこちらの様子を伺っているのか、あるいは内緒で鑑定しているのかもしれないな。


「気配察知」を発動して様子を伺ってみると、僕の後方から人の気配を感じるぞ。

 気配に動きが無いからジッと立っている感じのようだ。



 僕は亜季ちゃんに念話で、


『亜季ちゃん、僕の後方からずっとこちらの様子を伺う人の気配を感じるんだけど、僕の後ろに誰かいるかわかるい?』


 と話しかける。


 亜季ちゃんは袴の裾を確認するふりをしてちらりと後ろを振り返ると、


『タク先輩、後ろには誰も彼もいませんよ。

 壁に絵画が飾ってあるだけですね。』



『了解だよ、もしかしたら壁の向こう側に誰かいるのかもしれないね。

 鑑定士がこちらの鑑定をしているかもね。』


『なんと、こそっと様子を伺うとは小狡いやり方ですね。

 私の弩弓が手元にあれば壁ごと撃ち抜いてやるところです。』


『ははは、流石に王城内での武器使用はまずいよ。

 まあ、鑑定くらい好きにさせておけばいいさ。

 それより次はデザートのようだよ。』


 念話で話をしているうちに最後のデザートのフルーツ盛り合わせが運ばれてきた。


 なかなか美味しそうだぞ!


 せっかくなのでしっかりと頂いておこう。


 明日からは護衛の仕事で野営が続くから、新鮮なフルーツは食べれないかもしれないからね!


◆◇


 デザートを食べ終わったところで最後のお紅茶が出てきた。


 これで終わりだといいなと思っていたが、そうは問屋が卸さないようだ。



 食事が終わってティータイムとなったところでクレア王女がグリグリと質問タイムを開始する。


「勇者ケンよ、そなたが開催した格闘技大会は盛況であったらしいな。

 王城にも噂が届いているのじゃ。」


「はい、おかげさまで無事にイベントを開催できました。

 王城のスタッフの皆さんにご支援を頂いたおかげですね。

 あとはこちらのタク先輩の鮮やかな勝利のおかげで大盛りあがりでしたよ。」


「ふむ、勇者タクよ。そなたの話も聞いておるぞ。

 何でも剣術と弓術に加えて体術も得意だとか。

 そなたのスキルはお手伝いだったはずじゃが、何故そのように多才なのじゃ?」


 おお!いきなり本題に切り込んできたね!

 やはりスキルの秘密を探ろうとしているのかな?

 

 ここは予め準備していた回答で乗り切ろう。


「お答えします、王女殿下。

 実は剣術などは元の世界で子供の頃から習っていたのです。

 こちらの世界でも訓練をしましたので多少は上達しましたが。

 なのでこちらの世界で得たスキルとはあまり関係ないのですよ。」


「ふむ・・。お手伝いというスキルは知る限り初めてなのじゃが、何かスキルのおかげで得たものはあるのか?」


 おっと、あからさまに聞いてきたね(汗)


 ここも華麗に乗り切ろう。


「はい。こちらに来てから掃除に洗濯、狩りに行った際の獲物の処理などを経験しましたが、それらはスキルのおかげもあって上達が早いようです。

 ただ、スキルについては変化は見られませんね。」


 うん、鑑定で見える表向きのスキルには変化はないからね。

 決して嘘はついていないぞ!


「ふむ。じゃが王都の冒険者ギルドでは、そちはオーガキラーと呼ばれておるそうではないか?

 スキルの成長もないならオーガを倒すなど難しいと思うのじゃが?」


 おお!そんなことまで知っているのか?

 これはかなり身辺調査を実施していると思って間違いないね(汗)


「あれは私だけでなく、他の勇者メンバーと協力した結果です。

 オーガを倒したと言っても決して楽な闘いでは無かったのですよ。

 むしろこちらも危なかったのです。」


「なるほどの・・。ところで勇者ケンよ。

 此度の格闘技大会の賞品に魔道具が提供されたとの噂を聞いたのじゃが、それはまことなのか?」


「はい、それは本当です。王女殿下。

 たまたま魔道具を卸している商会と知り合う事ができまして、私の商会で取り扱いを始めたところなのですよ。」


「王都で魔道具を卸している商会など聞いた事がないのじゃが、どこの商会なのじゃ?」


「さあ、どこからやって来られた商会かは存じていないのですよ。

 遠くのほうから来たとだけは仰っていましたが。

 魔道具を売りたいけど、この王都では販路がないとのことでしたので、私の商会で宣伝と販売をお手伝いすることになったのです。」


「その商会が魔道具を作っておるのか?」


「いえ、取り扱っているとは言っていましたが、自分で作っているかどうかはわかりません。

 といいますか、それは商会の秘密でしょうから、こちらからもあえて確認してないのですよ。

 まあ私の商会、松戸屋としましては、よく売れる商品を゙正規のルートで仕入れる事ができればそれで十分ですからね。」


「・・確かにそうじゃの。

 その魔道具はもう販売するのか?」


「はい、本日から第1回販売を開始しまして、商人向けの分はおかげさまで全て売り切れました。

 明日は冒険者ギルドで冒険者向けの販売を実施する予定です。

 そんなに数はありませんので、きっとすぐに売り切れるでしょう。」


「販売が盛況で何よりといったところか。」


「そうですね。それにタク先輩のデザインした洋服や道具の注文もたくさん入ってきていますので、そちらの売上も期待できますね。」


「うむ、その話は聞いておるのじゃ。

 そちの商会から王城の各工房に製作を発注しておるそうじゃな。

 城の財務長官も収益が増えると言って喜んでおったのじゃ。」


「各工房には大変お世話になっております。

 引き続きよろしくお願いいたします。」


 とケン君が魔道具の話から、服と道具の話に上手く切り替えてくれたぞ!

 さすがは交渉人、空気を呼んで話の流れを変えるのが上手い!


「ふむ、それは問題ないのじゃ。

 お互いに利益のある話じゃからな。

 ところで勇者タクよ、そちは服やデザインだけではなく、料理も得意だと聞いておるぞよ。

 既に食堂の人気メニューになっているらしいではないか。

 料理もスキルの恩恵とは関係ないのか?」


 おっと!またまた探りを入れてきたぞ!

 やはり僕が何かを隠していないか気になるようだね(笑)


 まあここは正直に答えておこう。

 事実だから問題ないしね。


「はい、基本的には関係ないですね。

 実は私は元の世界では料理を習ったり、食堂で働いたりしていましたので、その時の知識を活かしてこちらでも料理をしているだけです。

 ただ、料理をする度に手際が良くなるのを感じますので、そのあたりはスキルの効果かもしれませんね。」


「ふむ、そうか・・。

 スキルの効果はあまり無いということじゃな・・

 ただ、スキルの効果が無くてもそれだけ多才なのであれば、この城のスタッフとして働いてみる気はないか?

 そちの元の世界での知識と技能を活かして働いてくれれば、城の各工房がより発展すると思うのじゃ。

 そうすれば勇者ケンの商会の利益も増えるであろうし、そち達にとってもよい話だと思うのじゃ。」


 おお! ついに来ました!

 王女様からのスカウトですよ!

 やはり予想通りだね!

 

 僕が魔道具の供給元かもしれない可能性を含めて取り込みに来たった感じかな?


 しかもケン君も巻き込んで取り込もうとするあたりがしたたかである。


 これはもう、この国が僕達召喚勇者を都合良く使おうとする気マンマンである事を王女自身が暴露したって感じだよね(汗)


 そんな都合好く使われる気は全く無いのでズバッと断ってもいいのだが、そうするとこの場の空気が冷えてしまうからね(汗)


 ここはやんわりとお断りしておこう。


 一応は僕達の慰労の夕食会なので、その程度の気は僕だって使えるのだ。


「お言葉をありがとうございます、王女殿下。

 私のような者に王女殿下自らお声掛けを頂き大変恐縮です。

 しかしながら、私と仲間達は召喚当初に与えられた、この世界を旅して回るという任務にも大変興味がありまして、今は旅に向けて日々訓練を実施中のところです。

 今後の事は訓練終了後に決めたいと思っているのです。」


「ふむ・・。それもそうじゃな。

 訓練期間はあと10日ほど残っていると思うが、その間に先程の話も考えてくれるとありがたいのじゃ。」


「承知しました、クレア王女殿下。」


「うむ、よろしく頼むぞ。」


 と言って、クレア王女はお茶を口にすると、僕のスキルについての話を止めた。

 


 ふう、どうやらこれ以上は追求してこないようだ。

 あまり深入りして僕に警戒されても困ると思ったのかな?

 

 まあ、こちらにとってはいろいろ聞かれないほうが都合が良いので、余計なことを言うのはやめておこう。


 その後は当たり障りのない会話で無事に夕食会が終了した。


 聖ちゃんを筆頭に皆で丁寧にお礼を述べたあと、僕達は夕食会場をお暇する。


 さあ、別館に戻って明日からの出発の準備をしないとね!



 これ以上このお城にいると、王室に都合よくこき使われる未来しか見えなくなってきたよ。

 早く旅にで出てこの国と決別しなければ!



 僕は念話を使って亜希ちゃん達と明日の準備について語り合いつつ別館の自分の部屋に戻る。

 

 夕食は美味しかったけど、いろいろと気疲れしちゃったね(汗)


 早くチャロン達と合流して癒やされたいよ(汗)


最後までご覧いただきありがとうございました。

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引き続きよろしくお願いいたします。

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